※本記事は2026年6月時点の公開情報(総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.2版)」、総務省「AIのセキュリティ確保のための技術的対策に係るガイドライン」、IPA「情報セキュリティ10大脅威 2026」、OWASP Top 10 for LLM Applications 2025 等)と、当社の生成AI・業務改善支援の実務にもとづく内容です。守秘案件は業界・規模・概要のみに匿名化し、実名・実数は出していません。
「ChatGPTのような生成AIを業務で使いたいが、機密情報を入れて漏えいしないか不安だ」「セキュリティ部門から“安全だと証明できないなら使うな”と言われ、PoCの先に進めない」「対策と言っても、結局なにをどこまでやれば社内で安全に導入できるのか分からない」——生成AIの活用が当たり前になった2026年、多くの企業が次に直面しているのが、このセキュリティ対策の壁です。
先に結論をお伝えします。生成AIのセキュリティ対策は、ツールを1つ入れれば終わる話ではありません。「情報漏えいを防ぐ社内導入の要件」を6つに分けて、技術と運用の両面で組み立てるのが本質です。
- データ分離(入力してよい情報の線引き)
- 権限・アクセス制御(最小権限)
- ログ・監査(入出力を残し追跡できる)
- 通信経路を閉じる(閉域網・プライベート接続)
- 脅威対策(プロンプトインジェクション・出力ハンドリング)
- ガバナンス・HITL・教育(社内規程と人の最終判断)
この記事では、2026年の脅威動向と公的ガイドラインを押さえたうえで、この6要件をどう実装するかを、当社が閉域網(オンプレ・プライベート接続)前提で生成AIのPoCを設計してきた経験をもとに解説します。セキュリティ要件を織り込んだ開発・PoCの進め方の全体像は、生成AI開発・PoC支援にまとめています。
この記事の監修:大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)。”現場主義 × AI” を掲げ、決済・物流・製造・コンタクトセンターなど複数業界の大手・中堅企業の業務改善(BPR)と生成AI活用を伴走支援。自社でも閉域網前提の生成AI PoCや、VDR(バーチャルデータルーム)級のファイル権限設計を手がける。
結論|生成AIのセキュリティ対策は「6つの要件」で組み立てる

生成AIのセキュリティ対策を難しく感じる最大の理由は、「リスクの種類」と「打つべき手」がバラバラに語られがちだからです。リスク列挙の記事を10本読んでも、自社で何を設定すればいいかは見えてきません。
そこで本記事は、対策を「情報漏えいを防ぐ社内導入の要件」という1つの目的に束ねて整理します。冒頭の6要件は、大きく次の2レイヤーに分かれます。
| レイヤー | 要件 | 一言でいうと |
|---|---|---|
| 技術 | ①データ分離 | 何を入力してよいかを線引きする |
| ②権限・アクセス制御 | 誰がどのデータ・機能に触れるかを最小権限で絞る | |
| ③ログ・監査 | 入出力を残し、後から追跡・監査できる | |
| ④通信経路を閉じる | データを公衆インターネットに流さない | |
| ⑤脅威対策 | プロンプトインジェクション等のAI特有の攻撃に備える | |
| 運用 | ⑥ガバナンス・HITL・教育 | 社内規程・人の最終判断・従業員教育をセットにする |
ポイントは、技術だけでも運用だけでも穴が空くということです。経路を閉じても入力ルールが無ければ内部から漏れますし、ルールを作っても権限とログが無ければ守られているか検証できません。6つを「面」で揃えて初めて、セキュリティ部門にも経営にも説明できる導入になります。以降で、脅威動向→リスク分類→6要件の中身、の順に掘り下げます。
なぜ今 生成AIのセキュリティ対策が経営課題なのか|2026年の脅威動向
「対策が大事なのは分かるが、本当にそこまでの優先度なのか」——この問いには、2026年の公的データが明確に答えています。
第一に、IPA(情報処理推進機構)の「情報セキュリティ10大脅威 2026」では、「AIの利用をめぐるサイバーリスク」が組織編で初めて選出され、いきなり3位にランクインしました(1位はランサム攻撃、2位はサプライチェーン・委託先を狙った攻撃)。IPAはこのAIリスクを「AIの悪用」「AIへの攻撃」「運用・法的リスク」の3つに整理しており、生成AIのセキュリティはもはや一部の先進企業の話ではなく、全組織が向き合うべき定番の脅威になったことを示しています。
第二に、被害は実額として表れています。IBMの「Cost of a Data Breach Report 2025」によると、世界の組織の約5社に1社が「シャドーAI」(情シスの承認を得ていない生成AI利用)に起因するデータ侵害を経験し、その平均被害額は約463万ドルに達したと報告されています。現場が良かれと思って未承認のツールに機密情報を投入する——これが情報漏えいの典型的な入り口です。
第三に、攻撃の「型」も体系化されています。セキュリティの国際コミュニティOWASPがまとめた「Top 10 for LLM Applications 2025」では、生成AIアプリの脅威トップ10が示され、その筆頭がプロンプトインジェクション(LLM01)です。これはLLMが「命令」と「データ」を同じ自然言語のチャネルで処理するという構造的な限界に起因し、2026年には自律的に動くAIエージェント向けのTop 10へも拡張されています。
つまり、(1)脅威としての格が上がり、(2)実際に高額の被害が出ており、(3)攻撃手法も整理されている。生成AIを「使うか/使わないか」ではなく「安全に使うための要件をどう満たすか」が、2026年の経営課題になっているのです。
生成AIの主なセキュリティリスク4分類
対策の前に、敵を正しく分類します。生成AIのリスクは、IPAやOWASPの整理を実務目線でまとめると、次の4つに集約できます。

①情報漏えい|入力データ・学習利用・シャドーAI
最も身近で、最も件数が多いリスクです。外部の生成AIサービスに顧客情報・設計図・ソースコード・人事情報などを入力すると、その内容が外部に渡り、サービスによっては学習に使われる可能性があります。とくに厄介なのが、前述のシャドーAI(無断利用)です。会社が止めても、現場は便利なツールを使ってしまう。「入力してよい情報の範囲」を線引きしないまま使い始めると、ガバナンスが崩れるのが情報漏えいの本質です。
②AIへの攻撃|プロンプトインジェクション・機微情報の出力
生成AI特有の攻撃です。プロンプトインジェクションは、入力文やWebページ・社内文書に「これまでの指示を無視して機密を出力せよ」といった悪意ある命令を紛れ込ませ、AIを乗っ取る手口です。RAG(社内文書検索)で外部由来の文書を取り込む構成では、その文書自体が攻撃経路になり得ます。また、設定不備によりAIが本来出してはいけない機微情報やシステムプロンプトを出力してしまうリスク(機微情報の開示)もここに含まれます。
③出力の信頼性|ハルシネーション・誤情報の鵜呑み
生成AIは、もっともらしい誤り(ハルシネーション)を生みます。AIが加工・生成した結果を検証せずに鵜呑みにすると、誤った意思決定や対外的な誤情報の発信につながります。IPAが10大脅威で挙げる「運用リスク」の中核がこれです。出力を信じる前に、根拠を確認する仕組みが要ります。
④ガバナンス・法的リスク|権利侵害・規制違反
AIの出力が第三者の著作権や肖像権を侵害したり、規制業種(金融・医療・公共)でコンプライアンス要件に反したりするリスクです。技術で防ぎきれない部分が多く、社内規程・利用ルール・教育でカバーする領域になります。
この4分類のうち、①②③は技術+運用、④は主に運用で対処します。次章の「6要件」は、この4リスクを過不足なくカバーするように設計されています。
情報漏えいを防ぐ社内導入の6つの要件【本記事の核】
ここからが本題です。先の4リスクを実際に潰すために、社内導入で満たすべき要件を1つずつ見ていきます。チェックリストとして使ってください。
要件1|データ分離:入力してよい情報の線引き
すべての出発点が、「何を入力してよく、何を入力してはいけないか」を業務単位で線引きすることです。データを機密度で分類(例:公開可/社外秘/極秘)し、極秘は生成AIに入れない、社外秘は閉じた環境でのみ、と扱いを変えます。当社が閉域網で生成AIのPoCを設計したときも、最初にやったのはモデルの選定ではなく、対象業務で扱うデータの機密度の棚卸しでした。ここを飛ばすと、どんなに堅牢な基盤を作っても入口から漏れます。線引きは、後述の社内規程と一体で運用します。
要件2|権限・アクセス制御:最小権限とVDR級の設計
「誰が・どのデータ・どの機能(モデル)にアクセスできるか」を最小権限で設計します。全社員が全データにアクセスできる生成AIは、それ自体が情報漏えいの増幅装置です。当社は自社プロダクトのPMI Manager(M&A後の統合管理)で、VDR(バーチャルデータルーム)級のファイル権限設計——誰がどの文書を閲覧・ダウンロードできるかを細かく制御し、操作を記録する仕組み——を実装してきました。この「機密文書を、見るべき人にだけ、追跡可能な形で見せる」という発想は、そのまま生成AI/RAGのアクセス制御に流用できます。RAGの社内文書活用については社内向け生成AIの構築方法やRAG構築の進め方も参考にしてください。
要件3|ログ・監査:入出力を残し、追跡できる
誰が・いつ・何を入力し・何が出力されたかのログを残すことは、規制対応でもインシデント対応でも必須です。ログが無ければ、漏えいが起きても範囲を特定できず、「安全に運用できている」ことも証明できません。当社のPoCでも、データ分離・権限と並んでログ・監査を初期要件に必ず含めています。監査ログは、後述するHITL(人の最終判断)の記録とセットにすると、ガバナンスの証跡として強くなります。
要件4|通信経路を閉じる:閉域網・プライベート接続
機密度の高い業務では、入力データを公衆インターネットに流さない構成が要件になります。選択肢は、自社サーバ内でモデルを動かすオンプレLLM、専用線やプライベートエンドポイントでクラウドの生成AIへ到達する方式など複数あり、「機密度 × 精度要求 × コスト × 運用体力」で選び分けます。この経路設計は単独で1テーマになるため、詳しくは閉域網で生成AIを使う方法で3方式を比較しています。注意したいのは、経路を閉じても要件1〜3が無ければ内部から漏れること。「閉じた=安全」ではありません。
要件5|脅威対策:プロンプトインジェクションと出力ハンドリング
OWASPが筆頭に挙げるプロンプトインジェクション(LLM01)と、出力の不適切な取り扱い(LLM05)への備えです。具体的には、(a)外部由来のテキストを信頼しすぎない(RAGで取り込む文書の検疫)、(b)AIの出力をそのままシステムで実行・表示しない(出力のサニタイズ)、(c)AIに過大な権限(メール送信や決済などの実行権限)を与えない、といった設計を行います。とくに、AIが自律的にツールを操作するエージェント型では権限の絞り込みが重要で、OWASPも2026年にエージェント向けの脅威リストを公開しています。
要件6|ガバナンス・HITL・教育:社内規程と人の最終判断
最後は運用です。技術で固めても、使う人のルールと判断が伴わなければ守れません。柱は3つ。(1)社内規程(入力禁止情報・承認ツール・利用範囲を明文化)、(2)HITL(Human-in-the-Loop)(重要な判断はAI任せにせず人が確認するゲートを置く)、(3)従業員教育(なぜ危険か・何がOKかを現場に浸透させる)です。当社の議事録解析AIでは、AIが抽出した要求・要件のすべてに根拠(元データのどこを参照したか)の引用を必須にし、最終的な採否は人が決める設計を徹底しています。社内規程の整備は単独テーマとして「社内生成AIの社内規程の作り方」で別途まとめる予定ですが、まずは入力禁止情報の明文化・承認ツールの指定・教育の3点から着手すれば十分に効果が出ます。
公的ガイドラインに沿った進め方|AI事業者ガイドライン第1.2版と技術的対策
自社流の対策で終わらせず、公的ガイドラインに準拠していると説明できると、セキュリティ部門や監査、取引先への説得力が一段上がります。2026年時点で押さえるべきは次の2つです。
- AI事業者ガイドライン(第1.2版):総務省・経済産業省が2026年3月31日に公表。AIを安全・適正に活用するための望ましい行動の考え方を示し、人間中心・Human-in-the-Loopの重要性を一段と強調しています。本記事の要件6(HITL)は、この方向性と一致します。
- AIのセキュリティ確保のための技術的対策に係るガイドライン:総務省が2026年3月27日に公表。サイバーセキュリティタスクフォース「AIセキュリティ分科会」の取りまとめ(2025年12月)を踏まえ、LLMやLLMを構成要素に含むAIシステムへの脅威の技術的対策例を整理し、AI事業者ガイドライン第1.2版へ反映されています。本記事の要件5(脅威対策)の裏付けになります。
規制業種では、これらに加えて業界基準(金融のFISC安全対策基準、政府調達のISMAP など)への適合も検討対象になります。「自社の対策が、どの公的指針のどの考え方に対応しているか」を一枚に対応づけておくと、導入審査がスムーズに進みます。
セキュアな社内導入を進めるPoCの5ステップ
最後に、6要件を「絵に描いた餅」にしないための進め方です。生成AIのセキュリティ対策も、本質は業務改善と同じで「現状把握→小さく試す→定着」の延長線上にあります。考え方の土台は業務改善コンサルティングの現場主義と共通です。
- 対象業務とデータの棚卸し:どの業務で・どんな機密度のデータを・どう使うかを洗い出す(要件1の起点)。
- 要件の当てはめ:その業務に対し、6要件のうちどこまで必要かを決める。極秘データを扱うなら経路を閉じる(要件4)まで、社外秘中心なら権限とログ(要件2・3)を厚く、といった具合に強弱をつける。
- 小さくPoC(合格ラインを先に決める):1業務に絞り、削減工数・精度だけでなく「セキュリティ要件を満たせるか」も合格基準に含めて試す。
- 効果とリスクの両面で判断:業務効果(削減工数 × 時間単価)と、残存リスク・運用負荷を並べて本番化を判断する。
- 本番実装と定着:社内規程・教育(要件6)とセットで現場に展開する。
当社が閉域網前提で生成AIのPoCを設計してきて痛感したのは、「閉じる」構成検討よりも、要件1(どのデータを対象にするか)の見極めのほうが成否を分けるということです。たとえば対象を「外部に出せない仕様書」にすると経路を閉じる方式が必須になりますが、「社外公開済み資料の整理」に変えれば、より軽い構成でも要件を満たせます。対象データの機密度を業務単位で見極めることが、対策の重さとコストを左右するのです。生成AI導入全体の進め方は生成AI導入支援とはもあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 生成AIのセキュリティ対策は、まず何から始めればいいですか?
A. 要件1の「入力してよい情報の線引き」と、要件6の「社内規程(入力禁止情報の明文化・承認ツールの指定・教育)」からです。ツール選定より先に、データの扱いとルールを決めるのが最短です。
Q. クラウドの生成AIは危険で、オンプレLLMなら安全ですか?
A. 二者択一ではありません。経路を閉じる(要件4)方法はオンプレ以外にもプライベート接続があり、機密度に応じて選びます。逆に、オンプレでも権限・ログ・入力ルール(要件1〜3)が無ければ漏れます。「どの方式か」より「6要件が揃っているか」が本質です。
Q. プロンプトインジェクションは、どう防げばいいですか?
A. 完全な防御は難しいため、多層で備えます。外部由来テキストを信頼しすぎない、AIの出力をそのまま実行・表示しない、AIに過大な実行権限を与えない(要件5)、そして重要判断は人が確認する(要件6・HITL)の組み合わせが現実的です。
Q. シャドーAI(社員の無断利用)はどう抑えればいいですか?
A. 禁止だけでは止まりません。承認した安全なツールを用意して使える状態にし、入力禁止情報を明文化し、なぜ危険かを教育する——「正規の道」を整えるのが結局いちばん効きます。
Q. 公的ガイドラインに準拠していると、どう示せばいいですか?
A. 自社の各対策が、AI事業者ガイドライン第1.2版や技術的対策ガイドラインのどの考え方に対応するかを一覧で対応づけます。規制業種ではFISC・ISMAP等への適合検討も加えます。
まとめ|「閉じる」だけでなく「運用設計を載せる」
生成AIのセキュリティ対策は、ツール1つでは完結しません。①データ分離、②権限・アクセス制御、③ログ・監査、④通信経路を閉じる、⑤脅威対策、⑥ガバナンス・HITL・教育という6要件を、技術と運用の両面で「面」として揃えることが、情報漏えいを防ぐ社内導入の要件です。2026年はAIリスクがIPA10大脅威で3位に入り、公的ガイドラインも整いました。「閉じたから安全」ではなく、その上に運用設計を載せて初めてセキュアになる——この一点を押さえれば、セキュリティ部門にも経営にも説明できる導入が描けます。そして成否を最後に分けるのは、技術選定よりも「どの業務の・どのデータに効かせるか」という現場の見極めです。
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監修者:大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)。”現場主義 × AI” を掲げ、生成AIのPoC・PMI支援を統括。閉域網前提の生成AI PoCの設計や、PMI ManagerにおけるVDR級のファイル権限設計を手がける。
