「図面に書かれた型番を目で追ってExcelに打ち込む」「取引先ごとにバラバラの注文書から品番を拾って社内コードに照合する」——製造業や商社のバックオフィスでは、こうした型番・品番の抽出と転記が毎日のように発生します。地味で、神経を使い、ミスが許されない。けれど人手でやり続けるには重すぎる。
結論から言えば、この作業は 型番抽出 AI=AI-OCRで読む→抽出で型番を切り出す→社内マスタと照合する→確信度の低いものだけ人が確認する という4つの工程に分解すれば、かなりの部分を自動化できます。ただし、型番は英数字と記号が混じった文字列で、AIが最も苦手とする対象でもあります。「全部AIに任せる」のではなく「人の確認を残す」設計にできるかどうかが、成功と失敗の分かれ目です。
この記事では、私たちキュリオシティが製造・商社のバックオフィスで実際に型番抽出 AIのPoC(実証実験)を回してきた知見をもとに、何が大変で、どう自動化し、精度をどう上げ、どう小さく始め、費用と落とし穴は何か、を順に解説します。
結論:型番抽出AIは「OCR→抽出→照合→人の確認」の4工程で自動化できる
型番抽出AIとは(製造・商社の事務での定義)
ここで言う型番抽出AIとは、図面・仕様書・注文書・見積書・メール本文・Excelといった「型番が書かれている書類」から、型番や品番だけを自動で読み取り、社内の品目マスタと突き合わせて、システムやExcelに転記するAIの仕組みを指します。
単なる文字認識(OCR)だけではありません。OCRはあくまで「画像を文字にする」段階。そこから「どれが型番なのかを切り出し(抽出)」「社内の正式な品番に変換する(照合)」までをワンセットで行ってはじめて、事務の現場で使える自動化になります。
まず結論:全置換でなく「人の確認を残す」設計が正解
最初に強調しておきたいのは、型番抽出AIは「人を完全に置き換える」ツールではないということです。
図面のAI-OCR活用を実際に試した株式会社ASAHI Accounting Robot 研究所のレポートでも、「精度は100%ではないため、運用する際は、最終的に一度人の目で確認が必須である」と明記されています(出典:asahi-robo.jp)。型番のように「1文字違えば別物」になるデータでは、この前提は特に重要です。
私たちのPoCでも、狙うのは「人をゼロにする」ことではなく、「100件の照合のうち、機械が自信を持って処理できる大半を自動化し、残りの怪しい一部だけに人の目を集中させる」という設計でした。これが、現場主義 × AIで型番抽出を自動化するときの基本姿勢です。
現場で分かったこと(自社PoC・匿名化)
私たちが製造・商社のバックオフィスで「型番抽出AI」のPoCを回したとき、まず痛感したのは「最初から全件は当たらない」ことでした。とくに当初つまずいたのは、(1) 取引先ごとに注文書の書式が違い「型番が書かれる欄」が一定しない、(2) 同じ品物が「ハイフンあり/なし」「全角/半角」で書かれ別物として弾かれる、(3) 図面に手書きで追記された型番がOCRで崩れる——の3パターン。逆に言えば、この3つに辞書とルールで対処した瞬間に、自動で処理できる割合がはっきり伸びました。効果のレンジは業務や書式の揃い具合で大きく変わりますが、「特定の取引先・特定の書式に絞れば、人が目視する件数を数割の単位で減らせる」という手応えは、業界・規模を問わず共通して得られています(具体的な企業名・実数は伏せ、レンジ感のみお伝えしています)。
このように、型番抽出AIは「導入した初日に完成する」ものではなく、最初の取りこぼしを材料に育てていくものだと捉えるのが現実的です。
なぜ型番の抽出・転記はこんなに大変なのか
自動化を考える前に、「そもそも何がそんなに大変なのか」を分解しておきましょう。理由は大きく4つあります。

入力がバラバラ(図面・PDF・画像・Excel・メールの混在)
一つ目は、入力フォーマットがそろっていないこと。同じ「型番」でも、ある取引先はPDFの注文書で、別の取引先はExcel添付で、さらに別の担当者はメール本文に直接書いてくる。図面の片隅に手書きで書かれていることもあります。
注文書から型番を抽出する生成AIのPoCに取り組んだ藤井翔吾氏(株式会社YOZBOSHI 代表)も、課題の筆頭に「PDF/画像/Excelの混在」を挙げています(出典:note.com)。入口がバラバラだと、人は毎回「この書類はどこを見ればいいか」を判断し直すことになり、ここで時間と集中力を消耗します。
型番は英数字・記号混在でOCR泣かせ(1とl、Zと2、ハイフン)
二つ目が、型番という文字列そのものの難しさです。型番は「AB-1234」「M6×20」のように、英字・数字・記号が混在します。これがOCRにとって最大の難所です。
AI-OCRでくずした手書き文字を読ませる検証に挑んだパーソルクロステクノロジーのエンジニアは、「Z(ゼット)と2(ニ)は線1本で構成されていて、シンプルだからこそ一番難しい」「1(イチ)とl(エル)と/(スラッシュ)は、すべて線1本で構成されている記号で、特徴がないから」誤認識しやすいと語っています。結論として「複雑な漢字よりも『1とl』のほうが読み取るのが難しい」とも(出典:staff.persol-xtech.co.jp)。
漢字より、むしろシンプルな英数字記号のほうが間違えやすい——これは型番抽出の現場感覚とぴたり一致します。「0とO」「1とl/I」「Zと2」「ハイフンと長音記号」といった見分けにくいペアが、型番にはふんだんに含まれているのです。
表記ゆれと社名ゆれ、そしてマスタ照合の壁
三つ目は、書類に書かれた型番と社内マスタの型番が一致しないこと。同じ品物でも、取引先は取引先の呼び方で書いてきます。前述のYOZBOSHIのPoCでも、「名称に含まれる型番(例:AB-1234)を『型番』へ分離」する処理や、「『三井金属』『三井金属株式会社』『Mitsui…』『K.K.』を辞書で同一名にそろえる」社名正規化が必要だったと報告されています。
つまり、読み取った文字列をそのまま転記しても使えず、社内の正式な品番(社内コード)へ翻訳(照合)する工程が要る。共立コンピューターサービスのAI-OCR連携でも「社内コードと取引先コードのマスタを登録するだけで、表記揺れを吸収して自動変換」「商品名を…商品コードに自動で置き換え」「『コーヒー → CM-0001』のような紐づけも自動」とされています(出典:okb-kcs.co.jp)。マスタ照合こそが、型番抽出AIの心臓部です。
担当者しか分からない「暗黙知」になっている
四つ目は、判断が属人化していること。「この取引先のこの書式なら、この欄が型番」「この略記はあの品番のこと」——こうしたルールがベテランの頭の中にしかなく、引き継ぎも難しい。これは型番抽出に限らず、製造・商社のバックオフィス共通の課題です(関連:業務改善の事例集(可視化からAI活用まで))。
AIでどう自動化するか:処理フロー4ステップ
では、これらの困りごとをAIでどう解くのか。型番抽出AIの処理フローは、次の4ステップに分解できます。

①AI-OCRで読む → ②抽出で型番を切り出す → ③マスタ照合 → ④人の確認
① AI-OCRで読む:まず図面やPDF、画像を文字データに変換します。ここでは「読み取る領域」と「読み取る文字の種類」を指定できると精度が上がります。ASAHIのレポートでも「読み取る文字の種類(ひらがな、漢字、アルファベット、数字など)を選択できるため、高精度で読み取りが可能」と述べられています。
② 抽出で型番を切り出す:読み取った文字の中から「どれが型番か」を判定して切り出します。ここで生成AIや抽出AIが効きます。「名称+型番」が混ざった文字列から型番だけを分離する、といった処理です。
③ マスタ照合:切り出した型番を、社内の品目マスタと突き合わせ、正式な社内コードに変換します。表記ゆれは辞書・マスタで吸収します。
④ 人の確認(HITL):確信度(AIがどれだけ自信を持っているか)が低いものだけを人に回します。スマートOCRの事例でも「商品コードや数量、納期などの重要項目を正確に抽出し、発注トラブルを防止」「表記ゆれの補正が可能」とされており、最後の砦として人の確認を組み込むのが定石です(出典:smartocr.jp)。
RAGはどこで効くか(型番マスタ・過去案件・仕様書の参照)
「型番マスタが巨大で、単純な突き合わせでは追いつかない」「過去の似た注文や仕様書を参照して判断したい」という場合に有効なのがRAG(検索拡張生成)です。RAGを使うと、AIが社内の型番マスタ・過去案件・仕様書を検索して根拠にしながら、型番の候補を提示できます。RAGの仕組みと進め方はRAG構築の進め方で詳しく解説しています。
図面が相手なら「図面に強いAI-OCR」を選ぶ
入力が図面の場合は、帳票向けのOCRと分けて考えると失敗が減ります。BREXA Technologyは「手書き図面の読み取りや、劣化した古い図面の解析では精度差が大きく、AI-OCRの優位性が際立ちます」とし、「部品番号の識別、材料情報の取得…を自動化」できるとしています(同社の比較に基づく主張)。アイサイトのD-QUICKも「帳票から図面番号を自動抽出し、該当図面と自動でリンク」する活用を紹介しています。自社の入力が図面中心か、注文書中心かで、選ぶべきAI-OCRは変わります。
精度を上げる勘所(ここで差がつく)
「導入したのに使い物にならなかった」という失敗の多くは、精度を上げる工夫が足りないことに起因します。勘所は3つです。
読取領域を絞る・文字種を指定する
型番が書かれる位置がだいたい決まっているなら、読み取る領域をその欄に絞るだけで誤認識は大きく減ります。さらに「この欄は英数字のみ」と文字種を指定すれば、漢字やひらがなと取り違えるミスを防げます。前述のとおり、読取領域と文字種の指定は精度向上の基本テクニックです。
AI-OCRの認識率について、アイサイトのD-QUICKは「活字の帳票で92%以上、手書き帳票でも80%以上の認識率を達成しているケースが多く」と紹介しています(出典:d-quick.i-site.co.jp)。あくまで「ケースが多い」という水準感であって、自社の書類で同じ精度が出る保証ではありません。だからこそ、次に述べる「人の確認」をセットにする前提が欠かせません。
表記ゆれは「辞書・マスタで正規化」して吸収する
「Mitsui/三井金属/三井金属株式会社」を同一とみなす——こうした正規化は、AIに丸投げするのではなく、辞書とマスタで明示的にルール化したほうが安定します。最初は小さな辞書でも、運用しながら例外を追加していくことで、表記ゆれにどんどん強くなります。
確信度で振り分け、低いものだけ人に回す
最も費用対効果が高いのが、確信度による自動振り分けです。AIが「これは間違いない」と判断したものはそのまま転記し、「自信がない」ものだけを人の確認キューに送る。ASAHIのレポートでも「精度が低い項目はセルに色付けして可視化」する工夫が紹介されています。全件を人が見るのではなく、怪しいものだけを見る——この設計が、現場の負荷を劇的に下げます。
PoCの進め方:小さく始めて精度を育てる
型番抽出AIは、いきなり全社展開するのではなく、小さなPoC(実証実験)から始めるのが鉄則です。
対象を1つに絞り、少量データ・撤退基準・HITLで始める
私たちが推奨するPoCの始め方は次の4点です。
- 対象業務を1つに絞る:「A社の注文書からの型番抽出」など、書式と業務を1つに限定する。最初から全取引先を狙わない。
- 少量データで試す:数十〜百件程度の実データで、まず「どれくらい当たるか」を測る。
- 撤退基準を決めておく:「この精度・このコストに届かなければやめる」を先に決める。ずるずる続けないための安全弁です。
- 人の確認(HITL)を最初から組み込む:PoCの段階から「人がどこを見るか」を設計に入れておく。
生成AI導入そのものの進め方は生成AI導入支援とはで体系的に整理しています。開発・PoCの伴走支援の内容は生成AI開発・PoC支援にまとめています。
自動化→レビュー→修正→ルール更新のループ
PoCで精度を育てる中心になるのが、「自動化→レビュー→修正→ルール更新」のループです。YOZBOSHIのPoCでも「自動化→レビュー→修正→ルール更新のループで精度を上げる」「人は差分と例外に集中する」というアプローチが取られています。
最初から100点を目指す必要はありません。回すたびに辞書やルールが太り、人が確認する件数が減っていく。この「育てる」感覚を持てるかどうかが、型番抽出AIを定着させられるかの分かれ目です。
ツールを選ぶときの3つの観点
「で、結局どのツール/サービスを選べばいいのか」という問いには、製品名で答える前に、次の3観点で自社の要件を整理することをおすすめします。製品比較はその後で十分です。
- 自社の入力に強いか:図面中心なら図面に強いAI-OCR、注文書中心なら帳票・表に強いものを。手書きが多いなら手書き対応の実績を確認する。
- 社内マスタと連携できるか:型番抽出の心臓部は照合です。社内コードへの変換・表記ゆれ吸収を、辞書やマスタ登録で実現できるかを必ず見る。
- 確信度で振り分けられるか:自動転記と人の確認を分ける仕組み(確信度の表示・低確信度のフラグ立て)があるか。これが無いと「全件目視」に逆戻りします。
この3点を満たすかどうかで、現場で使えるかが決まります。価格やUIの比較は、この要件を満たした候補の中で行えば十分です。
費用感と落とし穴
最後に、費用の考え方と、よくある失敗を整理します。
費用の考え方(4つの要素で見積もる)
型番抽出AIの費用は、おおまかに次の4要素で構成されます。金額はツールや規模で大きく変わるため、ここでは考え方の枠組みとして捉えてください(具体額は対象業務・件数・連携範囲によります)。
| 費用要素 | 中身 | コストの効きどころ |
|---|---|---|
| AI-OCR | 画像・PDFを文字化(多くは件数や枚数の従量) | 処理量に比例。読取領域を絞ると無駄が減る |
| 抽出・照合 | 型番の切り出しとマスタ照合 | マスタ整備の初期工数がここに乗る |
| システム連携 | 既存の販売管理・基幹システムへの転記 | 連携先が多いほど初期費用が増える |
| 運用・保守 | 辞書/ルールの更新、確認担当の運用 | 「育てる」前提で見込んでおく |
PoC段階では、まず①AI-OCRと②抽出・照合の最小構成で効果を測り、効果が確認できてから③連携や全社展開に投資する、という順番が安全です。
やりがちな失敗5つ
- いきなり全自動を狙う:確信度の低いものまで自動転記し、誤った型番が流れて手戻りが増える。
- マスタ整備を後回しにする:照合の心臓部である品目マスタが汚いと、いくらOCRが当たっても使えない。
- 撤退基準を決めない:精度が伸びないまま投資が膨らむ。
- 現場のベテランを巻き込まない:属人化したルールを吸い上げないと、辞書が育たない。
- 数字の検証を人に渡さない:型番の1文字違いは致命的。最後の確認を省いてはいけない。
製造・商社のバックオフィスを丸ごと見直す視点は、社内向けに生成AIを構築する観点とも重なります(関連:社内向け生成AIの構築方法)。
まとめ:型番抽出は「育てるAI」。小さく始めて確実に効かせる
型番抽出AIは、OCRで読む→抽出で切り出す→マスタで照合する→人が最後に確認するという4工程に分解すれば、製造・商社の事務を確実に軽くできます。鍵は、(1) 型番は英数字記号混在でOCRが苦手と心得ること、(2) 表記ゆれはマスタ・辞書で吸収すること、(3) 確信度で振り分けて人は例外に集中すること、(4) 小さなPoCから「育てる」こと——この4点です。
「自社の型番抽出を、どこから・どの業務で試すか」を具体化したい方へ。キュリオシティでは、最小コストで効果を測るための「生成AI PoC企画テンプレート」を無料で配布しています。対象業務の絞り込み・撤退基準・KPI設計までを1枚で設計できます。
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監修:大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)。現場主義 × AIを掲げ、製造・商社をはじめとする企業の生成AI・PoC・PMI支援を統括。
