特性要因図とは、結果(特性)に影響していそうな要因を「魚の骨」の形に整理し、原因を漏れなく洗い出すためのQC手法です。 石川馨博士が考案し、QC7つ道具の1つに数えられます。
「対策を打っているのに、同じトラブルが減らない」——業務改善の現場に入ると、必ずこの相談を受けます。原因を尋ねると、たいてい返ってくるのは「担当者の確認不足」。しかし本当の要因は、フォーマットの不備・情報の受け渡し・仕組みの動線など、人以外のところに散らばっていることがほとんどです。
そこで役立つのが特性要因図(フィッシュボーン図)です。この記事では、公的に確立された基本の型を正確に押さえたうえで、私たちが業務改善(BPR)の現場で使っている「水平に広げる特性要因図 × 垂直に掘るなぜなぜ分析」の役割分担まで、匿名事例を交えて一気通貫で解説します。
特性要因図(フィッシュボーン図)とは?なぜ「魚の骨」の形なのか
特性要因図とは、ある結果(特性)に対して、その原因となりうる要因を魚の骨のように枝分かれさせて描き、要因を網羅的に整理する図です。形が魚の骨に似ていることから「フィッシュボーン図」とも呼ばれます。
考案したのは、日本の品質管理の父とも呼ばれる石川馨博士です。そのため英語では「Ishikawa Diagram(石川ダイアグラム)」とも呼ばれます。ヒストグラムやパレート図などと並ぶQC7つ道具の1つで、製造業の品質管理から生まれましたが、現在はソフトウェア開発・マーケティング・間接部門の業務改善まで幅広く使われています(参考:カイゼンベース「特性要因図の使い方」)。
ここで押さえておきたいのは、特性要因図は「原因分析」ではなく「要因分析」のツールだという点です。いきなり真犯人(真因)を1つに決めるのではなく、「考えられる要因を、視野を広げて漏れなく出し切る」ことが目的です。原因を1本に絞り込むのは、この後の工程(なぜなぜ分析など)の役割です。
特性要因図は何でできている?(特性・背骨・大骨・小骨)
特性要因図は「特性(頭)」「背骨」「大骨」「中骨・小骨」の4つのパーツでできています。 魚のイラストに当てはめると構造がすぐ理解できます。
| パーツ | 位置 | 役割 | 例(請求書発行の遅延) |
|---|---|---|---|
| 特性 | 魚の頭(右端) | 解決したい結果・問題 | 「請求書の発行が締切に間に合わない」 |
| 背骨 | 頭に向かう横線 | 特性へ向かう軸 | 中央の太い矢印 |
| 大骨 | 背骨から出る太い枝 | 主要な要因のカテゴリ | 人/方法/情報/仕組み |
| 中骨・小骨 | 大骨から出る細い枝 | 具体的な要因 | 「入力ルールが人により違う」等 |
ポイントは、特性(頭)を具体的に書くことです。「ミスが多い」ではなく「◯◯の入力ミスが月◯件」のように、誰が見ても同じ絵を思い浮かべられる粒度にすると、要因が具体的に出やすくなります。これは業務可視化のやり方で解説している「事実ベースで書く」原則と同じです。
特性要因図の書き方は?5ステップで解説
特性要因図は「①特性を決める→②背骨を引く→③大骨(切り口)を置く→④小骨で要因を出す→⑤重要要因を絞る」の5ステップで書きます。
- 特性(テーマ)を決める … 右端に、解決したい問題を具体的に書く。1枚につき1テーマに絞る。
- 背骨を引く … 特性へ向かう太い横矢印を引く。
- 大骨(要因の切り口)を置く … 4Mなど(次章)のカテゴリを3〜6本、背骨に斜めにつなぐ。切り口を先に決めると、視点の偏りを防げる。
- 中骨・小骨で要因を出す … 各大骨について「なぜそうなる?」を一段だけ広げ、思いつく要因を書き足す。ここは質より量。ブレストで数を出す。
- 重要要因を絞る … 出そろった要因のうち、影響が大きく手を打てそうなものに印を付ける(○や◎)。ここで初めて「原因候補」に絞り込む。
ステップ4までは「広げる」、ステップ5で「絞る」——この順番を守るのが最大のコツです。最初から絞ろうとすると、真っ先に思いついた要因(多くは「人のミス」)に引っ張られ、視野が狭くなります。
要因の切り口「4M」とは?大骨に何を置けばいい?
4Mとは、要因を洗い出すときの代表的な切り口で、Man(人)・Machine(機械)・Material(材料)・Method(方法)の4つの頭文字です。 大骨に何を置けばいいか迷ったら、まずこの4Mから始めます。
| 切り口 | 製造現場での意味 | 事務・間接部門への読み替え |
|---|---|---|
| Man(人) | 作業者のスキル・体調 | 担当者のスキル差・教育・引き継ぎ |
| Machine(機械) | 設備・治具 | システム・ツール・端末 |
| Material(材料) | 部品・原料 | 入力データ・元資料・情報 |
| Method(方法) | 作業手順 | 業務フロー・ルール・チェック体制 |
製造業では、これに Measurement(測定)・Environment(環境)を足した5M+1Eもよく使われます。一方で経理・総務・営業事務などの間接業務では、4Mを機械的に当てはめるより、「人・方法・情報・仕組み」のように現場の言葉へ読み替えたほうが要因が出やすい、というのが私たちの実感です。切り口は「漏れなく広い視点を確保するための足場」であって、埋めること自体が目的ではありません。
特性要因図は何で描く?(手書き・Excel・PowerPoint・専用ツール)
特性要因図は、手書き・Excel・PowerPoint・作図ツールのいずれでも描けます。最初は手書きかホワイトボードで十分で、共有・再利用の段階でExcelやPowerPointに清書するのが実務的です。
| 手段 | 向いている場面 | 補足 |
|---|---|---|
| 手書き・ホワイトボード | 最初のブレスト(複数人で一気に要因を出す) | スピード優先。まずはここから始めるのが正解 |
| Excel | 要因を一覧・分類して後で集計したい | 図形機能で骨を描く。要因リストと相性が良い |
| PowerPoint | 報告書・提案書に清書して共有したい | SmartArtや図形で見栄えよく整えられる |
| 専用作図ツール | 大人数で同時編集・テンプレを使い回したい | Web上で共同編集できるものが多い |
ツール選びで悩む必要はありません。大事なのは「きれいな図」ではなく「要因を漏れなく出すこと」です。凝った作図に時間をかけるより、まず手を動かして枝を増やすことを優先してください。清書のフォーマットが必要な場合は、後述の業務棚卸しテンプレートと合わせて社内で型化しておくと、毎回ゼロから作らずに済みます。
特性要因図となぜなぜ分析はどう使い分ける?
特性要因図は要因を”水平に広く”洗い出すツール、なぜなぜ分析は絞った要因を”垂直に深く”掘るツールです。競合ではなく、順番に使う補完関係にあります。
| 観点 | 特性要因図 | なぜなぜ分析 |
|---|---|---|
| 目的 | 要因を漏れなく洗い出す(要因分析) | 真因を1つに突き止める(原因分析) |
| 方向 | 水平に広げる(面) | 垂直に掘る(線) |
| 扱う材料 | 推測される要因もOK | 事実で因果を証明できるものだけ |
| 得意な場面 | 原因の見当がつかない/視野を広げたい | 要因が絞れて深掘りしたい |
| 進め方 | ブレストで大骨・小骨を埋める | 「なぜ?」を3〜5回繰り返す |
(参考:Fleekdrive「特性要因図となぜなぜ分析の違い」)
実務では、特性要因図で全体像を面で捉え → 影響の大きい大骨を2〜3本選び → その先をなぜなぜ分析で掘る、という流れが最も効きます。いきなりなぜなぜ分析を始めると、最初に選んだ1本の枝だけを深掘りして「他の要因を見落とす」リスクがあるからです。なぜなぜ分析そのものの手順はなぜなぜ分析のやり方で詳しく解説しています。
業務改善で特性要因図を活かすコツは?(現場の一次情報)
業務改善で特性要因図を活かすコツは、「特性を具体的な業務トラブルに置くこと」と「人の大骨を肥大させず、方法・情報・仕組みの枝を必ず埋めること」の2点です。
私たちキュリオシティが業務改善(BPR)で使っているのは、「業務カルテ17軸で可視化 → 特性要因図で要因を面で洗い出し → なぜなぜ分析で真因まで掘る」という3段の型です。特性要因図は、この真ん中で「視野を広げる」役割を担います。現場で経験した匿名事例を2つ紹介します。
- 事例A(数十名規模のSES企業・バックオフィス):「請求書の発行が締切に間に合わない」を特性に置き、4Mを「人・方法・情報・仕組み」に読み替えて20超の小骨を洗い出しました。最初は「担当者が忙しいから(人)」に集中しがちでしたが、大骨を強制的に4本にしたことで、洗い出した小骨20超のうち、およそ7割が「方法(入力ルールの属人化)」と「情報(他部署からの連絡遅れ)」に集中していることが可視化されました(比率は匿名化のための概数)。人を責めても解決しない問題だと、全員が同じ絵で納得できたのが最大の効果です。
- 事例B(製造業の間接部門):「日報の記入漏れ」を特性に置いたところ、要因が「方法(フォーマットが複雑)」と「仕組み(入力の動線が悪い)」に集まりました。個人への注意喚起では動かず、フォーマット簡素化という構造の打ち手に切り替えられたのは、要因を面で見たからです。
このように、特性要因図は「犯人探し」を「仕組みの問題探し」に変える装置になります。洗い出した要因を改善施策に落とす流れは業務改善の進め方5ステップにまとめています。
特性要因図でやりがちな失敗は?
最も多い失敗は「特性が抽象的」「人の大骨だけが肥大」「作って終わり(絞り込み・検証をしない)」の3つです。
- 特性が抽象的:「品質が悪い」「効率が悪い」では要因が出ません。数値や場面まで具体化する。
- 人の大骨だけ肥大:責任追及の空気になると「人」の枝ばかり伸びます。方法・情報・仕組みの枝を意図的に埋めましょう。
- 作って終わり:要因を出したら満足してしまう。図はゴールではなく、重要要因を絞り→なぜなぜ分析で検証し→打ち手に落とすまでがワンセットです。
- 1枚に詰め込みすぎ:テーマを盛ると枝が絡まります。1枚1テーマが鉄則。
要因を出しても改善が進まないと感じる場合、多くは「洗い出し」から「打ち手」への接続が抜けています。ここは自己流で止まりやすい工程なので、外部の視点を入れるのも有効です(業務改善コンサルティング)。
まとめ
特性要因図(フィッシュボーン図)は、結果に影響する要因を魚の骨状に整理し、視野を広げて漏れなく洗い出すQC手法です。書き方は「①特性→②背骨→③大骨(4M)→④小骨→⑤絞り込み」の5ステップ。ポイントは、ステップ4まで広げ、ステップ5で絞ること。そして、絞った要因はなぜなぜ分析で垂直に掘って真因まで到達させる——この役割分担が、業務改善の成否を分けます。
「要因は出せたが、どこから手を付ければいいか分からない」段階までいけば、改善は半分進んだも同然です。まずは自社の業務を、正確に棚卸しするところから始めてみてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 特性要因図とフィッシュボーン図は違うものですか?
A. 同じものです。特性要因図が魚の骨に似た形になることから、フィッシュボーン図(Fishbone Diagram)や、考案者にちなんで石川ダイアグラムとも呼ばれます。
Q. 大骨(要因の切り口)は必ず4Mにしないといけませんか?
A. いいえ。4Mはあくまで代表的な足場です。製造現場なら5M+1E、事務・サービス系なら「人・方法・情報・仕組み」など、対象業務に合わせて読み替えて構いません。大事なのは、視点が偏らないよう切り口を先に決めておくことです。
Q. 特性要因図となぜなぜ分析はどちらを使えばいいですか?
A. 原因の見当がつかず視野を広げたいときは特性要因図、要因が絞れていて深く掘りたいときはなぜなぜ分析です。実務では「特性要因図で広げてから、重要な枝をなぜなぜ分析で掘る」と両方を順に使うのが効果的です。
Q. 一人でも作れますか?チームでやるべきですか?
A. 一人でも作れますが、要因の網羅性はチームで出したほうが高まります。特に「人」に偏らせないためにも、複数部署のメンバーでブレストしながら埋めるのがおすすめです。
業務の棚卸しから始めたい方へ(無料テンプレート)
特性要因図の「特性」を具体的に書くには、まず自社の業務が正確に見えていることが前提です。どの業務で・どんなトラブルが・どれくらい起きているかを洗い出すために、キュリオシティの「業務棚卸しテンプレート」を無料で配布しています。要因分析の一歩手前を整えるのに使えます。
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監修:大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)。中小・中堅企業の業務改善(BPR)/PMI/生成AI導入を、現場主義×AIの視点で支援。
