2026.10.14

業務改善

システムベンダーの選定方法|評価表と失敗しない比較の進め方

※本記事は、当社が上流コンサル・PMOとして参加したコンタクトセンター刷新の提案(匿名・2026年6月時点)で作成した比較資料と、公的な調達資料にもとづきます。紹介するのは導入結果ではなく、提案時点の判断です。

ベンダー選定は「必須条件→RFI→RFP→評価→契約」の5段階で進め、評価表は足切り・重み付け・妥協点の3層で作ります。

「A案でいいのでは」。ある提案の取りまとめで、この一言に誰もうなずけない場面がありました。手元の検討資料がどれも案を「A/B/C」と呼んでいたのに、同じ「A案」が資料ごとに別の構成を指していたからです。

何と何を比べているかがそろわなければ、点を付けても会議は戻ります。この記事では、選定の手順を押さえたうえで、この案件の比較資料を例に、点数の前にそろえることと、稟議で効く評価表の書き方を紹介します。


ベンダー選定はどんな手順で進める?

ベンダー選定は5段階で進めます。 評価表は4段階目で初めて作るのではなく、1段階目で足切り条件を、3段階目までに評価項目と重みを決めておくのが要点です。

段階 やること 評価表との関係
① 目的・必須条件の確定 解決したい課題と、絶対に外せない条件を決める 足切り条件が決まる
② RFI(情報提供依頼) 候補を広く集め、5〜10社程度に当たる 評価項目の候補を集める
③ RFP(提案依頼) 3〜4社に同じ条件で提案を依頼する 評価項目と重みを開示する
④ 評価・デモ・確認 足切り→採点→妥協点の確認。デモと実績の確認で事実を取る 評価表を埋める
⑤ 契約 工程ごとに契約を分けるかを決め、選ばなかった会社にも結果を伝える 評価表を稟議に添付する

期間は、ベンダーの提案準備に2〜4週間を見込むのが当社の実務上の目安です。⑤について、経済産業省の「情報システム・モデル取引・契約書」は、要件定義と開発などを工程ごとに別契約にする多段階契約の考え方を示しており、要件定義のように内容が固まっていない工程は準委任、作るものが決まった開発は請負と使い分けます。当社の経験では、要件が固まりきらないうちに全工程を一括で契約すると、選定時に比べた金額の前提が後から崩れやすくなります。

①の課題整理が粗いまま進むと、②以降がすべてぶれます。現状の業務が見えていない場合は、先に業務可視化のやり方で業務と課題を洗い出しておくと、足切り条件が具体的になります。


ベンダー選定の評価項目には何を入れる?

評価項目は「機能・非機能・費用・体制・運用と保守」の5つの柱で組み、各項目に「誰の条件か」を書き添えます。 誰の条件かが分かると、評価表がそのまま関係者の合意の道具になります。

柱 主な評価項目 主に誰の条件か 当社案件で置かれた条件
機能 業務への適合、画面・操作のしやすさ 現場 複数画面への写し作業をなくす
非機能 繁忙期の負荷、既存システムとの連携の安全性、セキュリティ IT部門 古い基幹を直接改修せず、切り離して安全につなぐ
費用 初期費用と運用費を合わせた5年間の総額 経営 過大投資を避け、効果を確実に出す
体制 担当者の経験、類似案件の実績、会社の継続性 経営・IT部門 社内に推進役がいない前提で束ねられるか
運用と保守 社内で直せる範囲、障害時の対応、将来の拡張 経営・現場 属人化を排除し、後から広げられる

※右列は当社が参加した提案の資料(2026年6月・匿名)で、現場・IT・経営の3者の条件と課題の整理から抜き出したもの。

費用は、一式見積を項目ごとに分けて出し直してもらい、初期費用と運用費を5年間の総額で並べて比べます。一式のままでは、どの案が何に費用をかけているかが見えません。

提案書に書かれた内容は、デモと実績の確認で事実に置き換えます。デモでは自社の実際の業務の流れ(例:問い合わせ1件の受付から完了まで)を操作してもらい、実績は同規模の導入先の担当者に話を聞けるかを確認します。


提案を比べる前に、何をそろえる?匿名案件で起きた「A案が2つある」問題

点を付ける前に、「案の呼び名」「比較から外す共通部分」「費用の期間」の3つをそろえてください。 ここがそろっていないと、精緻な評価表を作っても議論が戻ります。

冒頭の案件(消費者向けサービス業のコンタクトセンター刷新)では、要件定義のたたき台、構成パターンの比較、別の会社の提案など、前段の検討資料が複数ありました。そこで統合の最初の作業として、呼び名を松・竹・梅に付け替え、1つの呼び名が1つの構成だけを指すようにしました。

次にそろえたのが、どの案でも共通で入る部分を比較の外に出すことです。この案件では、電話やチャットの自動応答、通話の文字起こしといった層は、どの案を選んでも同じものを載せる設計でした。これを各案の費用や評価に混ぜると、差のない部分で点差がついたように見えます。比較表には「この層は3案共通。中核の選択とは独立」と注記し、評価は差が出る部分に絞りました。

そろえるもの そろえないと起きること 当社案件での対応
案の呼び名 同じ記号が別の構成を指し、議論が戻る A/B/Cを松竹梅に統一
共通部分 差のない部分で点差がついて見える 3案共通の層を比較の外へ
費用の期間 初期費用だけで安く見える案が勝つ 初期とランニングを並べて評価

ベンダー選定の評価表はどう作る?「足切り→重み付け→妥協点」の3層で決める

評価表は、①足切り条件で候補を落とし、②残った候補を重み付けの点数で比べ、③選んだ案で諦めたことを1行で書く、の3層で作ります。 当社ではこれを「選定の3層評価」と呼んでいます。

選定の3層評価:足切り条件で落とし、重み付けで比べ、妥協点を書いて決める
選定の3層評価:足切り条件で落とし、重み付けで比べ、妥協点を書いて決める
  • ①足切り(必須条件):1つでも満たさなければ、点数が高くても落とす。デジタル庁の調達手続マニュアル概要でも、必須項目を1つでも満たさない提案は不合格とする考え方が示されています。
  • ②重み付け:残った候補を、重視する項目ほど大きい重みで採点する。同マニュアルでは情報システムの総合評価で価格点と技術点の比を「1:1」または「1:3以内」としており、価格だけで決めない設計が標準です。
  • ③妥協点:選んだ案でも満たせないこと、諦めることを明記する。稟議で問われるのは、選んだ理由と同じくらい「何を捨てたのか」です。

②は次のような表で行います(候補名・数値とも記入例として作った架空のものです)。

評価項目 重み 候補X 候補Y 候補Z
機能(業務への適合) 30% 4×30=120 5×30=150 3×30=90
非機能(負荷・連携) 20% 4×20=80 4×20=80 2×20=40
費用(5年総額) 25% 2×25=50 4×25=100 5×25=125
体制 15% 5×15=75 3×15=45 3×15=45
運用と保守 10% 2×10=20 3×10=30 5×10=50
合計 100% 345 405 350

重みは、関係部門の合意を取ったうえで、提案依頼の時点でベンダーにも示しておきます。


実際の比較はどう見える?松竹梅で並べた匿名案件の評価表

冒頭の案件では6項目を◎◯△で比べ、「松は投資対効果が過大、梅は必須条件を満たさない、竹だけがすべてを適正な費用で満たす」として竹を推奨しました。 点数化はしていませんが、3層評価の①と③が書かれていた点が特徴です。

評価項目 松:大手CRM単独 竹:CRM×グループウェア+連携基盤(推奨) 梅:ノーコード中心(+グループウェア・連携基盤)
初期・ランニング費用 △ 高額 ◯ 中程度 ◎ 非常に安価
現場の画面統合 ◎ 1画面で完結 ◎ 1画面で完結 △ 複数画面が残る
繁忙期の負荷耐性 ◎ 自動で拡張 ◎ 自動で拡張 △ 連携の上限に配慮が必要
既存基幹との連携の安全性 ◎ 連携基盤で切り離す ◎ 連携基盤で切り離す ◯ 夜間一括が中心
全社のIT方針との整合 ◯ 一部門に特化 ◎ 全社の方針と合う ◎ 全社の方針と合う
現場での内製化 △ 高い技術が必要 ◯ 運用でカバー ◎ 現場主導で容易

※出典:当社が参加した提案の比較資料(2026年6月・匿名)。製品名は伏せ、構成の種類で表記。

比較資料は梅を「必須条件を満たさない」と評しています。梅に△が付いたのは画面統合と繁忙期の負荷耐性で、費用と内製化で最も優れた梅でも、推奨から外れました。

そして竹で諦めることは、AIが自動で最適な案を出す機能の1点だけとし、人が目で見て判断する運用に割り切ると資料に明記しました。◎の数より、この1行が判断材料になります。


安い案・早い案は、なぜ外すことがある?

評価表には「数年後に作り直すことにならないか」という時間軸の項目を入れてください。 当社の案件では、早く安く始められる案を、この観点から外す提案にしました。

検討の途中では、「まず安価なノーコード製品で窓口を先に立ち上げる」案も出ていました。立ち上がりが早く、初期費用も小さい案です。しかし最終的に竹の構成へ移るなら、最初に作った窓口の画面を、将来もう一度作り直すことになります。

そこで、最初から目標の基盤(竹)の上で、効果の出やすい部分だけを先に立ち上げる段階導入に組み替えました。「最初の4か月で成果を出す」ことと「作り直しをしない」ことを両立させる順番です。古い基幹システムを段階的に移す案件ほど、この項目の重みは大きくなります。移し方は基幹システム刷新の進め方で解説しています。


独立PMOに選定を手伝ってもらうとき、何に気をつける?

外部のPMOに選定を手伝ってもらう場合は、「誰と契約しているか」と「評価の根拠をすべて発注者に見せるか」を最初に確認してください。 「中立」という言葉だけでは、中立性は担保されません。

この案件の発注者には、システム刷新を社内で推進する役割(CTOや社内のIT設計者)がいませんでした。課題を7つに整理すると、画面の写し作業や古い仕組みへの依存といった症状の根っこは、いずれも「束ねる人がいない」ことに行き着きました。当社はこの空白を埋める外部CTO・独立PMOとしての体制を提案しています。

ただし正直に書くと、当社は契約上、元請となる会社の下に入る立場でした。先に出ていた先行案を外す提案も、その立場で出しています。この経験からの所感は2つです。

  1. 中立性は立場ではなく、開示で担保する。 評価表・足切り条件・妥協点・外した案とその理由をすべて発注者に見せれば、誰の下にいても検証できます。
  2. 役員それぞれの「譲れない条件」を評価項目に入れる。 この案件では現場・IT・経営の3者で求めるものが違いました。3者の条件が表のどこかに入っていると、評価表が合意の道具になります。

業務改善の段階から外部支援を頼む場合の比べ方は、BPRコンサル会社の選び方も参考にしてください。


よくある質問

Q. ベンダー選定では何社に声をかけるのがよいですか?
A. 情報収集(RFI)は5〜10社程度、正式な提案依頼(RFP)は3〜4社程度が目安です。提案依頼を増やしすぎると評価の工数が膨らみます。

Q. 評価表の重み付けで、価格の比率はどのくらいにすべきですか?
A. 一律の正解はありません。デジタル庁の調達では価格点と技術点の比を1:1または1:3以内としており、価格の比率は25〜50%の範囲になります。民間では自社で決めてかまいませんが、提案依頼の前に決めてベンダーに示し、5年間の総額で比べてください。

Q. 評価表の点数が僅差のときはどう決めればよいですか?
A. 点数で決めず、③の妥協点を比べてください。各案で「諦めること」を1行ずつ書き出し、経営として受け入れられるのはどちらかで判断すると、僅差でも理由を説明できます。

Q. ベンダー選定を外部に依頼する場合、何を確認すべきですか?
A. 支援者が特定のベンダーと利害関係を持っていないか、持っている場合はそれを開示しているかを確認してください。あわせて、評価表・足切り条件・外した案の理由まで発注者に開示する約束があるかが判断の目安になります。


まとめ:点数より「捨てたもの」を書いた評価表が通る

  • ベンダー選定は「必須条件→RFI→RFP→評価→契約」の5段階。足切り条件は1段階目、評価項目と重みは提案依頼までに決める
  • 評価項目は機能・非機能・費用・体制・運用と保守の5本柱で組み、「誰の条件か」を書き添える
  • 点を付ける前に、案の呼び名・比較から外す共通部分・費用の期間をそろえる
  • 評価表は足切り→重み付け→妥協点の3層。稟議で効くのは「何を捨てたか」の1行
  • 安い案・早い案は、将来の作り直しまで含めて比べる。外部PMOの中立性は、根拠の開示で担保する

製品ごとの比較軸は、ワークフローシステムの選び方や生成AI開発会社の選び方でも紹介しています。業務改善の全体像は業務改善コンサルティングをご覧ください。

キュリオシティは、現場の業務可視化から、評価表づくり・ベンダー選定の伴走、導入後の定着までを、評価の根拠をすべて発注者に開示する形で支援しています。「提案は出そろったが決めきれない」「評価表を作りたい」という段階でも、無料相談からお気軽にご相談ください。


監修者

大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)
現場主義×AIを掲げる業務改善・BPRとPMIの支援に携わり、要件定義からベンダー選定、導入後の定着までPMOとして伴走し、評価の根拠を発注者が検証できる形で示すことを重視している。

参考資料

  • 経済産業省「情報システム・モデル取引・契約書」 https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/keiyaku/model_keiyakusyo.pdf
  • デジタル庁「デジタル庁調達手続マニュアル概要」(2022年7月) https://www.digital.go.jp/assets/contents/node/basic_page/field_ref_resources/e98a2d2e-f6da-4dce-a3c3-360a38616d8d/ddb5e27b/20220915_procurement_manual_04.pdf
  • 独立行政法人情報処理推進機構(IPA)「システム開発の健全化に向けて〜『情報システム・モデル取引・契約書』から読み解く〜」(2025年4月) https://www.ipa.go.jp/digital/model/ug65p90000001ljh-att/20250424-kouen.pdf
  • キュリオシティ株式会社 コンタクトセンター刷新の提案における構成パターン比較資料(2026年6月・匿名)


監修者

大槻 伸夫/ 代表取締役 CEO

キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO。「現場主義×AI」を掲げ、業務改善(BPR)・PMI・経営支援・AIプロダクト開発を一気通貫で支援。クライアント現場での実行支援を重視する。

業務改善・PMIのご相談はキュリオシティへ

記事で紹介したテンプレートの配布や、貴社課題に合わせた無料相談を行っています。

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