2026.10.11

業務改善

業務改善ワークショップの進め方|現場の声を施策に変える設計と当日運営

※本記事は、当社が社内のコンサルタント育成用に設計した業務改善ワークショップ(2時間×3回版/3時間1回版。架空の卸売企業を題材にした研修)の設計書・タイムテーブルと、公的機関のファシリテーター講座資料をもとにしています(2026年10月時点)。

業務改善ワークショップは、持ち帰る成果物を先に決め、聞く→描く→採点→施策→計画を一続きでつなぐと施策まで届きます。

現場の担当者を集めて付箋で困りごとを出してもらう。場は盛り上がったのに、翌月には何も変わっていない。よく聞く話です。原因の多くは当日の進行ではなく、設計の段階で「出た声を何に変えるか」が決まっていないことにあります。

もう1つ、ワークショップならではの価値があります。担当をまたぐ受け渡しを、関係者がそろった場で1枚に描けることです。 1対1のヒアリングでも例外を深掘りすれば「正規の手順の外にある連絡ルート」は出てきますが、片方の証言で止まります。両方の担当が同じ紙を見れば、事実の確認と「この線をなくす」合意が同じ場で取れます。この記事では、当社が研修用に作ったワークショップの設計を例に、設計・当日の運営・終わった後の動き方を解説します。


業務改善ワークショップとは?会議や研修と何が違う?

業務改善ワークショップは、業務の当事者が一緒に手を動かし、現状の把握から改善策までを自分たちで作る場です。

内閣府食品安全委員会のファシリテーター講座資料は、ワークショップを「参加・体験・協働を通して、課題解決や合意形成、学習を行う場」と定義し、効果として当事者意識が高まることを挙げています(出典:内閣府食品安全委員会事務局「ワークショップの進め方」)。業務改善でいえば「上から言われた改善」ではなく「自分たちで決めた改善」になることが価値です。

会議 研修 業務改善ワークショップ
主役 報告する人・決める人 講師 業務の当事者
終わったときに残るもの 決定事項 知識 業務フロー・課題一覧・施策の案
向いている場面 決めることが決まっている 型を身につける 現状が見えていない・部門をまたぐ

なぜ「付箋を貼って終わり」になるのか?

付箋で終わるワークショップには3つの詰まりがあります。どれも当日の盛り上げ方では解けないため、設計で先に手当てします。

  1. 声が数字に変わらない:「忙しい」「ミスが多い」は共感を集めますが、優先順位がつけられず、声の大きい課題が選ばれます
  2. 本当の原因が出てこない:自分のやり方が原因になっている話や、手順を外れた運用は、自分からは言いません
  3. 出たものの持ち主がいない:模造紙の写真が共有されて終わり、誰が何をいつまでにやるかが決まりません

業務改善全体がつまずく理由は「業務改善が失敗する原因と回避策」も参考にしてください。


業務改善ワークショップはどう設計する?「成果物リレー5段」

ワークショップは「前の段の成果物が、次の段の入力になる」ように5段で組みます。当社はこれを「成果物リレー5段」と呼んでいます。 途中の段を飛ばすと次の段の材料がなくなるため、付箋で終わる状態を構造的に防げます。

成果物リレー5段:聞く→描く→採点→施策→計画の各段で成果物を作り、次の段の入力にする
成果物リレー5段:聞く→描く→採点→施策→計画の各段で成果物を作り、次の段の入力にする
段 この段の問い 成果物(次の段の入力)
① 聞く 誰が・何で・どうつないでいるか ヒアリングメモ(担当・システム・帳票・連携方法・件数・現場の声)
② 描く どこで人をまたぐか 業務全体図・担当レーン別の業務フロー
③ 採点する どの課題から手をつけるか 課題一覧(8観点)+影響度×頻度の点数
④ 施策にする なくせるか・内製か外部化か 改善策と現状→あるべき姿の比較
⑤ 計画にする いつ・誰が・どれだけ効くか 段階別の実行計画と効果の見込み

「描く」段の考え方は「業務可視化のやり方」と「業務フロー図の作り方」で詳しく解説しています。

始める前に何を決める?

当日の前に、次の4つを決めて参加者に伝えます(スポンサーと人数の考え方はPMAJ「ファシリテーション型ワークショップの実践例」も参考になります)。

  • 目的:対象業務の範囲を1つに絞る(例:受注から請求まで)
  • スポンサー:出た施策を承認する人。最後に結果を聞いてもらう
  • 参加者:対象業務の各担当から1人ずつ。受け渡しの両側がそろう顔ぶれにする
  • 持ち帰る成果物:上の表のどこまでを当日に作るか

当日の冒頭では、グランドルールを3つだけ確認します。①否定しない ②役職を持ち込まない ③「多い」「遅い」は件数と時間で言い直す。準備物は模造紙と付箋、またはオンラインならホワイトボードツールと画面共有です。付箋は「描く」段の材料として扱い、出した付箋はその場で業務フローの該当レーンに貼り直します。オンラインでは誰が描いているかが見えにくいため、描く担当を1人決めて、他の人は口頭で直させる形にすると進みます。


当日のタイムテーブルはどう組む?3時間版と2時間×3回版

当社は同じ内容を、3時間で1回に収める版と、2時間×3回に分ける版の2つで設計しています。どちらも講義3:演習7を目安にしています。

3時間1回版(1枚のシートを5ページ順に埋める。講義は各段の直前に10分程度)

時間 内容 成果物
0:00-0:15 目的・進め方・題材(対象業務)の説明 ―
0:15-0:45 ① 聞き方のポイント→2人1組で聞き取り 現状把握(関係者・システム・帳票・件数・現場の声)
0:45-1:15 ② 担当レーン別に業務フローを描く 業務フロー
1:15-1:25 休憩 ―
1:25-1:55 ③ 8観点で課題を出し、影響度×頻度で採点 課題一覧と優先度の配置
1:55-2:25 ④ 内製か外部化かを判定し、改善策を描く 改善策と現状→あるべき姿
2:25-2:45 ⑤ 段階計画と効果の見込み 実行計画
2:45-3:00 発表と振り返り ―

2時間×3回版は、第1回で「聞く」、第2回で「描く・採点する」、第3回で「施策・計画にする」を扱い、回ごとの成果物を次の回へ持ち越します。第1回の最後に「聞けなかったことの一覧」を宿題にしているのが特徴で、回の間に現場へ確かめに行けます。部門をまたいで確認が要る業務は分割版、1部門で完結する業務は3時間版が組みやすいでしょう。

研修ではなく、実際の現場で開くときは?

当社の設計は社内のコンサルタント育成用で、聞き手と業務担当者役をペアで交代しながら演じます。実際の現場メンバーで開くときは、次のように置き換えます。

  • 業務担当者役は本人が務める。聞き手は進行役か、別部門の参加者が担う
  • 講義は「聞き方のポイント」と「採点の基準」の2つだけにし、演習の比率をさらに上げる
  • 次の節の「例外の質問」を、聞き取りのチェック項目として必ず入れる

現場が「言わない情報」はどう引き出す?

本当の原因は、困りごとの欄には書かれません。「例外のときはどうしていますか?」と深掘りされて初めて出てきます。そして担当をまたぐ線を描くと、別々の証言が1本につながります。

当社の研修では、業務担当者役に渡す役割カードに「聞かれなければ自分からは言わない情報」を1人1つずつ仕込んでいます。題材は架空の建築資材の卸売企業(80名)で、設定は次のとおりです。

役割 困りごととして話すこと 聞かれたときだけ話すこと
営業課長 見積に時間がかかる 急ぎのときは事務を飛ばして倉庫に直接電話している
事務リーダー 二重入力がつらい・休めない 入力ミスが月3件ほどあり手戻りが出ている
倉庫管理者 指示書の字が読めない 誤出荷月5件のうち3件は営業からの直接連絡が原因
経理担当 月末月初が激務 請求漏れが四半期に1回ほど起きている

(数値はすべて研修用の架空設定です)

この設計で伝えたいのは、誤出荷の一番の原因が正規の手順の外にある連絡ルートだった、という種類の事実は、誰も困りごととしては話さないということです。倉庫の人は「字が読めない」と話し、営業の人は「見積が遅い」と話します。研修では、聞き手が例外を深掘りできたペアだけが、この事実にたどり着く設計です。ただし1対1で聞き出せても、それは片方の証言です。実際の現場で開くときは、営業と倉庫のレーンを同じ紙に描き、「その電話はどの線ですか?」と両方の担当がいる場で問うことを当社は勧めています。 正規外のルートが1本の線として現れ、事実の確認と「この線をなくす」合意を同時に取れるからです。

聞き方のルールは6つに絞っています。

  1. 最初にワークショップの目的を共有する
  2. 会話量は「相手9:自分1」
  3. 「他には?」「具体的には?」で細かく掘る
  4. 普段の手順を聞いたら、必ず例外(急ぎ・不在・ミスのとき)を聞く
  5. 愚痴は受け止めつつ、対象業務に戻す
  6. 「つまり〜ということですね?」と言い換えて確かめる

出た課題の優先順位はどう決める?影響度×頻度で採点する

課題は多数決で選ばず、影響度と頻度をそれぞれ5段階で採点し、両方4以上を最優先にします。点数には根拠の数字を添え、数字が書けない課題は「聞き取りが足りない」合図として①の段に戻します。

課題はプロセス・作業手順・伝達手段・重複・手作業・帳票・業務ルール・権限の8観点で出し、次の基準で採点します。

点 影響度(I) 頻度(F)
5 深刻(法令・顧客離反につながる) 毎日/月20件以上
4 重大(月20時間以上・クレーム) 週に数回/月10〜20件
3 中(月10〜20時間) 月に数回/月5〜10件
2 軽微(月5〜10時間) 月1〜2回
1 気になる程度 月1回未満

配置は、両方4以上=最優先、影響度だけ4以上=原因を深掘り、頻度だけ4以上=小さく早く直す、どちらも4未満=後回し、の4つに分けます。

付箋の「ミスが多い」は、この表に載せた瞬間に「月何件?」「1件で何時間の手戻り?」と問われます。研修の題材をこの基準に当てはめると、口頭での受注連絡による情報の抜け(I5×F5)、特定の担当者が不在だと処理が止まること(I5×F4)、システムと手元の表への二重入力(I4×F5)に加え、営業から倉庫への正規外の連絡ルート(I5×F4)も最優先に入ります。正規外ルートは困りごととしては誰も挙げなかったのに、採点すると最優先に入る——この落差が、聞く段と描く段の価値を示しています。


施策と実行計画まで当日に落とすには?

施策は「なくせないか」から考え、課題ごとに内製で直すか外部に任せるかを判定し、最初の段階は投資のいらない施策から並べます。

  • ECRSは排除から:なくす→まとめる→順番や担当を入れ替える→簡単にする、の順に考え、いきなりシステム導入に飛ばないようにします(参考:「ECRSとは?業務改善の4原則」)
  • 内製か外部化かは課題ごとに判定:コア業務か、機密性や規制が重いか、ノウハウを社内に残すべきかが高ければ内製で改善、手順が標準化されていて量の変動が大きければ外部委託を検討します(参考:「BPOとは?」)
  • 計画は3段階:1〜2か月目は手順書・マスタ・急ぎ対応のルールづくりなど投資のいらない施策、3〜5か月目に入力の一元化、6か月目以降に他システムとの連携と定着

正規外ルートの例なら、最初の段階で「急ぎ対応のルール」を決め、営業が倉庫へ直接頼む線そのものをなくします。研修の模範解答では、効果を「月◯時間の削減・リードタイム◯日短縮・回収◯か月」の形で数字にしています(架空の題材では月60時間削減・3日短縮・14か月回収)。粗くてよいので、どの課題の何件が何時間減るかという式で示すことが大切です。


ワークショップの後、施策を止めないには何をする?

終わったら1週間以内に成果物を1つの文書にまとめてスポンサーの承認を取り、1か月後に同じメンバーで進み具合を確かめる場を入れます。 前述のPMAJの実践報告でも、内容を文書化してスポンサーの承認を得ること、短期計画の実行を確かめるフォローアップのワークショップを行うことが挙げられています。

  • 成果物を1冊の提案書にまとめる(書き方は「通る業務改善提案の書き方」)
  • 最優先の施策ごとに、担当者と期限を決める
  • 聞き切れなかった項目を現場に確かめ、点数を更新する
  • 1か月後の確認の場では、最初の段階の施策が終わったかと、効果の数字を見る

改善全体の流れの中での位置づけは「業務改善の進め方5ステップ」をご覧ください。


よくある質問

Q. 業務改善ワークショップの参加人数は何人が適切ですか?
A. 10人前後が目安です。当社の研修は2人1組を5組つくる設計です。人数が多い場合は、対象業務を分けて別の回にしたほうが、1人あたりの発言量を保てます。

Q. 業務改善ワークショップは何時間で行えばよいですか?
A. 当社は3時間で1回に収める版と、2時間×3回に分ける版を設計しています。部門をまたぎ、現場に追加で確認しに行く必要がある業務は、回の間に確認の時間が取れる分割版が向いています。

Q. ファシリテーターは社内の人でも務まりますか?
A. 務まります。ただし対象業務の上司が進行すると本音が出にくいため、別部門の人が進行するのがおすすめです。議論の中身には入らず、時間と問いと採点のルールを守ることに集中します。

Q. ワークショップで出た意見に数字の根拠がないときはどうすればよいですか?
A. その場で無理に点数をつけず、「聞けなかったことの一覧」に入れて、次の回までに件数や時間を確かめます。根拠の数字が書けないことは、聞き取りが足りていない合図として扱います。


まとめ:ワークショップは「担当をまたぐ線を、両方の担当の前で描く場」

  • 付箋で終わるのは、設計の段階で「声を何に変えるか」が決まっていないから。当社は聞く→描く→採点→施策→計画の「成果物リレー5段」で、前の段の成果物を次の段の入力にする
  • 本当の原因は困りごとの欄に出てこない。例外を深掘りして聞き出し、担当をまたぐ線を両方の担当がいる場で描くと、事実の確認と「その線をなくす」合意が同時に取れる
  • 課題は影響度×頻度で採点し、数字が書けなければ聞き取りに戻る。終わった後は文書化・承認・1か月後の確認までをセットにする

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ワークショップの前に、対象業務の担当・頻度・工数を洗い出しておくと、当日の「聞く」「描く」の段が大きく短くなります。当社が支援の現場で使っている「業務棚卸しテンプレート」を無料で配布しています。

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キュリオシティは「現場主義 × AI」で、業務改善ワークショップの設計・進行から、業務の可視化、課題の採点、改善提案と実行までを伴走します。支援内容は「業務改善コンサルティング」をご覧ください。

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監修:大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)。業務改善(BPR)・M&A後の統合(PMI)・全社戦略の支援に携わり、自社のコンサルタント育成用の業務改善ワークショップ(ヒアリング→可視化→課題抽出→改善提案)を設計。「現場主義 × AI」で現場の声を実行できる施策に落とし込む伴走を行う。


監修者

大槻 伸夫/ 代表取締役 CEO

キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO。「現場主義×AI」を掲げ、業務改善(BPR)・PMI・経営支援・AIプロダクト開発を一気通貫で支援。クライアント現場での実行支援を重視する。

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