2026.10.30

AIプロダクト

需要予測AIの導入|在庫・発注を最適化する進め方と精度の考え方

「需要予測AIを入れれば、欠品も過剰在庫も減るはず」——在庫を持つ小売・卸・メーカーからこの相談を受けると、私たちは最初に「全商品に入れるつもりですか?」と聞き返します。需要予測AIは、商品によって効き方がまったく違うからです。

需要予測AIとは、過去の販売実績に天候・販促・曜日などの要因を加えて将来の需要を計算し、発注量や在庫量の判断を支える仕組みです。ただし効くのは「売れ方が動く理由を事前にデータで渡せる商品」で、定番品は従来の計算とほぼ差がなく、少量の散発品はAIでも当たりません。導入は商品を3つに分け、精度を「在庫と欠品」で測るところから始めます。

本記事では、当社が架空データで行った需要予測の精度検証(3種類の商品×104週)と、小売の公開事例をもとに、需要予測AIが効く商品の見分け方、精度指標の選び方、導入の5ステップを整理します。

この記事の監修:大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)。業務改善・PMI・生成AI導入の現場支援に携わり、「現場主義 × AI」で業務の可視化からAIの試作・定着までを支援。

需要予測AIは、従来の発注のやり方と何が違うのですか?

違いは「売れ方が変わる理由」を計算に入れられることです。 従来の発注は、直近の平均や前年同時期の実績をもとに、担当者の経験で補正するのが一般的でした。需要予測AIは、その補正の部分——天気が崩れる、チラシを打つ、連休が来る——を数字として学習し、毎回同じ基準で計算します。

観点 従来の発注(実績+経験) 需要予測AI
予測の材料 直近平均・前年同時期の実績 実績+天候・販促・曜日・価格などの要因
補正のしかた 担当者の経験と勘 要因ごとの影響をデータから学習
担当による差 大きい(ベテラン依存) 小さい(同じ基準で計算)
苦手なこと 担当者の異動・繁忙期の負荷 データにない出来事・売れる数が少ない商品
人の役割 発注数を決める AIの推奨を確認し、例外だけ直す

在庫の読み違いは、利益だけでなく廃棄にも直結します。環境省・農林水産省・消費者庁が2026年6月に公表した推計では、令和6年度の食品ロスは約461万トン、そのうち事業系が約237万トンでした。食品を扱う小売・卸で需要予測が注目される背景には、こうした廃棄の削減圧力もあります。

公開事例として知られるのがローソンです。消費期限の短い弁当・デザートなどを対象にした次世代発注システム「AI.CO」を2024年7月に全店へ導入し、2025年の既存店の粗利を約70億円押し上げる見込みと報じられています(ダイヤモンド・チェーンストアオンライン)。同じ記事では、当初はAIの推奨どおりに発注した店が約2割にとどまり、約8割の店が推奨数を修正していたことも紹介されています。それでも従来より成果は安定して上がっていたとされ、需要予測AIは「人を置き換える」より「人の判断の土台をそろえる」道具だと分かります。

需要予測AIは、どんな商品に効いてどんな商品に効かないのですか?

自社の試算では、AIで大きく良くなったのは販促・季節で売れ方が動く商品だけでした。 定番品はもともと単純な計算でも当たり、少量の散発品はどの方法でも当たりませんでした。

当社は、性格の違う3種類の商品の104週分の販売データを乱数で作り(架空データ)、後半26週を4つの方法で予測して誤差を比べました。「特徴量モデル」は、季節の波・販促の予定・直近の水準を入れた回帰モデルで、需要予測AIの基本形にあたります。

販促・季節品では特徴量モデルの誤差が20.4%から8.8%に下がり、定番品と少量品ではほぼ差がないことを示す棒グラフ
販促・季節品では特徴量モデルの誤差が20.4%から8.8%に下がり、定番品と少量品ではほぼ差がないことを示す棒グラフ
商品の型 平均販売数/週 直近4週平均 前年同週 指数平滑 特徴量モデル
定番品 約120個 7.5% 10.3% 7.1% 6.4%
季節・販促品 約76個 20.4% 32.8% 21.4% 8.8%
少量の散発品 約1.6個 54.2% 78.6% 52.3% 51.3%

※数値はWAPE(誤差の合計÷実績の合計。低いほど良い)。出典:キュリオシティ株式会社の試算

結果から読み取れることは3つです。

  • 季節・販促品は、誤差が半分以下になった:効いたのはアルゴリズムの賢さではなく、「来週チラシを打つ」という予定をモデルに渡したことです。過去の実績だけを見る方法は、販促の週を必ず外します
  • 定番品は、AIでもほぼ変わらない:誤差7.5%→6.4%。売れ方が安定している商品は、移動平均と発注点の計算で十分です
  • 少量の散発品は、どの方法でも誤差50%超:週に1〜2個しか売れない商品は、偶然の要素が大きすぎて予測で当てる対象になりません

この結果を、当社では「需要予測の3分類」と呼び、商品ごとに打ち手を変えています。

分類 見分け方 打ち手
①動く理由がある品 販促・天候・季節で売れ方が大きく変わる 需要予測AIの本命。販促計画などの要因データを渡す
②安定した定番品 毎週の販売数がほぼ一定 移動平均+発注点のルールで自動化。AIは不要なことが多い
③少量・散発品 週数個以下・売れない週がある 予測ではなく発注方式で守る(最低在庫・取り寄せ・まとめ発注)

予測の手法は3系統。高度な手法ほど良いとは限らない

需要予測の手法は、大きく次の3系統に分かれます。試算のとおり、手法の高度さより「渡せる要因データがあるか」で効果が決まるため、手法は商品の分類に合わせて選びます。

手法 代表例 向いている商品
時系列の計算 移動平均・指数平滑・季節調整 ②安定した定番品。要因データがなくても使える
回帰・機械学習 重回帰・勾配ブースティングなど ①動く理由がある品。販促・天候・価格などの要因を入れられる
深層学習 系列を学習するニューラルネットワーク 品目数・店舗数が多く、数年分のデータがそろう大規模な場合

在庫管理の土台づくり(見える化・発注点)については在庫管理の効率化で解説しています。本記事は、その上で「どの商品にAIを使うか」を決める段階の話です。

需要予測の精度は、どの指標で測ればよいのですか?

「WAPE(重み付き誤差)」と「バイアス(予測の偏り)」の2つを組で見て、最後は安全在庫の量に換算するのがおすすめです。 よく使われるMAPE(平均誤差率)だけで判断すると、判断を誤ることがあります。

指標 計算のしかた 向いている使い方 注意点
MAPE 各週の誤差率の平均 売れ方が安定した商品の比較 実績0の週は計算できず、少量品で極端な値になる
WAPE 誤差の合計÷実績の合計 商品群全体の精度管理 売れ筋の誤差が強く効く
バイアス 予測と実績の差の合計÷実績の合計 欠品寄りか過剰寄りかの確認 プラスとマイナスが打ち消し合う

試算の少量品では、特徴量モデルのMAPEは41.0%で他の方法より良く見えました。ところが、これは売れなかった3週を計算から外した結果で、WAPEで見ると51.3%と他の方法とほぼ同じです。さらにバイアスは−10.5%で、予測が実績より1割少ない=欠品寄りに偏っていました。MAPEの数字だけを見て「AIの方が当たる」と判断すると、欠品を増やすことになります。

精度は「安全在庫の量」に置き換えると経営判断になる

誤差のパーセントは、現場や経営層には伝わりにくい数字です。そこで当社は、誤差のばらつきから欠品を5%に抑えるのに必要な安全在庫を計算して比べています(リードタイム2週の場合)。

商品の型 直近4週平均 特徴量モデル 安全在庫の変化
定番品 約28個 約25個 −12%
季節・販促品 約47個 約20個 −58%

同じ欠品率を保ちながら、季節・販促品では安全在庫を半分以下にできる計算です。ここに商品の単価と品目数を掛ければ、在庫金額と保管費の削減額として、投資判断の材料になります。費用対効果の出し方は生成AI導入のROIの考え方も参考になります。

需要予測AIは、どんな手順で導入すればよいのですか?

全商品に一度に入れず、「分類→小さく検証→人の修正を記録→広げる」の順で進めます。 当社が推奨する5ステップは次のとおりです。

ステップ やること 判断の目安
1. 商品を3分類する 販売実績から、週ごとの売れ方のばらつきと平均数で①②③に分ける ①が売上や在庫金額の何割を占めるか
2. 要因データを棚卸しする 販促計画・価格変更・天候・入荷予定が、いつ・どこに・どの形で残っているか確認 販促予定が事前にデータで渡せるか
3. 基準となる計算を決める 今の発注方法(直近平均など)で同じ期間を予測し、比べる相手を作る AIの成果は「今のやり方との差」で測る
4. 対象を絞って検証する ①の商品群・数店舗(数拠点)で8〜12週、WAPE・バイアス・安全在庫を比べる 誤差と安全在庫が事前に決めた水準まで下がるか
5. 人の修正を記録して広げる 推奨数を人が直した理由を記録し、要因データに戻す 修正率と修正後の成果が改善しているか

いちばん止まりやすいのは「要因データがない」こと

試算で効いたのは販促の予定でした。ところが実務では、販促計画が営業担当のExcelやメールにしか残っておらず、商品コードとひも付いていないことがよくあります。需要予測AIの準備でいちばん時間がかかるのは、モデル作りではなく、売れ方を動かす理由をデータにすることです。卸・商社では、品名と型式の対応表が整っていないと実績の集計自体ができない場合もあります。この点は商社の生成AI活用や卸売業の業務改善でも触れています。

人の修正は「失敗」ではなく「学習データ」

ローソンの事例で約8割の店が推奨数を直していたように、導入初期は人の修正が多くて当然です。大事なのは、修正を禁止することではなく、「なぜ直したか」(近くでイベントがある、競合店が閉店した等)を一言残してもらうことです。その理由がデータにない要因の候補になり、次のモデルに加えられます。人が最終判断する設計の考え方はAI開発の要件定義で整理しています。

需要予測AIの検証(PoC)では、何を決めておくべきですか?

始める前に「対象商品・比べる相手・成功の水準・やめる条件」の4点を数字で決めます。 決めずに始めると、「精度は出たが、在庫が減ったか分からない」で終わります。

決めること 記入例
対象 販促の多い飲料・菓子の約300品目、3店舗、10週間
比べる相手 現在の発注方法(直近4週平均+担当者補正)
成功の水準 WAPEが現行より3割以上改善し、バイアスが±5%以内/安全在庫換算で在庫金額が2割減
やめる条件 4週経っても販促データが商品コードにひも付かない/現行との差が1割未満

検証の設計全般は生成AIのPoCの進め方、データの集計・分析にAIを使う方法は生成AIでデータ分析を効率化で解説しています。

需要予測AIの導入でよくある失敗は?

多いのは、AIの精度ではなく「対象の選び方」と「測り方」の失敗です。

  • 全商品に一律で入れる:定番品と少量品が大半を占めると、平均の精度は上がらず「AIは効かない」という結論になる→3分類で対象を絞る
  • MAPEだけで評価する:少量品で数字が良く見え、欠品寄りの偏りを見落とす→WAPEとバイアスを組で見る
  • 今のやり方と比べない:「精度90%」と言われても良いのか分からない→現行の方法で同じ期間を予測して差を測る
  • 販促・価格のデータを後回しにする:モデルは過去の実績だけを学び、販促の週を外し続ける→ステップ2で棚卸しする
  • 推奨数の修正を禁止する:現場が使わなくなる→修正理由を記録して次のモデルに戻す

よくある質問

Q. 需要予測AIは、データが何年分あれば使えますか?

季節の波を学ばせるなら、最低でも2年分(同じ季節を2回以上)が目安です。1年分しかない場合は、季節の影響が小さい商品から始めるか、天候や販促など他の要因で補います。期間よりも、欠品していた日(売れたのではなく、なかった日)の記録が残っているかの方が精度に効きます。

Q. 需要予測AIは、パッケージ製品と自社開発のどちらがよいですか?

小売の日配品や定番の発注なら、業界向けのパッケージ製品で十分なことが多いです。一方、販促計画や受注の形が独特な卸・メーカーでは、要因データの取り込みに自社の事情が強く出るため、まず小さな検証で必要な要因を見極めてから選ぶと失敗が減ります。

Q. 需要予測に生成AIは使えますか?

予測の計算そのものは、統計・機械学習のモデルが担うのが一般的です。生成AIは、予測結果を店長や担当者向けの説明文にする、修正理由のメモを分類して要因の候補を見つける、といった周辺の作業で力を発揮します。

まとめ:需要予測AIは「効く商品」を選んでから入れる

  • 需要予測AIの強みは、売れ方が動く理由(販促・天候・季節)を計算に入れられること
  • 自社試算では、季節・販促品の誤差が20.4%→8.8%、安全在庫は約6割減。一方で定番品はほぼ差がなく、少量品はどの方法でも当たらなかった
  • 商品を「需要予測の3分類」に分け、AIは①動く理由がある品に集中する
  • 精度はWAPEとバイアスを組で見て、安全在庫に換算して判断する
  • 導入初期の人の修正は理由を記録し、次のモデルの材料にする

当社では、在庫・発注業務の可視化から、需要予測を含むAI化の向き不向きの判定、PoCの設計・検証までを一気通貫で支援しています。まずは「どの商品で、何と比べて、どこまで下がれば成功か」を1枚にまとめるところから始めてみてください。

▶ 生成AI PoC企画テンプレートを無料でダウンロードする(対象・比べる相手・成功の水準・撤退基準を1枚で整理できる型です)

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AIを業務改善にどう組み込むかの全体像は業務改善にAIを活用する進め方、開発支援の内容は生成AI開発・PoC支援をご覧ください。


参考資料
– 環境省・農林水産省・消費者庁「我が国の食品ロスの発生量の推計値(令和6年度)の公表について」(2026年6月30日)
– ダイヤモンド・チェーンストアオンライン「25年の既存店粗利は70億円伸長へ!ローソンの新発注システムAI.COの成果とは」
– CIO Japan「ローソン、AI活用でセミオート発注。強化学習も新たに活用」(2023年)
– キュリオシティ株式会社「需要予測の精度検証」(架空データによる試算、2026年10月。3種類の商品×104週・後半26週で検証)


監修者

大槻 伸夫/ 代表取締役 CEO

キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO。「現場主義×AI」を掲げ、業務改善(BPR)・PMI・経営支援・AIプロダクト開発を一気通貫で支援。クライアント現場での実行支援を重視する。

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