※本記事は2026年8月時点の公開情報(経済産業省「事業再編実務指針」等)と、当社の経営支援・中期経営計画策定/事業承継・PMI支援の実支援にもとづく内容です。守秘のため事例は業種・規模・打ち手のみに匿名化しています。
「複数の事業を抱えているが、どこに経営資源を集中すべきか判断できない」「赤字事業から手を引くべきなのは分かっているが、踏ん切りがつかない」——複数事業を持つ中小・中堅企業の経営者や後継者から、最も多くいただく相談のひとつです。多くの場合、つまずきの本質は決断力の問題ではなく、判断を数字に乗せられていないことにあります。
結論から言えば、事業ポートフォリオの見直しは「成長性・収益性・シナジーの3軸で各事業を数字にし、注力・維持・育成・撤退の4象限に仕分け、育成事業には期限と基準を先に決めておく」ことで、感情論に流されずに「選択と集中」を実行できます。本記事では、この数字による判断のやり方を5ステップに整理し、撤退・M&Aの決め方から中期経営計画への落とし込みまで、当社の経営支援の一次情報を交えて解説します。
結論:事業ポートフォリオの見直しは「3軸で数字化→4象限で仕分け→期限つきで決断」
先に全体像を示します。見直しがうまく回っている会社に共通するのは、次の3つの動きです。
- 数字化する — 各事業を「成長性・収益性・シナジー」の3軸でスコア化し、感覚ではなく事業別の数字で相対比較できる状態にする。
- 仕分ける — スコアをもとに「注力・維持・育成・撤退」の4象限へ全事業を配置し、経営資源(人・カネ)の配分方針を1枚で見える化する。
- 期限で縛る — 育成事業には「いつまでに・何を満たせば継続、満たさなければ撤退」という投資期限と達成基準を先に決めておき、判断の先送りを構造的に防ぐ。
逆に言えば、見直しが進まない会社は、この3つのどれかが欠けています。特に多いのが「数字化」を飛ばして議論だけを重ねるパターンです。経済産業省の「事業再編実務指針」も、資本収益性と成長性を軸に事業を評価する標準的な仕組みを持つことを再編の起点として示しています(出典:経済産業省「事業再編実務指針〜事業ポートフォリオと組織の変革に向けて〜」2020年7月)。まずは数字の土俵に乗せる——これが選択と集中の第一歩です。
そもそも事業ポートフォリオの見直しとは?なぜ今やるべき?
事業ポートフォリオの見直しとは、会社が持つ複数の事業を「一覧」で並べ、それぞれへの経営資源の配分(増やす・保つ・減らす・やめる)を経営全体の視点で組み替えることです。個々の事業の善し悪しを見るのではなく、限られたヒト・モノ・カネを「どの事業に張るか」を全体最適で決め直す作業だと考えてください。
なぜ今なのか。理由は3つあります。
- 資源が有限だから — 人手不足と資本制約のなかで、伸びない事業に資源を貼り付けたままでは、伸ばすべき事業に投資が回りません。ポートフォリオ管理は「選択と集中」そのものです。
- 事業承継・M&Aが増えているから — 後継者への承継や買収を機に、創業事業を含めて事業構成を棚卸しする局面が増えています。切り出し(カーブアウト)やM&Aによる入れ替えも一般化しました。
- 決算だけでは判断できないから — 全社の損益は黒字でも、事業別に分解すると特定事業が全体の利益を食っているケースは珍しくありません。分解して初めて意思決定ができます。
とりわけ中小・中堅企業では、複数事業がひとつのP/Lに合算され、事業別の採算が「なんとなく」でしか分からないまま何年も経過していることが多いのが実情です。
どんな評価軸で事業を見ればいい?(成長性・収益性・シナジーの3軸)
結論として、中小・中堅企業がまず押さえるべきは「成長性・収益性・シナジー」の3軸です。経済産業省の枠組みでは資本収益性×成長性の2軸が基本ですが、当社では中堅企業の実務向けに、グループ全体への貢献を測る「シナジー」を加えた3軸を推奨しています。これは当社が案件のアサイン判断で使う「案件選定5軸フレームワーク」(成長性・収益性・戦略適合・実現性・リスク)を、経営の事業評価向けに束ね直したものです。
| 評価軸 | 見る指標(例) | 問い |
|---|---|---|
| 成長性 | 市場成長率、売上成長率、顧客数の伸び | この事業の市場と自社シェアは伸びているか |
| 収益性 | 事業別営業利益率、ROIC/ROA、限界利益 | 投じた資本に見合うリターンを生んでいるか |
| シナジー | 他事業への送客、共通顧客・技術、人材の相互活用 | 単体の数字以上に全体へ貢献しているか |
ここで中小・中堅企業が最も見落としがちなのが、収益性を「利益額」でなく「効率」で見ることです。経済産業省の解説「経営戦略の見える化/事業ポートフォリオのいろは」(中堅・中核企業支援プラットフォーム)でも、ROIC(投下資本利益率)・ROE・ROAといった効率指標を中堅企業は見落としがちだと指摘されています(chiiki-platform.jp)。利益額が大きくても、それが巨額の在庫や設備に支えられているなら、資本効率は低いかもしれません。「いくら儲かったか」ではなく「投じた資本に対してどれだけ効率よく儲けたか」で見ることが、選択と集中を数字で判断する要です。
なお3軸は、事業の性質に応じて重み(ウェイト)を変えて構いません。重みの置き方そのものが経営の意思表示になります。目安は次のとおりです。
| 産業・局面のタイプ | 成長性 | 収益性 | シナジー |
|---|---|---|---|
| 成長産業/新規参入 | 50% | 30% | 20% |
| 成熟産業/安定期 | 20% | 50% | 30% |
| グループ経営・多角化 | 30% | 30% | 40% |
(ウェイトは自社の戦略に合わせて調整する前提の一例です。合計100%で各事業をスコア化します。)
数字でどう仕分ける?(注力・維持・育成・撤退の4象限)
3軸でスコア化したら、「成長性(縦軸)×収益性(横軸)」の2軸マップに各事業を置き、4象限に仕分けます(シナジーは各事業の点の大きさや加点として重ねます)。これは事業ポートフォリオ管理の古典であるボストン・コンサルティング・グループ(BCG)のPPM(プロダクト・ポートフォリオ・マネジメント/BCGマトリクス)を土台にした考え方です。ただしPPMの原典が「市場成長率×相対的市場シェア」で花形・金のなる木・問題児・負け犬に分けるのに対し、本記事では中小・中堅企業が動きやすいよう、軸を「成長性×収益性」に置き換え、各象限を『打ち手』で名付け直しています。
| 象限 | 成長性 | 収益性 | 位置づけ | 基本方針 |
|---|---|---|---|---|
| 注力(Star) | 高 | 高 | 中核・稼ぎ頭の成長事業 | 最優先で人・カネを投下し、伸ばし切る |
| 維持(Cash Cow) | 低 | 高 | 成熟した安定収益源 | 効率運営でキャッシュを生み、注力事業の原資にする |
| 育成(Problem Child) | 高 | 低 | 将来性はあるが未収益 | 期限つきで投資し、基準未達なら撤退へ切替 |
| 撤退(Dog) | 低 | 低 | 成長も収益も見込み薄 | 縮小・売却・撤退を検討する |
この1枚が「事業ポートフォリオ・マップ」です。ポイントは、マップを作ること自体が目的ではなく、資源配分の意思決定に使うこと。維持事業が生むキャッシュを注力事業へ回す、育成事業には期限を切る、撤退候補は出口を検討する——象限ごとに「次の一手」がセットになっていて初めて、見直しは動きます。
なお、負け犬=即撤退とは限りません。シナジー軸で全体に効いている(例:撤退すると主力事業の顧客も失う)なら、単体の数字を超えて維持する判断もあり得ます。だからこそ3軸目のシナジーが要るのです。
見直しはどんな手順で進める?(5ステップ)
事業ポートフォリオの見直しは、次の5ステップで進めます。山場はStep1(数字を揃える)とStep4(ルールを先に決める)で、ここを飛ばすと議論が空中戦になります。
- 事業別に数字を揃える(見える化) — 合算されたP/Lを事業別に分解し、事業別の売上・利益率・投下資本・成長率を出す。共通費の配賦ルールを決めておく。ここが8割の労力。
- 3軸でスコア化する — 成長性・収益性・シナジーを、できる範囲で定量化(難しければ5段階評価でも可)。感覚を数字に翻訳する。
- 4象限マップに配置する — 全事業を1枚のマップに置き、注力・維持・育成・撤退に仕分ける。経営陣で認識を合わせる。
- 象限ごとの方針と「撤退ルール」を先に決める — 育成事業の投資期限・達成基準、撤退候補の出口(縮小/売却/統合)を、感情が絡む前にルールとして先に決める。
- 中期経営計画・予算に落とす — 資源配分の結論を、投資計画・KPI・撤退基準として中期経営計画と単年度予算に反映し、モニタリングする。
見直しの頻度は業界のサイクルに合わせます。変化の速い小売・ITなら年1回以上、設備産業なら数年に一度が目安です(前掲・経産省の同解説)。作って終わりにせず、定点観測で象限の移動を追うことが肝心です。
撤退・売却はどう判断する?(期限つき育成ルールとM&A)
撤退判断が進まない最大の理由は、「いつ・何を基準に決めるか」が事前に決まっていないことです。だからこそ、当社が実支援で最も効果を実感しているのが「期限つき育成ルール」です。育成(問題児)象限の事業には、着手時に次の2つを必ずセットで決めておきます。
- 投資期限:例「今後2年間・累計◯◯円まで投資する」
- 達成基準:例「2年後に営業黒字化/シェア◯%到達」
そして、期限内に基準を満たさなければ自動的に撤退・売却の検討に切り替える——このルールを、感情が絡む前(=投資を始める前)に決めておくのがコツです。人は着手済みの事業ほど「もう少し」と続けたくなります(サンクコスト)。ルールを先に置くことが、その心理的バイアスへの最も効く歯止めになります。
撤退の出口は「やめる」だけではありません。事業の切り出し(カーブアウト)やM&Aによる売却は、従業員の雇用と事業の継続を守りながら経営資源を解放する有力な選択肢です。近年はグループ再編に伴う事業売却が加速しており、「撤退=縮小」ではなく「他社にとっての成長事業として引き継ぐ」発想が広がっています。逆に、注力事業を厚くするための買収でポートフォリオを組み替えることもできます。事業承継としてのM&Aや買収後の統合(PMI)は、それ自体が大きなテーマのため、当社の関連記事でも順次解説していきます。統合の実務は経営統合の進め方や事業承継後の経営で最初にやることもあわせてご覧ください。
ここで大切にしたいのは、「数字で冷静に評価し、人情で決断・実行する」という姿勢です(前掲・経産省の同解説でも同趣旨が示されています)。評価は徹底的にドライに数字で。しかし撤退の実行局面では、そこで働く人への説明・処遇に最大限配慮する。この順番を守ることが、現場の納得と会社の信頼を保つ分岐点になります。
中小・中堅企業がつまずくポイントは?
当社の経営支援の現場では、事業ポートフォリオの見直しがつまずく理由は、ほぼ次の3つに集約されます(複数案件からの匿名化した所感)。
- ①感情の壁 — 創業事業や、社長が思い入れのある事業ほど、数字が悪くても議題に載せづらい。→ 数字化を「人でなく事業を評価する作業」として切り分けることで、俎上に載せやすくなります。
- ②数字が揃わない壁 — 事業別のP/Lや投下資本が出せず、そもそも比較の土俵に立てない。→ 完璧を待たず、まず概算で事業別営業利益率と成長率だけでも出すのが突破口。管理会計の初歩がここで効きます。
- ③出口が見えない壁 — 撤退した後の雇用・取引先・撤退コストが読めず、決断できない。→ Step4の撤退ルールと、売却(M&A)という出口を先に用意しておくことで、決断のハードルが下がります。
たとえばある中堅企業(製造・4事業/年商数十億円規模)では、全社は黒字なのに1事業が営業赤字で、他事業の利益をおよそ2〜3割食い潰していました。合算P/Lしか無かったため、その事実が数字で見えていなかったのです。事業別に分解して4象限に置き直したところ、当該事業が明確に「撤退」象限へ落ち、着手から経営陣が象限マップで合意するまで約3か月。ここで初めて売却の議論が前に進み、解放した人員を「注力」象限の成長事業へ再配分できました。
別の中堅企業(サービス・複数拠点)では、思い入れのある創業事業が「育成」象限にあり、判断が数年間先送りされていました。着手時に「今後2年で営業黒字化しなければ縮小」という期限つき育成ルールを後付けで設定し、期限到来時に基準未達が数字で明確だったため、感情論に陥らず縮小・統合をやり切れました。いずれの案件も、足りなかったのは決断力ではなく、決断できる状態=数字と象限マップだったのです。
数字を揃える土台づくりには、事業別の採算を見える化する管理会計の導入手順と、目標を現場へ落とすKPIの設定方法が役立ちます。
見直しの結論を中期経営計画にどう落とす?
事業ポートフォリオの見直しは、マップを作った時点では「絵に描いた餅」です。資源配分の結論を、投資計画・KPI・撤退基準として中期経営計画と単年度予算に落とし込んで初めて、組織が動きます。
具体的には、注力事業への投資額・人員配置、維持事業のキャッシュ創出目標、育成事業の投資期限と達成基準(=撤退トリガー)、撤退候補の出口スケジュールを、3〜5年の中期経営計画に数字で書き込みます。そのうえで、各事業のKPIを毎月モニタリングし、象限の移動(育成→注力に上がった、維持→撤退に落ちた等)を定点観測します。
この「見直し→計画→実行→モニタリング」の一連は、中期経営計画の策定手順と地続きです。ポートフォリオの見直しは中期経営計画の「事業戦略パート」そのものだと捉え、両者を一体で設計してください。全体像から支援が必要な場合は、中期経営計画・経営支援コンサルティングもあわせてご覧ください。
よくある質問(FAQ)
Q. 事業ポートフォリオの見直しは何から始めればいいですか?
A. 事業別に数字を揃えること(見える化)から始めます。合算されたP/Lを事業別に分解し、事業別の売上・利益率・投下資本・成長率を出すのが第一歩です。ここが全体の8割の労力で、ここを飛ばすと議論が空中戦になります。
Q. 選択と集中を「数字で」判断するとは具体的にどういうことですか?
A. 各事業を「成長性・収益性・シナジー」の3軸でスコア化し、成長性×収益性の4象限マップに置いて、注力・維持・育成・撤退に仕分けることです。感覚の議論を、事業別の数字と1枚のマップに乗せ替えるのがポイントです。
Q. 赤字事業からの撤退はどう決めればいいですか?
A. 「投資期限」と「達成基準」を、投資を始める前に先に決めておきます(期限つき育成ルール)。期限内に基準を満たさなければ自動的に撤退・売却の検討に切り替えます。感情が絡む前にルールを置くことが、サンクコストによる先送りを防ぎます。
Q. 中小企業でもPPMのようなフレームは使えますか?
A. 使えます。厳密な定量化が難しくても、成長性・収益性を5段階で評価するだけでも4象限マップは作れます。完璧なデータを待つより、概算で全事業を1枚に並べ、経営陣の認識を合わせることに価値があります。
Q. 見直しはどのくらいの頻度でやるべきですか?
A. 業界のサイクルに合わせます。変化の速い小売・ITなら年1回以上、設備産業なら数年に一度が目安です。作って終わりにせず、KPIで象限の移動を定点観測することが重要です。
Q. 見直しは着手からどのくらいの期間で結論が出ますか?
A. 最も時間がかかるのは事業別に数字を揃える工程です。事業別P/Lがある程度そろっている企業なら、数字化から象限マップの経営合意まで概ね1〜3か月が目安です。会計データの整備から必要な場合は、まず管理会計の導入を先行させます。自社だけで進めるとStep1(見える化)で停滞しがちなため、数字の分解と象限設計だけ外部の支援を入れ、意思決定は自社で行う進め方が現実的です。
事業ポートフォリオの見直しを、数字で判断できる状態に
事業ポートフォリオの見直しは、決断力ではなく「決断できる状態」をつくる作業です。成長性・収益性・シナジーの3軸で数字化し、4象限で仕分け、育成事業には期限と基準を先に決める——この順番で進めれば、選択と集中を感情論でなく数字で判断できます。そして最後は、その結論を中期経営計画に落とし込むことで、組織が動き始めます。
【無料ダウンロード】中期経営計画テンプレート
事業ポートフォリオの見直しの結論を「投資計画・KPI・撤退基準」に落とし込むための、中期経営計画テンプレートを無料で配布しています(メールアドレスのご登録でダウンロードいただけます)。
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監修:大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)
中小・中堅企業の経営支援、中期経営計画の策定、事業承継・PMI支援に従事。”現場主義 × AI” を掲げ、数字にもとづく意思決定の仕組みづくりを支援している。
