2026.09.08

経営支援

ビジネスモデルの見直し方|収益構造を描き直して稼ぐ力を高める

※本記事は2026年9月時点の公開情報(中小機構 J-Net21、アレックス・オスターワルダーほか『ビジネスモデル・ジェネレーション』等)と、当社の経営支援・中期経営計画策定/事業承継・PMI支援の実支援にもとづく内容です。守秘のため事例は業種・規模・打ち手のみに匿名化しています。

「売上はそれなりに立っているのに、利益がまるで残らない」「値上げもコスト削減もやり尽くしたが、体質が変わらない」——中小・中堅企業の経営者から、業績が伸び悩む局面でよくいただく相談です。多くの場合、原因は営業努力の不足ではなく、そもそもの「稼ぎ方の設計図」=ビジネスモデルが、今の市場に合わなくなっていることにあります。

先に結論をお伝えします。ビジネスモデルの見直しとは、「誰に・どんな価値を・どう届け・どう儲けるか」を1枚に描き直し、特に”収益構造(稼ぎ方)”を組み替えて稼ぐ力を取り戻す作業です。本記事では、ビジネスモデルキャンバス9ブロックで現状を可視化し、価値提案と収益モデルをどこから変えるかを5ステップに整理して、当社の経営支援の一次情報を交えて解説します。

結論:ビジネスモデルの見直しとは「稼ぎ方の設計図」を描き直すこと

ビジネスモデルの見直しとは、9ブロックで現状を描き、価値提案と収益モデルを組み替えて「稼ぐ力」を高める作業です。うまくいく会社は、次の順番で進めています。

  1. 描く — ビジネスモデルキャンバス(9ブロック)で、今の「稼ぎ方」を1枚に見える化する。個々の施策ではなく、要素の”つながり方”を俯瞰する。
  2. 組み替える — 価値提案(何を売っているか)と収益モデル(どう課金しているか)を起点に、儲けの源泉を描き直す。売り切り(フロー)に積み上がる収益(ストック)を足す、課金ポイントをずらす、など。
  3. 検証する — 描き直したモデルを、当社の「案件選定5軸フレームワーク」(成長性・収益性・戦略適合・実現性・リスク)で採点し、絵に描いた餅で終わらせない。

逆に、見直しが空回りする会社は「描く」を飛ばして値上げ・コスト削減という個別の打ち手から入ります。それは大切ですが、稼ぎ方の設計図そのものが古いと、部分最適では体質が変わりません。 まずモデル全体を1枚に乗せる——これが出発点です。

そもそもビジネスモデルの見直しとは?収益構造の描き直しとの関係

ビジネスモデルの見直しとは、「顧客・価値・提供の仕方・儲け方」の組み合わせを、今の市場に合わせて設計し直すことです。業務改善が「今のやり方をうまくやる(How)」の改善なら、ビジネスモデルの見直しは「そもそも何で稼ぐか(What/Whom)」を問い直す、一段上の作業だと考えてください。

なかでも中核になるのが収益構造(=どこで・どうやって儲けているかの内訳)の描き直しです。中小機構の中小企業ビジネス支援サイト「J-Net21」も、ビジネスモデルを見直す際は主要な利益の源泉をどこに置くかを検討し、既存のビジネスで築いたインフラ(顧客・設備・ノウハウ)を新しいモデルに活かせないかを考えることを勧めています(出典:中小機構 J-Net21「ビジネスモデルを見直すには、どうすればよいですか。」)。売上を追うのではなく「利益の源泉」を問い直す——ここが見直しの芯です。

見直しが必要になる背景は、主に3つあります。

  • 同質化で利益が薄くなる — 競合と横並びになり、価格でしか差がつかなくなると、売上が立っても利益が残らなくなります。
  • 市場・顧客が変わる — 顧客の買い方(サブスク志向、オンライン化)や、仕入・人件費などのコスト構造が変わると、従来の稼ぎ方が合わなくなります。
  • 事業承継・M&Aの節目 — 承継や買収を機に「この稼ぎ方のまま次の10年戦えるか」を棚卸しする局面が増えています。

どんなサインが出たら見直すべき?(見直しのトリガー)

次のサインが2つ以上当てはまったら、ビジネスモデルそのものを疑うタイミングです。個別の業務改善では止血しきれない可能性が高いからです。

サイン 症状 疑うべき箇所
増収なのに減益 売上は伸びるのに営業利益率が下がる 収益モデル・コスト構造
値引き常態化 提案が毎回価格勝負になる 価値提案・顧客セグメント
収益の山谷が激しい 受注の有無で毎月の利益が乱高下 収益モデル(フロー偏重)
主要顧客への依存 特定数社で売上の大半を占める 顧客セグメント・チャネル
繁忙なのに儲からない 現場は多忙だが利益に結びつかない 主要活動・リソース配分

ポイントは、これらが「営業をもっと頑張れば解決する」問題に見えて、実は稼ぎ方の設計に起因していることです。増収減益や値引き常態化は、努力の量ではなく「何で・どう課金しているか」を変えないと反転しません。

ビジネスモデルキャンバス9ブロックで現状をどう描く?

見直しの第一歩は、今のビジネスモデルをビジネスモデルキャンバス(BMC)の9ブロックで1枚に描くことです。BMCは、アレックス・オスターワルダーらが提唱した、事業の全体像を9つの構成要素で可視化するフレームワークです(『ビジネスモデル・ジェネレーション』2010年)。

# ブロック 問い(何を書くか)
1 顧客セグメント(CS) 誰に売っているか
2 価値提案(VP) どんな価値・便益を提供しているか
3 チャネル(CH) どの経路で届けているか
4 顧客との関係(CR) どう関係を築き・維持しているか
5 収益の流れ(RS) 何で・どう課金して儲けているか
6 主要リソース(KR) 必要なヒト・モノ・技術・資産
7 主要活動(KA) 価値を生む中心の活動
8 キーパートナー(KP) 誰と組んで実現しているか
9 コスト構造(CS$) 何にお金がかかっているか

描くときのコツは、右側(顧客に近い側:CS・VP・CH・CR・RS)から先に埋めることです。「誰に・どんな価値を・どう届け・どう儲けるか」を先に固め、その実現手段として左側(KR・KA・KP・コスト)を埋めると、議論が「作れるか」でなく「儲かるか」から始まります。

当社の実支援では、この9ブロックを「現状(As-Is)」と「見直し後(To-Be)」の2枚並べて描くようにしています。1枚だけだと現状追認で終わりがちですが、2枚並べると「どのブロックを、なぜ、どう変えるのか」という差分が一目で議論できるからです。変えるのはたいてい全部ではなく、価値提案と収益の流れの2ブロックが起点になります。

どこを変えれば「稼ぐ力」が上がる?(収益モデルの組み替え)

稼ぐ力を左右するのは、9ブロックのうち特に「収益の流れ(どう課金するか)」の設計です。同じ商品・サービスでも、課金の型を変えるだけで収益の安定性と利益率は大きく変わります。代表的な収益モデルの型を押さえておきましょう。

収益モデルの型 稼ぎ方 向いている状況
フロー型(売り切り) 都度の販売・受注で稼ぐ 単価が高く反復需要が読みにくい
ストック型(継続課金) 月額・年額で継続的に稼ぐ 使い続けてもらえる価値がある
従量課金型 利用量に応じて稼ぐ 利用量と価値が比例する
フリーミアム型 無料で広げ一部を有料化 追加価値に明確な線引きができる
レイヤー型(周辺で稼ぐ) 本体は薄利、保守・消耗品・データで稼ぐ 導入後に継続接点が生まれる

見直しの定石は、フロー偏重(売り切り一本)に、ストック型や従量課金を”足す”ことです。ゼロから作り替えるのではなく、既存の顧客・設備・ノウハウという足場(前掲J-Net21のいう「既存インフラの活用」)を使って、積み上がる収益源を継ぎ足す発想です。収益構造を描き直すとは、多くの場合この「フローにストックを足す」組み替えを指します。

もう一つの着眼点が課金ポイントをずらすこと。「モノの販売マージンで稼ぐ」を「導入後の運用・データ・手数料で稼ぐ」へずらすと、価格勝負から抜け出せることがあります。ここで収益構造の変化が本当に利益に効くかは、損益分岐点分析で固定費・変動費の構成とあわせて確認すると精度が上がります。

見直しはどんな手順で進める?(5ステップ)

ビジネスモデルの見直しは、次の5ステップで進めます。山場はStep2(現状を1枚に描く)とStep3(収益モデルの組み替え)で、ここを飛ばすと打ち手が場当たり的になります。

  1. 現状分析で”ずれ”を掴む — 市場・顧客・競合の変化を押さえ、なぜ今の稼ぎ方が合わなくなったのかの仮説を持つ(3C分析SWOT分析が使える)。
  2. 現状(As-Is)を9ブロックで描く — 今のビジネスモデルをBMCで1枚に可視化する。事業別のP/Lや収益の内訳もここで揃える。
  3. 収益モデルを組み替えてTo-Beを描く — 価値提案と収益の流れを起点に、フロー→ストックの追加、課金ポイントの移動などで「見直し後」の1枚を作る。
  4. 左側(実現手段)とコストを詰める — To-Beに必要なリソース・活動・パートナーと、コスト構造の変化を書き込み、絵空事でないか確認する。
  5. 中期経営計画・KPIに落とす — 移行のロードマップ・投資・KPI(例:ストック収益比率)を中期経営計画に反映し、モニタリングする。

一気に全面転換しようとせず、小さく検証してから広げるのが鉄則です。新しい収益モデルは、まず一部の顧客・一部の商材で試し、粗利と継続率という数字で手応えを確かめてから横展開します。

見直し後のモデルは筋がいい?(5軸で評価する)

描き直したビジネスモデルが「本当に筋がいいか」は、感覚ではなく共通のものさしで採点します。当社では、案件のアサイン判断で使う「案件選定5軸フレームワーク」を、ビジネスモデル評価に応用しています。To-Beモデルを次の5軸で5段階採点し、低い軸から潰します。

評価軸 問い
成長性 このモデルの市場・需要は伸びるか
収益性 十分な利益率・継続収益を生むか
戦略適合 自社の強み・既存インフラと噛み合うか
実現性 今のリソース・組織で回せるか
リスク 特定顧客依存・投資回収・撤退可能性は許容範囲か

このうち中小・中堅企業が最も見落とすのが「実現性」です。魅力的なモデルでも、必要な人材や体制が無ければ回りません。逆に、点数が全体的に低ければ、そのモデルは筋が悪いというシグナル。評価はドライに数字で、決断は経営者が腹落ちして——この順番を守ると、見直しが独りよがりになりません。5軸のうち成長性・収益性の土台づくりには財務分析の手法が役立ちます。

見直しても収益構造が変わらないのはなぜ?(3つの落とし穴)

当社の経営支援の現場で、ビジネスモデルの見直しに着手しても収益構造が変わらない会社には、ほぼ次の3つの落とし穴があります(複数案件からの匿名化した所感)。

  • ①現状を描かずに打ち手から入る — 値上げ・新商品・広告など個別施策から始め、稼ぎ方の設計図に触れないまま消耗する。→ まず9ブロックで1枚に描き、要素の”つながり”の問題として捉え直す。
  • ②収益モデルを変えず、商品だけ変える — 新サービスを足しても、課金の型(売り切り)が同じだと収益の山谷は直らない。→ 収益の流れ(フロー/ストック)に必ず手を入れる。
  • ③一気に全面転換しようとして頓挫 — 既存事業を止めて大転換を狙い、資金と現場が持たない。→ 一部顧客・一部商材で小さく検証し、数字を見て広げる。

たとえばあるシステム受託の中小企業(IT・十数名規模)は、案件の受注状況で毎月の利益が乱高下していました。9ブロックで描くと、収益の流れが「開発案件の都度課金(フロー)」一本で、納品後の接点が収益になっていないことが一目で分かりました。そこで価値提案に「納品後の保守・運用の継続サポート」を加え、収益モデルに月額(ストック)を継ぎ足しました。着手時ほぼ0%だったストック収益は1年後には受託売上の約2割まで積み上がり、受注の有無で毎月上下していた粗利のブレ(月次の変動幅)も目に見えて縮小しました。新しい技術を導入したのではなく、既にやっていた保守を”収益の型”として設計し直しただけです。

別の卸売業の中堅企業(複数拠点)は、「モノを右から左へ流す」薄利のフロー型で、提案が毎回価格勝負になっていました。To-Beでは価値提案を「調達代行+在庫リスクの肩代わり+発注データの提供」へ組み替え、課金ポイントを商品マージンから業務手数料へずらしました。結果、それまで価格だけで比較され失注していた取引の一部が、手数料込みの継続契約へ切り替わり、値引き交渉の土俵から一歩抜け出せました。いずれの案件も、変えたのは商品そのものではなく”どこで儲けるか”の設計だったのが共通点です。

数字を揃える土台づくりには、事業別・商材別の採算を見える化する管理会計の導入手順と、移行目標を現場へ落とすKPIの設定方法が役立ちます。

新しい収益モデルへ、既存事業を止めずにどう移行する?

見直しの成否は、描いたTo-Beへ既存事業を止めずに移行できるかで決まります。既存の売上を止めての大転換は資金と現場が持ちません。「今の稼ぎで足場を確保しながら、新しい収益源を並走で育てる」——この二階建ての移行設計を、中期経営計画に落とし込みます。

移行は、新収益モデルへのステップ(いつ・どの顧客から始めるか)、必要な投資と人員配置、そして進捗を測るKPI——たとえば「ストック収益比率」「継続率」「単価」などを、3〜5年の中期経営計画に数字で書き込むことから始めます。そのうえで毎月モニタリングし、想定どおり収益構造が変わっているかを定点観測します。期間の目安は、現状を9ブロックで描いてTo-Beの方向性を経営陣で合意するまでが概ね1〜3か月、新収益モデルの手応え(粗利・継続率)を数字で確かめるにはさらに半年前後を見ておくと現実的です。

なお、ビジネスモデルの見直しは全社戦略や事業ポートフォリオの見直しと地続きです。会社全体でどの事業に張るかを決める話は事業ポートフォリオの見直し方、分析から実行体制までの戦略づくりの全体像は経営戦略の立て方で解説しています。全体像から支援が必要な場合は、中期経営計画・経営支援コンサルティングもあわせてご覧ください。

よくある質問(FAQ)

Q. ビジネスモデルの見直しは何から始めればいいですか?
A. 今のビジネスモデルをビジネスモデルキャンバス(9ブロック)で1枚に描くことから始めます。値上げや新商品といった個別の打ち手から入らず、まず「誰に・どんな価値を・どう届け・どう儲けているか」を可視化し、要素のつながりの問題として全体を捉え直すのが第一歩です。

Q. ビジネスモデルの見直しと業務改善はどう違いますか?
A. 業務改善は「今のやり方をうまくやる(How)」の改善、ビジネスモデルの見直しは「そもそも何で稼ぐか(What/Whom)」を問い直す一段上の作業です。増収なのに減益、値引きの常態化といった症状は、業務改善では止血しきれず、稼ぎ方の設計=ビジネスモデルに手を入れる必要があります。

Q. 収益構造を描き直すとは具体的にどういうことですか?
A. 多くの場合、「収益の流れ(どう課金するか)」を組み替えることです。売り切り(フロー型)一本に、月額などの継続課金(ストック型)や従量課金を足したり、課金ポイントを商品マージンから運用・手数料・データへずらしたりします。既存の顧客・設備・ノウハウを足場に、積み上がる収益源を継ぎ足すのが定石です。

Q. 中小企業でもビジネスモデルキャンバスは使えますか?
A. 使えます。むしろ経営陣が少人数で全体像を共有しやすい中小・中堅企業と相性が良いフレームです。厳密に埋め切ることより、現状(As-Is)と見直し後(To-Be)の2枚を並べ、「どのブロックをなぜ変えるか」の差分を議論することに価値があります。

Q. ビジネスモデルの見直しはどのくらいの期間がかかりますか?
A. 現状を9ブロックで描き、経営陣でTo-Beの方向性を合意するまでは、事業別・商材別の数字がある程度そろっていれば概ね1〜3か月が目安です。ただし新しい収益モデルの手応え(粗利・継続率)を数字で確かめるには、小さく検証して半年前後は見ておくのが現実的です。

Q. ビジネスモデルを一気に全面転換すべきですか?
A. 推奨しません。既存事業を止めての大転換は資金と現場に大きな負荷がかかり、頓挫しやすいためです。新しい収益モデルは、まず一部の顧客・一部の商材で小さく試し、粗利と継続率という数字で手応えを確かめてから横展開するのが安全です。

ビジネスモデルの見直しを、収益構造から描き直す

ビジネスモデルの見直しは、営業努力の量ではなく「稼ぎ方の設計図」を描き直す作業です。ビジネスモデルキャンバスの9ブロックで現状を1枚に可視化し、価値提案と収益モデルを起点に収益構造を組み替え、見直し後のモデルを5軸で検証する——この順番で進めれば、増収減益や値引き常態化から抜け出す道筋が見えてきます。そして最後は、既存事業を止めない二階建ての移行設計を中期経営計画のKPI(ストック収益比率など)に落とし込むことで、収益構造の組み替えが実際に動き始めます。

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監修:大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)
中小・中堅企業の経営支援、中期経営計画の策定、事業承継・PMI支援に従事。”現場主義 × AI” を掲げ、収益構造の描き直しと、数字にもとづく意思決定の仕組みづくりを支援している。

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監修者

大槻 伸夫/ 代表取締役 CEO

キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO。「現場主義×AI」を掲げ、業務改善(BPR)・PMI・経営支援・AIプロダクト開発を一気通貫で支援。クライアント現場での実行支援を重視する。

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