「配車はベテラン1人の頭の中、倉庫はドライバーの荷待ちで動かず、伝票は手書きと紙のやり取りで事務が回らない——それでも運賃は上がらず、残業だけが増えていく」。物流・運送業の現場では、こうした運ぶこと以外のムダが利益と人手をじわじわ削っています。しかも2024年4月からはトラックドライバーの時間外労働に年960時間の上限が適用され、「長時間労働で数をこなす」やり方はもう続けられません。
結論から言えば、物流・運送業の業務改善は 「荷待ち・配車・伝票のムダ取り」から着手し、”見える化 → 標準化 → 自動化”の順で進める のが最短です。多くの会社がやりがちな「まず配車システムやWMS(倉庫管理システム)を入れる」は、順番を間違えると”人手でやっていた非効率をそのままデジタルに載せ替えただけ”に終わります。
この記事では、私たちキュリオシティが業務改革(BPR)を現場で支援してきた知見と公的データをもとに、負荷の大きい配車・倉庫・伝票の3領域にしぼって、何から・どう減らすかを具体的に解説します。業務改善全体の型は業務改善コンサルティング(ピラー)でも整理しています。
結論:物流の業務改善は「荷待ち・配車・伝票のムダ取り」から
物流・運送業の非効率は、突き詰めると3つの現場に集約されます。荷待ち・荷役(動いていないトラックの時間)、配車(属人化した割り付けと組み直し)、伝票・事務(手書き・紙・転記の往復)です。この3つは互いに絡み合い、どれか1つを直しても効果が出にくい。だからこそ、着手順はツール選定ではありません。
①今の業務を棚卸しして「誰が・何に・どれだけ時間を使っているか」を見える化する → ②ムダな手順・重複・転記をそろえて減らす(標準化)→ ③そこではじめてデジタル化・自動化を乗せる、というBPRの王道が有効です。順番を守るだけで投資対効果は大きく変わります。まず現状把握から始めたい場合は業務可視化のやり方と業務棚卸しの手順が入口になります。
なぜ物流・運送業は業務改善が待ったなしなのか(2024年問題と構造要因)
打ち手を考える前に、「そもそも何が物流の改善を待ったなしにしているのか」を、公的データで確認しておきましょう。
- 時間外労働の上限規制(2024年問題):トラックドライバーは長らく時間外労働の上限規制の適用が猶予されていましたが(事実上の”青天井”)、2024年4月から年960時間の上限が適用されました。人は増えない・残業はできない・でも荷物は減らない、という構造です(出典:全日本トラック協会「知っていますか?物流の2024年問題」)。
- 輸送能力の不足:対策を講じなければ、営業用トラックの輸送能力は2024年に約14.2%、2030年には約34.1%不足するおそれがあると試算されています(出典:国「持続可能な物流の実現に向けた検討会」試算。同上)。
- 長時間労働・低賃金という構造:トラック運転者は全産業平均と比べ、年間労働時間が約2割長く、年間賃金は約1割低い水準にあります(出典:国土交通省「トラック運送業の現状等について」)。
- 荷待ち・荷役という”動いていない時間”:近年の国土交通省の調査では、1運行あたりの荷待ち・荷役等の時間は合計で約2時間にのぼります。以前の実態調査(2021年)では荷待ち約1時間34分・荷役約1時間29分(合計約3時間)と、さらに長い水準でした(出典:国土交通省「トラック輸送状況の実態調査結果」)。近年は改善傾向にありますが、依然として拘束時間の大きな要因です。
つまり、限られた労働時間のなかで、いかに”運んでいない時間”と”運ぶ以外の手間”を減らすかが勝負になります。ここに、物流・運送業で業務改善が避けて通れない理由があります。
現場の当事者ほど危機感は強く、たとえば運送業のDXに取り組む実務家は、SNS上で「トラック運送事業の営業利益率は、保有10台以下の会社でマイナス3.6%、業界全体でも黒字はわずか42%。燃料費が1円上がるだけで薄い利益が吹き飛ぶ」と、中小運送会社の厳しい採算構造を指摘しています(出典:X(旧Twitter)@kenshin_tanno の投稿、全日本トラック協会の経営分析を引用)。運賃転嫁が難しいなかで利益を残すには、コスト構造そのものを業務改善で変えるしかない、というのが現場の実感です。
非効率が溜まる3領域:配車・倉庫・伝票
負荷が大きく、かつ改善効果が見えやすい3領域の「主な非効率」と「打ち手の方向性」を一覧にすると、次のとおりです。
| 領域 | 主な非効率 | 打ち手の方向性 |
|---|---|---|
| 配車 | 属人化した割り付け、電話での組み直し、実車率・積載率の低さ | 配車ルールの標準化・情報の一元化・システム/AI配車 |
| 倉庫・荷役 | 荷待ち、手荷役、検品の目視・手書き、ロケーション不明 | 予約受付(バース管理)・入出荷の標準化・ハンディ/WMS |
| 伝票・事務 | 手書き伝票、紙の受け渡し、運賃計算・請求の転記 | 帳票の標準化→電子化(電子伝票・デジタコ連携) |
配車業務:ベテランの「頭の中」を会社の資産に変える
配車は、物流・運送業でもっとも属人化しやすい業務です。「どの荷物を・どの車両に・誰が・どの順で」を、長年の経験と勘で組み立てているケースが多く、担当が休むと会社が止まる、という会社も珍しくありません。急な追加・キャンセルのたびに電話で組み直し、実車率(実際に荷を積んで走った割合)や積載率が上がらない——ここが利益を最も圧迫します。
打ち手の起点は、いきなりのAI配車ではありません。まず配車の判断ルール(優先順位・エリア・車格・時間指定の扱い)を言語化して標準化し、案件・車両・ドライバーの情報を1か所に集約する。属人化した「勘」を手順とデータに変換してはじめて、システムやAIによる配車最適化が効いてきます。近年はAIによる自動配車・運行管理の実務も広がっており、物流現場のDXに取り組む実務家アカウントでもその可能性が発信されています(参考:X(旧Twitter)@motegi_dxlab)。ただし、土台となるルールとデータが整っていなければ、AIも精度を出せません。属人化の解きほぐし方は業務の属人化を解消する進め方も参考になります。
倉庫・荷役業務:「動いていない時間」と「二度手間」を断つ
倉庫まわりの非効率の多くは、荷待ちと手荷役、そして検品・転記の二度手間から生まれます。到着したトラックが順番待ちで動けない、荷物のロケーションが分からず探す、検品は目視と手書きで、あとで倉庫システムに再入力する——こうした流れは典型です。
ここは、入出荷の予約受付(バース予約)でトラックの到着を平準化し、検品・棚入れをハンディ端末でその場入力するだけで大きく減ります。とくに荷待ちは、原因の多くが「荷主・倉庫・運送のあいだの情報連携の欠如」にあり、送り手と受け手の予定をそろえるだけで解消できることも少なくありません。実際、現場では「場所によっては荷卸しのために単発バイトを都度手配せざるを得ず、無駄な工程が発生している」といった声もあり(出典:X(旧Twitter)@naooo15 の投稿)、荷役の平準化・省人化は現場の切実なテーマです。
伝票・事務業務:紙をやめる前に「様式をそろえる」
運送業は、受注・配車指示・運転日報・受領書・運賃計算・請求と、伝票と帳票が非常に多い業種です。手書き伝票を紙で受け渡し、事務所で運賃を計算して請求システムに転記——この転記のたびにミスと手戻りが生まれます。
ただし、いきなり電子化ツールを入れる前に「様式をそろえる(標準化)」のが先です。バラバラの様式のまま電子化すると、非効率をそのままシステムに固定してしまいます。まずは伝票・帳票の様式と記入ルールをそろえ、そのうえで電子伝票やデジタルタコグラフ(デジタコ)との連携に進む——この順序を守ることが、事務業務の改善では決定的です。ここで削れる時間は、間接業務の効率化アイデアの考え方とも共通します。
現場で分かったこと(自社BPR・匿名化)
私たちが物流・運送系の企業でBPRを支援したとき、最初に着手したのは「新しい配車システムの選定」ではなく、業務の棚卸しと、荷待ち・配車・伝票の見える化でした。守秘のため企業名・実数は伏せ、業界・規模・課題・打ち手・成果のレンジ感のみを記します。
ケース1(一般貨物運送・車両数十台規模):配車がベテラン1名の経験に依存し、その方が休むと配車が回らない状態でした。案件はFAXと電話、車両とドライバーの状況は本人の記憶とホワイトボード。急な変更のたびに電話で組み直し、実車率も上がりませんでした。そこで、配車の判断ルールを言語化し、案件・車両・稼働状況を1つの台帳に集約。属人化した勘を”見える手順”に変えたうえで、配車支援の仕組みを段階導入しました。結果、配車担当が休んでも回る体制になり、1日に十数件発生していた変更のための電話・調整が数件規模まで減少(組み直しにかかる時間で体感およそ3〜4割の圧縮)。空車回送の見直しで積載率も改善し始めました(いずれも守秘のためレンジ感)。
ケース2(倉庫・庫内作業を含む物流事業者・複数拠点):入荷トラックの到着が特定時間帯に集中し、1台あたり1時間規模の荷待ちが常態化。検品は目視・手書きで、あとから倉庫システムに再入力していました。入荷の予約受付(バース予約)で到着を平準化し、検品・棚入れをハンディ端末でその場入力する形に変更。あわせて伝票様式をそろえてから電子化しました。結果、荷待ちがピーク時でおよそ半減し、月あたり数十時間規模で発生していた検品の二度入力がほぼゼロに。庫内の残業と入力ミスが目に見えて減少しました(同じくレンジ感)。
具体的な企業名・実数は出せませんが、「属人化した判断をルールとデータに変える」「情報を一度だけ入力する」「様式をそろえてから道具を持たせる」という原則は、業種・規模を問わず共通して効く、という手応えがあります。
物流・運送業の業務改善の進め方5ステップ
上記のケースを型にすると、進め方は次の5ステップに整理できます。詳細な汎用ステップは業務改善の進め方5ステップを参照してください。
- 棚卸し(見える化):配車・倉庫・事務の業務を洗い出し、「誰が・何に・どれだけ時間を使っているか」と、荷待ち・手待ち・転記の実態を可視化する。
- 分析(ボトルネック特定):荷待ち・空車回送・二度入力・探す時間など、”付加価値を生まない時間”を特定する。
- 標準化:配車ルール・伝票様式・検品手順をそろえ、ムダな工程を廃止・統合する(電子化はまだしない)。
- デジタル化・自動化:標準化した業務に、バース予約・ハンディ検品・電子伝票・デジタコ連携・(必要なら)AI配車などのデジタルを乗せる。
- 定着・改善:現場が実際に使えているかを確認し、ルールとして根づかせ、実車率・積載率・残業時間で効果を測る。
最大のコツは「3の標準化を飛ばさない」こと。ここを飛ばして4から入ると、”属人的な非効率をシステムで固定化”してしまい、投資が回収できません。
期間の目安としては、①棚卸し〜②分析に数週間、③標準化に1〜数か月を見ておくとよいでしょう(規模・拠点数により変動)。ポイントは、いきなり全社・全業務を対象にせず、まず1つの拠点・1つの業務(例:荷待ちの多い1拠点、属人化した配車1系統)で小さく回して成果を出し、横展開すること。最初から大きなシステム投資に踏み切らず、標準化で”効くポイント”を見極めてから、必要な範囲にデジタル投資を集中させるのが、失敗しない進め方です。
制度の追い風を使う:改正物流効率化法と標準的な運賃
物流の生産性向上は、国も制度で強力に後押ししています。とくに大きいのが改正物流効率化法です。2025年4月から全ての荷主に物流効率化の努力義務が課され、2026年4月には全面施行。一定規模以上の「特定事業者」(取扱貨物重量が基準を超える上位の荷主など)には、物流統括管理者(CLO)の選任や中長期計画の作成・定期報告が義務づけられます(出典:経済産業省「物流効率化法について」)。
これは運送事業者にとって、荷主側にも荷待ち削減や納品条件の見直しが求められることを意味します。従来「荷主に言い出しにくかった」荷待ち・附帯作業の是正が、制度を背景に交渉しやすくなる好機です。あわせて、標準的な運賃の告示改定など、適正運賃収受に向けた環境も整いつつあります。制度の追い風を活かすには、自社の荷待ち・附帯作業・運賃の実態をデータで見える化しておくことが前提になります。ここでも起点は棚卸しです。
なお、デジタル化・設備導入の原資としては、IT導入補助金やものづくり補助金などの活用も検討に値します。ただし補助金は「入れること」が目的化すると逆効果。先に棚卸し・標準化で”何を・なぜ電子化するか”を固めてから、その裏付けとして補助金を使うのが失敗しない順序です。
生成AI・デジタルの活用余地:現場が使えることが最優先
バース予約や電子伝票に加えて、生成AIの活用余地も広がっています。たとえば、配車の組み立て支援、運転日報・点呼記録の要約、過去の運行実績や仕様書からの情報抽出、問い合わせ対応の下書き作成などは、生成AIが得意とする領域です。ただし物流でのAI活用は、「現場が使える」ことが最優先。難しいUIや二重入力を強いるツールは、どれだけ高機能でもドライバーや配車担当に使われず形骸化します。
まずは棚卸しで”効くポイント”を1つに絞り、小さく試して広げるのが失敗しないコツです。社内での生成AI活用の考え方は生成AIによる業務効率化とはでも解説しています。私たちは”現場主義 × AI”を掲げ、ドライバー・配車・庫内の現場が実際に回る形でのAI活用を重視しています。
まとめ:まずは「棚卸し」で自社の非効率を見える化する
物流・運送業の業務改善は、荷待ち・配車・伝票のムダ取りが起点です。そして着手順は「見える化(棚卸し)→ 標準化 → 自動化」。2024年問題で残業に頼れず、輸送力不足も進むいまこそ、属人化した判断をルールとデータに変え、情報を一度だけ入力し、様式をそろえてから道具を持たせる——この原則で、限られた人と時間で運び切る体制がつくれます。
まず何から手をつけるかを迷ったら、自社の業務を洗い出す「業務棚卸しテンプレート」の無料ダウンロードからどうぞ。配車・倉庫・事務の非効率を、抜け漏れなく見える化するためのシートです。
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自社の状況に合わせた進め方を相談したい場合は、無料相談も承っています。”現場主義 × AI”の視点で、机上論ではなく現場で回る改善をご一緒します。
監修:大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)
現場主義とAI活用を掛け合わせたBPR(業務改革)・生成AI導入支援を専門とし、製造・建設・物流・サービス業などで業務可視化から自動化・AI化までを一気通貫で支援している。
