2026.08.11

業務改善

中小企業のDX人材の育て方|採用に頼らず社内で育てる進め方

中小企業のDX人材は、外部採用より社内育成が現実的です。「役割の定義→学びの型→実務OJT」の順で、現場業務を知る社員を育てるのが最短の進め方です。

「DXを任せられる人材がいない。かといって、採用しようにも採れない・来ても定着しない」——中小企業の経営者やDX推進担当の方から、私たちが最も多くいただくお悩みのひとつです。求人を出しても大手やIT企業と取り合いになり、たとえ採用できても、自社の業務を理解してもらうまでに時間がかかる。結局、DXが前に進みません。

結論から言えば、中小企業のDX人材は「外から採る」より「中で育てる」ほうが現実的です。この記事では、IPA(情報処理推進機構)の公的なスキル定義を土台に、私たちが自社の人材育成・教育設計の現場で使っている「内製育成の3ステップ」を、中小企業向けに一般化して解説します。


なぜ中小企業のDX人材は「採用」より「育成」が現実的なのか?

DX人材は全国的に不足しており、採用競争で中小企業が勝ち続けるのは困難だからです。むしろ自社業務を熟知した社員を育てるほうが、DXの成果に直結します。

まず事実から押さえます。DX人材の不足は、一部の企業の悩みではなく日本全体の構造的な問題です。

  • DXを推進する人材が「不足している」企業は85.1%にのぼり、この水準は近年8割超で高止まりしています(IPA「DX動向2025」)。
  • 中小企業では、取り組み段階を問わず「費用負担」と「人材不足」がDXの課題の上位を占めます(中小企業庁「2025年版 中小企業白書」)。

8割超が不足しているということは、裏を返せば採用市場に人材が回ってこないということです。採用に軸足を置く戦略は、中小企業にとって分の悪い勝負になります。「採用」と「育成」を比べると、中小企業の実情に合うのは後者です。

観点 外部採用に頼る 社内で育成する
人材の確保 大手・IT企業と競合し採りにくい 既存社員が母集団。確保しやすい
コスト 採用コスト+高い人件費 研修費中心。助成金も使える
自社業務の理解 ゼロから。ミスマッチのリスク すでに現場を知っている=即戦力化しやすい
定着 条件次第で流出しやすい キャリアの道筋を示せば定着しやすい

DXの本質は「業務のやり方を変えること」です。だからこそ、自社の業務を知っている社員がデジタルの力を身につけるほうが、外部の専門家がゼロから業務を覚えるより成果に届きやすい。これが「採用より育成」を勧める最大の理由です。


そもそもDX人材とは?IPAのデジタルスキル標準で役割を押さえる

DX人材は「一種類」ではありません。IPAは全社員が持つべき素養(リテラシー標準)と、推進役の専門的な役割(推進スキル標準)を分けて定義しています。まずこの地図を持つことが育成の出発点です。

「DX人材」と一括りにすると、育成の的が絞れません。国が示す共通のものさしが、IPAの「デジタルスキル標準(DSS)」です。DSSは次の2本柱で構成されています(IPA「デジタルスキル標準」)。

標準 対象 中身
DXリテラシー標準(DSS-L) 全ビジネスパーソン DXの基礎知識・データ/AIの使い方・変革へ行動する素養
DX推進スキル標準(DSS-P) DXを推進する人材 役割(ロール)ごとの専門スキルを定義

DX推進スキル標準(DSS-P)では、推進人材をビジネスアーキテクト・デザイナー・ソフトウェアエンジニア・データサイエンティスト・サイバーセキュリティの5類型に整理しています。2026年4月に公開されたver.2.0では、データマネジメント類型の新設や、AI実装・AIガバナンスに関するスキルの追加など、生成AI時代に合わせた改訂も加わりました(IPA「デジタルスキル標準ver.2.0を公開」2026年4月16日)。

中小企業がここで持つべき視点は2つです。第一に、全社員のリテラシー(DSS-L)を底上げすること。 DXは推進役だけのものではなく、現場全員が「デジタルで自分の仕事を変えられる」状態を目指します。第二に、5類型すべてを自前で抱え込もうとしないこと。 高度な専門職(データサイエンティストやセキュリティ)は外部と組み、自社では「業務を理解し、変革を設計できる人(ビジネスアーキテクト的な役割)」を優先して育てる——これが中小企業の現実解です。


中小企業がDX人材を外部採用に頼りきれない理由は?

採用競争で不利なうえ、採れても「自社業務を知らない」「定着しにくい」という壁が続くからです。育成と組み合わせないと、採用単独では機能しません。

ここからは、私たちが自社の採用・教育設計と、お客様のDX支援の現場で実感してきた一次情報です(業界・規模・実名は伏せています)。DX人材を「外から採る」だけでうまくいかない理由は、数字に表れない現場の壁にあります。

  • 業務理解のギャップ:優秀なエンジニアを採用できても、自社の商習慣・例外処理・部門間の力学までは分かりません。「良いシステム」と「自社で使えるシステム」は別物で、ここを埋めるのに結局は現場社員の力が要ります。
  • 定着の難しさ:好条件で採った専門人材ほど、より良い条件を提示されれば動きます。一人の採用に依存すると、その人が抜けた瞬間にDXが止まります。
  • 母集団の薄さ:そもそも85.1%が不足という市場で、知名度も条件も大手に劣る中小企業に応募が集まりにくい。

だからといって「採用は無意味」ではありません。外部採用や外部人材の活用は”起爆剤”として有効で、経済産業省も中堅・中小企業には支援機関や外部人材の活用を推奨しています(中堅・中小企業等向けDX推進の手引き2025)。ポイントは、外部の力で走り出しつつ、そのノウハウを社内に残すこと。採用・外注は「点火」、育成は「継続」と役割を分けると、両者はきれいに噛み合います。

どの役割を「採用/外注」に回し、どれを「育成」で担うかは、次の3つの軸で振り分けると判断しやすくなります。

  • 緊急度:今すぐ必要なら採用・外注で点火し、並行して社内育成を仕込む。
  • スキルの希少性:高度専門職(データサイエンス・セキュリティ等)は外部と組み、業務理解が要る役割は育成で内製する。
  • 社内で代替できるか:現場業務の知識が成果を左右する役割ほど、育成の優先度を上げる。DXが止まる典型パターンはDX推進でつまずく課題と乗り越え方でも整理しています。

社内でDX人材を育てる3ステップとは?

「役割の定義→学びの型→実務OJT」の順で育てます。誰を何のために育てるかを決め、学びの道筋を用意し、最後は自社の実務課題に当てて”使える力”に変える——この3点セットが内製育成の型です。

私たちが自社の人材育成で使い、お客様にもお勧めしている型が「DX人材 内製育成の3ステップ(役割の定義 → 学びの型 → 実務OJT)」です。自社のキャリアラダー・AI統合カリキュラム・業務可視化フレーム(業務カルテ17軸)を、中小企業でも回せる最小の順序に一般化したものです。研修を「受けさせて終わり」にしないための順序になっています。

① 役割を定義する(誰を・何のために育てるか)

最初にやるのは研修選びではなく、「どの役割の人材を、何のために育てるか」の言語化です。ここが曖昧だと、流行りの研修を場当たり的に受けさせるだけで力が身につきません。

私たちは自社でキャリアラダー(役割・等級ごとに求める力を階段状に定義した自社フレーム)を整備し、「この等級ではDXリテラシーをここまで」「推進役はこのスキルを」と到達点を明文化しています。さらに即戦力人材向けには、この到達点に対応づけた約18ヶ月の体系カリキュラムを組み、いつ何を学ぶかを可視化しています。中小企業でも、まずは「DX推進の中心を担う社員を1〜2名」「全社はリテラシーを底上げ」と、育てる対象と狙いを決めることから始めます。役割と評価・処遇をつなぐ設計は人事評価制度の作り方、幹部候補としての育て方は幹部育成の仕組みづくりが参考になります。

② 学びの型を用意する(全社リテラシー→専門、AIを前提に組む)

次に、学びの道筋(型)を用意します。いきなり専門スキルに飛ばず、DSS-Lにあたる全社リテラシーから入り、そのうえで推進役の専門スキルへ進む二段構えが基本です。

私たちの教育設計では、AIを”追加科目”ではなく前提に組み込むのが特徴です。文書作成・要約・分析といった生成AIの実務活用を早い段階で全員が触れることで、リテラシーの底上げと業務改善が同時に進みます。新しい技術ほど外部研修のほうが速く安いため、外部サービスで学び、社内に講師役を育てて内製へ寄せていくのが定石です。全社への生成AI教育の進め方は生成AIの社員研修の進め方にまとめています。

③ 実務OJTで自社の課題に当てる(研修を”使える力”に変える)

最後が最も重要です。学んだことを、自社の実際の業務課題に当てる実務OJTです。座学だけでは「知っている」で止まり、「できる」になりません。

具体的には、育成対象者に自部門の業務を1つ選ばせ、可視化→課題抽出→デジタル/AIでの改善まで小さく回してもらいます。可視化には、私たちが業務改革で使う自社フレーム「業務カルテ17軸」(対象・手順・工数・システム・例外処理・属人度などを1業務ずつ書き出す型)を用います。私たちが業務改革を支援したある現場でも、現場から挙がった30件超の個別課題を6つの改善施策に束ね直す——この一連を担当者自身が回す過程そのものが、最良の実地訓練になりました。題材は自社にいくらでもあります。まず何をデジタル化するかは業務改善にAIを活用する進め方、その前提となる棚卸しは業務可視化のやり方が使えます。


育成を「続く仕組み」にするには?

評価・キャリアと連動させ、外部の伴走を”内製化への橋渡し”に使い、助成金で費用を抑える——この3点で育成は一過性のイベントから仕組みに変わります。

研修は一度やって終わりでは定着しません。続く仕組みにする勘所は次の3つです。

  1. 評価・キャリアと連動させる:身につけたスキルを等級・処遇・役割に反映する。学びが「自分のキャリアに効く」と分かると、社員は自走します(人事評価制度の作り方)。
  2. 外部伴走→内製化の二段構え:初期は外部の研修・コンサルで走り出し、進め方のノウハウを社内に蓄積して、徐々に自前の講師・仕組みへ移す。
  3. 助成金で費用を抑える:厚生労働省の人材開発支援助成金など、育成にかかる費用(研修費・訓練期間中の賃金など)の一部を補助する制度を初期原資に充てる。コースにより「一定時間以上(例:10時間以上)の訓練」といった要件があるため、DXリテラシー研修や専門スキル研修を要件を満たす形で設計しておくと使いやすくなります。中小企業白書でも費用負担がDXの上位課題である以上、制度活用は現実的な一手です。

「費用」と「人材」という中小企業の二大課題(中小企業白書2025)に、この3点はそのまま効きます。


DX人材育成でよくある失敗は?

「研修だけで終わる」「現場と切り離す」「一人に集中させる」の3つが典型です。いずれも育成が”実務”と”組織”につながっていないことが原因です。

  • 研修を受けさせて終わる:学びを自社の業務課題に当てる③のOJTが抜けると、「知っているが使えない」人材になります。座学と実務はセットです。
  • 現場と切り離して育てる:情シスや推進担当だけを育て、現場を置き去りにすると、作ったものが使われません。全社のリテラシー底上げと並走させます。
  • 一人のエースに集中させる:属人化の再生産です。その人が抜ければDXは止まります。複数名・チームで育て、知見を仕組みに残します。

3つに共通するのは、育成を「個人の学習イベント」で閉じてしまうこと。DX人材育成は、業務改善・組織づくりと一体で設計してはじめて機能します。全体像は業務改善コンサルティング、中小企業のDXの始め方は中小企業のDXの進め方をご覧ください。


よくある質問(FAQ)

Q. 中小企業でDX人材は本当に社内で育てられますか?
A. 育てられます。むしろ自社業務を知る社員のほうがDXの成果に直結します。DX推進人材は全国的に85.1%の企業で不足しており(IPA「DX動向2025」)、採用市場で勝ち続けるのは困難です。「役割の定義→学びの型→実務OJT」の順で、既存社員のリテラシーを底上げしつつ推進役を育てるのが現実的です。

Q. DX人材の育成は何から始めればいいですか?
A. 研修選びの前に「誰を・何のために育てるか」を決めることから始めます。IPAのデジタルスキル標準を参考に、全社はリテラシー(DSS-L)を底上げし、推進役には専門スキル(DSS-P)を、と対象と到達点を明文化します。そのうえで学びの型を用意し、自社の実務に当てます。

Q. 外部採用や外注は不要ということですか?
A. 不要ではありません。採用・外部人材は立ち上げの「起爆剤」として有効で、経済産業省も中小企業には外部・支援機関の活用を推奨しています。要は役割分担で、外部の力で走り出しつつノウハウを社内に残し、育成で継続する二段構えが最も機能します。

Q. どんなスキルを優先して育てるべきですか?
A. 中小企業はまず「自社業務を理解し、変革を設計できる人(ビジネスアーキテクト的な役割)」と、全社の生成AI・データ活用リテラシーを優先します。高度な専門職(データサイエンス・セキュリティ)は外部と組み、自前で全類型を抱え込まないのが現実的です。


まとめ:DX人材は”採って”ではなく”育てて”確保する

中小企業のDX人材は、採用競争で奪い合うより、現場を知る社員を社内で育てるほうが現実的で、成果にも近い道です。進め方は、①役割の定義(誰を何のために育てるか)→②学びの型(全社リテラシー→専門、AIを前提に)→③実務OJT(自社の課題に当てる)の3ステップ。そして評価連動・外部伴走→内製化・助成金で「続く仕組み」にする——これがDX人材内製育成の型です。

私たちキュリオシティは、”現場主義 × AI”で、業務の可視化から人材育成の設計、AI活用の実装・定着までを一気通貫で支援しています。「自社のDX人材をどう育てるか、一緒に設計してほしい」という方は、無料相談からお気軽にご相談ください。


監修:大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)。人材育成・キャリアラダー設計・AI統合教育、およびBPR(業務改革)・生成AI導入支援の現場知見をもとに執筆。本記事の育成の型・現場所感は、実際の取り組みを業界・規模・実名を伏せて一般化したものです。


監修者

大槻 伸夫/ 代表取締役 CEO

キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO。「現場主義×AI」を掲げ、業務改善(BPR)・PMI・経営支援・AIプロダクト開発を一気通貫で支援。クライアント現場での実行支援を重視する。

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