2026.08.07

経営支援

原価計算のやり方|製造・サービス業で使える原価管理の基本と実務

「売上は伸びているのに、なぜか利益が残らない」——その原因の多くは、製品や案件ごとの本当の原価が見えていないことにあります。どんぶり勘定のままでは、どこで儲かってどこで損しているのかが分からず、値決めも改善も勘に頼るしかありません。

本記事では、経営者・経理/管理部門・現場責任者に向けて、原価計算のやり方を「費目別→部門別→製品別」の3ステップで整理し、製造業だけでなくサービス業でも使える形に落とし込みます。公的な原価計算基準と、当社が中小企業の管理会計の導入手順を支援するなかで得た一次情報の両面から、実務でつまずくポイントまで解説します。

結論:原価計算は「三要素を費目別→部門別→製品別に積む」3ステップ

先に結論です。原価計算の基本の流れは、業種を問わず次の3ステップに集約されます(出典:企業会計審議会「原価計算基準」freee)。

原価計算の基本3ステップ:費目別計算(材料費・労務費・経費を直接費/間接費に分ける)→部門別計算(間接費を配賦基準で各部門へ)→製品別計算(製品・案件ごとに集計)
原価計算の基本3ステップ:費目別計算(材料費・労務費・経費を直接費/間接費に分ける)→部門別計算(間接費を配賦基準で各部門へ)→製品別計算(製品・案件ごとに集計)
  1. 費目別計算:かかった費用を「材料費・労務費・経費」の三要素に分け、さらに直接費と間接費に仕分ける。
  2. 部門別計算:どの製品にかかったか特定できない間接費を、配賦基準(作業時間・面積・人数など)で各部門に割り振る。
  3. 製品別計算:直接費と配賦した間接費を合わせ、製品・案件ごとの原価を確定させる。

そのうえで、目的(値決めなのか改善なのか)に応じて「実際原価か標準原価か」「全部原価か直接原価か」を選びます。まずはこの3ステップを、主要な製品・案件だけでも月次で回すことが、原価管理を定着させる最短ルートです。

そもそも原価計算とは|目的は「値決め・改善・意思決定」

原価計算とは、製品の製造やサービスの提供にかかった費用(原価)を、一定のルールで集計する手続きです。ゴールは「原価を計算すること」自体ではなく、その数字を使って次の意思決定をすることにあります。

  • 値決め:原価を下回る価格で受注していないか。適正な粗利を乗せられているか。
  • 改善:どの費目・どの工程・どの案件が原価を押し上げているのか。
  • 意思決定:この製品を続けるか、内製か外注か、設備投資は回収できるか。

企業会計審議会が昭和37年(1962年)に公表し、いまも原価計算の実践規範とされる「原価計算基準」でも、原価計算の目的として財務諸表作成・価格計算・原価管理・予算管理などが挙げられています(出典:原価計算基準)。

財務会計の「売上原価」との違い

決算で使う損益計算書にも「売上原価」は出てきますが、これは会社全体の期間損益を示すための数字です。一方でここで扱うのは、製品別・案件別に踏み込んで採算を可視化する管理会計としての原価計算です。全体では黒字でも、品目別に見ると赤字商品が黒字商品にぶら下がっている——という構造は、製品別に原価を積んで初めて見えてきます。管理会計全体の位置づけは管理会計の導入手順で解説しています。

原価の三要素と、直接費・間接費(配賦の考え方)

3ステップに入る前に、原価を仕分ける2つの軸を押さえます。

軸1:原価の三要素(何にかかったか)

要素 内容
材料費 製品に使う物の費用 原材料・部品・補助材料
労務費 人にかかる費用 賃金・賞与・法定福利費
経費 上記以外の費用 外注費・減価償却費・水道光熱費・地代家賃

軸2:直接費と間接費(どの製品か分かるか)

  • 直接費:どの製品・案件にいくら使ったかが明確な費用(その製品専用の材料、その案件だけに従事した人件費など)。
  • 間接費:複数の製品・案件に共通してかかり、そのままでは製品ごとに割り振れない費用(工場の家賃、共通の光熱費、複数案件を掛け持つ管理者の人件費など)。

この2軸を掛け合わせると、「直接材料費/間接材料費/直接労務費/間接労務費/直接経費/間接経費」に分類できます。そして問題になるのが間接費です。製品ごとに直接ひもづけられない間接費を、一定の基準で各製品・部門に割り振る手続きを「配賦(はいふ)」と呼びます。配賦基準には作業時間・機械稼働時間・専有面積・人数などが使われます(出典:経理プラスクラウドログ)。この配賦基準の選び方こそ、原価計算の精度を左右する最大のポイントです(後述の一次情報で詳しく触れます)。

【本題】原価計算のやり方 3ステップ

ここから具体的な手順です。ある製品の1個あたり原価を出す流れをイメージしてください。

STEP1|費目別計算:三要素を直接費・間接費に仕分ける

1か月など期間を区切り、その間に発生した費用を材料費・労務費・経費に集計し、それぞれを直接費と間接費に分けます。たとえば直接材料費40万円・直接労務費45万円・直接経費30万円・製造間接費20万円、というように費目別に積み上げます(出典:freee)。直接費はこの時点で製品にひもづきますが、間接費(製造間接費20万円)はまだ配れません。

STEP2|部門別計算:間接費を配賦基準で割り振る

集めた間接費(STEP1の製造間接費20万円)を、配賦基準に沿って各製品へ割り振ります。材料は使用量、光熱費は専有面積、間接人件費は作業時間、というように費目ごとに妥当な基準を選ぶのがポイントです。配賦率のイメージは次のとおりです。

製造間接費 20万円 ÷ 総作業時間 200時間 = 配賦率 1,000円/時間
→ 製品Xに40時間かかったなら、40時間 × 1,000円 = 製品Xへの配賦額 40,000円

なお、総務・保全など直接製品を作らない補助部門の費用を製造部門へ配る段階もこのSTEP2に含まれ、直接配賦法・階梯式配賦法・相互配賦法などの方法があります。中小企業ではまず、補助部門費を一度で製造部門に配る最も簡便な直接配賦法から始めれば十分です(出典:マネーフォワード)。

STEP3|製品別計算:直接費+配賦した間接費で原価を確定

最後に、STEP1の直接費とSTEP2で配賦した間接費を製品ごとに合算し、生産数で割って1個あたりの原価を出します。同じ製品Xを100個作ったとして、通しで計算すると次のようになります。

製品X(当月100個生産)の原価計算例

費目 金額
直接材料費(STEP1) 400,000円
直接労務費(STEP1) 450,000円
直接経費(STEP1) 300,000円
配賦した製造間接費(STEP2) 40,000円
製造原価 合計 1,190,000円
1個あたり原価(÷100個) 11,900円

ここまで積んで初めて、「製品Xの原価は1個11,900円で、いまの売価だと粗利がいくら残るか」が分かります。全体感を見るなら原価率(製造原価÷売上高)も有効で、たとえば売上1,000万円・製造原価800万円なら原価率80%です(出典:freee)。品目別の原価が出れば、KPIの設定方法予実管理のやり方ともつなげて、月次で改善を回せます。

目的で選ぶ原価計算の種類(個別/総合・実際/標準・全部/直接)

3ステップの土台は同じでも、生産形態や目的によって「型」を選びます。

原価計算の3つの選択軸:生産形態(個別/総合)・集計時点(実際/標準)・集計範囲(全部/直接)
原価計算の3つの選択軸:生産形態(個別/総合)・集計時点(実際/標準)・集計範囲(全部/直接)

生産形態で選ぶ:個別原価計算 vs 総合原価計算

  • 個別原価計算:仕様の異なる製品を1点ずつ作る受注生産向け。製造指図書ごとに原価を集計します。建設・機械・システム開発・コンサルなどが該当。
  • 総合原価計算:同じ製品を反復・大量生産する場合向け。期間の総原価を生産数で割って単価を出します。食品・化学・部品などの量産型が該当(出典:TeamSpirit)。

集計時点で選ぶ:実際原価計算 vs 標準原価計算

  • 実際原価計算:実際にかかった原価を集計する。事実がわかる一方、月末を締めるまで結果が見えない。
  • 標準原価計算:あらかじめ「あるべき原価(標準)」を決めておき、実際との差(差異)を分析して改善につなげる。原価管理に強い型です。

集計範囲で選ぶ:全部原価計算 vs 直接原価計算

全部原価計算は固定費も製品原価に含める方法、直接原価計算は変動費だけを製品原価とし固定費は期間費用として扱う方法です。損益分岐点分析や「あと何個売れば固定費を回収できるか」といった意思決定には直接原価計算が向きます。

サービス業の原価計算|工数×時間単価で案件別に積む

「原価計算=製造業のもの」と思われがちですが、人が動く分だけコストが出るサービス業・受託業こそ原価計算が効きます。ここでの主役は材料費ではなく労務費(人件費)です。

やり方の骨子はシンプルで、社員の時間単価を出し、案件ごとの工数を掛けて人件費を配賦するというものです。

  1. 時間単価を出す:月間人件費 ÷ 月間稼働時間 = 1時間あたりコスト。
  2. 工数を記録する:誰がどの案件に何時間使ったかを、案件コードとひもづけて記録する。
  3. 案件別に集計する:工数 × 時間単価 + 外注費 + 直接経費 = 案件原価。

たとえば時間単価2,000円の社員がある案件に10時間従事すれば、労務費は20,000円です(出典:freee)。ポイントは、時間単価が正しくても工数記録がなければ案件別原価は出せないこと。サービス業の原価計算は、実質「工数管理をどう定着させるか」の勝負になります。

【一次情報】管理会計の導入現場でつまずく3つのこと

ここからは、当社が中小企業の管理会計・原価把握の導入を支援するなかで繰り返し見てきた、教科書には書かれていない実務の勘所です(守秘のため、業種・規模・数値は一般化しています)。

① 間接費を「売上比でまとめて配る」と、赤字品目が隠れる
ある多品種少量生産の製造業では、間接費を全部まとめて売上高の比率で各製品に配っていました。一見公平ですが、実際に原価を食っていたのは小ロット品の段取り替え(切り替え時間)でした。配賦基準を売上比から「段取り回数・機械稼働時間」寄りに見直したところ、それまで黒字に見えていた小ロット品のうち品目数ベースで3割前後が実は赤字だったと判明し、品目構成と値決めの見直しにつながりました。配賦基準は「その間接費が本当に何によって増減するか」で選ぶ——これが精度の分かれ目です。逆に言えば、配賦基準がずれていると「頑張って売るほど赤字が増える主力商品」を見逃します。

② サービス業は「工数の後入力」で原価がぶれる
人月商売の受託・サービス業では、工数を「案件が終わってから記憶でまとめて入力」する運用が珍しくありません。これだと案件別原価が実態とずれ、赤字案件の発見が「月次を締めてから」になりがちです。日次入力・案件コード必須という地味なルール化で、赤字化の兆候を月末を待たず”進行中に”つかめるようになり、追加要員や値引きの判断が前倒しできました。地味ですが、これが結果的に原価精度をもっとも押し上げます。

③ 最初から作り込みすぎて頓挫する
標準原価も部門別配賦も差異分析も——と初手から完璧を目指すと、現場の入力負荷に耐えられず頓挫します。定着したのはいつも逆で、まず費目別+主要品目/案件の実際原価だけを月次で回す。精度は運用しながら上げていく。原価計算は「作る」より「続ける」ほうが何倍も難しい、というのが現場の実感です。

標準原価と差異分析で「回る原価管理」にする

実際原価を月次で回せるようになったら、次の一手が標準原価と差異分析です。あるべき原価(標準)を決めておき、実際との差を要因別に分解して、どこを誰が改善すべきかを明確にします(出典:SmartFNECソリューションイノベータ)。

差異 内訳 主な責任部門
材料費差異 価格差異/数量差異 価格=購買、数量=製造
労務費差異 賃率差異/作業時間差異 賃率=人事、時間=製造
製造間接費差異 予算差異/能率差異/操業度差異 製造・生産管理

ポイントは、差異ごとに責任部門をひもづけておくこと。「材料の値上がり(価格差異)は購買、使いすぎ(数量差異)は製造」というように担当を決めておくと、差異が改善アクションに直結します。ここまで来ると原価計算は、単なる集計から現場を動かす経営管理の仕組みへと進化します。近年はAIやBIツールで工数・実績データを自動集計し、差異分析までを半自動化する動きも広がっています。当社は「現場主義 × AI」で、入力負荷を抑えながら原価管理を定着させる設計を支援しています。

よくある質問(FAQ)

Q. 原価計算は会計ソフトだけでできますか?
A. 費目別の集計まではできますが、製品別・案件別の配賦や工数のひもづけは、工数管理や配賦ルールの設計が別途必要です。ソフト導入=原価が見える、ではない点に注意してください。

Q. Excelでも原価計算はできますか?
A. 品目・案件が少ないうちはExcelで十分回せます。ただし工数入力の抜け漏れや属人化が起きやすく、件数が増えると破綻しがちです。まずExcelで型を作り、定着したらツール化を検討するのが現実的です。

Q. まず何から始めればいいですか?
A. 主要な数品目・数案件だけを対象に、費目別+実際原価を1か月分だけ手で出してみてください。「思っていた原価と違う」品目が必ず出てきます。そこが改善と値決めの出発点です。

まとめ:原価計算は「小さく始めて、続けて磨く」

原価計算のやり方は、費目別→部門別→製品別の3ステップが基本です。要点を振り返ります。

  • 原価を「三要素(材料費・労務費・経費)」と「直接費・間接費」の2軸で仕分ける。
  • 間接費は配賦基準の選び方で精度が決まる。「何によってその費用が増減するか」で選ぶ。
  • 製造業は製品別、サービス業は工数×時間単価で案件別に積む。
  • 完璧を目指さず、主要品目・案件の実際原価を月次で回すところから始める。

原価が見えれば、値決め・改善・撤退の判断が「勘」から「数字」に変わります。原価計算を中期の利益計画にどう織り込むかは、中期経営計画の策定手順経営支援コンサルティングもあわせてご覧ください。

【無料ダウンロード】中期経営計画テンプレート
原価・粗利の見える化を、中期の数値計画に落とし込むためのExcelテンプレートを無料で配布しています。売上・原価・利益の目標を現場のアクションまで落とし込む構成です。
👉 中期経営計画テンプレートを無料でダウンロードする

「自社の原価管理をどう設計すればいいか相談したい」という方は、無料相談はこちらからお気軽にお問い合わせください。現場主義 × AI で、続く原価管理の仕組みづくりを支援します。


監修:大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)。中小企業の管理会計・原価管理・PMI支援に従事。本記事は公的な原価計算基準および当社の支援実務をもとに構成しています。


監修者

大槻 伸夫/ 代表取締役 CEO

キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO。「現場主義×AI」を掲げ、業務改善(BPR)・PMI・経営支援・AIプロダクト開発を一気通貫で支援。クライアント現場での実行支援を重視する。

業務改善・PMIのご相談はキュリオシティへ

記事で紹介したテンプレートの配布や、貴社課題に合わせた無料相談を行っています。

BACK TO INDEX