「返済がきつくなってきたので、銀行に返済条件の変更(リスケ)をお願いしたい。ただ、経営改善計画書を出してくださいと言われたが、何をどう書けばいいのか分からない」——資金繰りの相談で、いちばん多く受けるのがこの悩みです。経営改善計画書は、通常の事業計画書とは目的も読み手も違います。読み手は金融機関であり、見られているのは「この計画なら返済してもらえそうか(実現可能性)」の一点です。
先に結論をお伝えします。金融機関に納得される経営改善計画書の書き方は「①現状把握(実態BSで正しい財政状態をつかむ)→②課題の特定(数字が悪い真因)→③改善施策(誰が・何を・いつまで)→④数値計画(施策と連動した損益・返済計画)→⑤モニタリング」の5ステップです。肝は、③のアクションと④の数字が一本の線でつながっていること。ここが切れている計画は、どれだけ数値がきれいでも金融機関には響きません。
この記事では、経営改善計画書に盛り込む構成要素と5ステップの書き方、金融機関が見るポイント(実抜計画・合実計画)、自力で作れないときの405事業の使い方までを、”現場主義 × AI”で経営支援・資金繰り改善を支援してきた立場から解説します。
経営改善計画書とは?事業計画書・中期経営計画と何が違う?
経営改善計画書とは、業績や財務が悪化した企業が、経営を立て直すための行動計画と数値計画をまとめ、主に金融機関に対して返済条件の変更(リスケ)や金融支援を求めるために提出する書類です。同じ「計画書」でも、事業計画書や中期経営計画とは目的・読み手・時間軸が異なります。ここを取り違えると、そもそも刺さらない書類になります。
| 種類 | 主な目的 | 主な読み手 | 特徴 |
|---|---|---|---|
| 経営改善計画書 | 返済条件の変更・金融支援を得て会社を立て直す | 金融機関(メイン行・全取引行) | 実現可能性と返済原資の裏づけが最重要 |
| 事業計画書 | 新規事業・資金調達・社内合意のために構想を示す | 投資家・金融機関・社内 | 成長性・戦略の魅力が中心 |
| 中期経営計画 | 3〜5年の全社方針を現場に落とす | 経営層・社員 | ありたい姿と重点戦略が中心 |
つまり経営改善計画書は「攻め」ではなく「守り」の計画です。夢を語る書類ではなく、「なぜこうなったか」を直視し、「どう返していくか」を数字で約束する書類だと捉えるのが出発点になります。事業計画書そのものの型は事業計画書の書き方、前向きな全社計画のつくり方は中期経営計画の策定手順で解説しています。
経営改善計画書に決まった書き方はある?構成要素は?
法律で決まった様式はありませんが、金融機関や中小企業活性化協議会が求める標準的な構成要素はほぼ共通しています。中小企業庁の経営改善計画策定支援事業(後述の405事業)で求められる項目を土台にすると、次の要素を押さえておけば大きく外しません。
| 構成要素 | 何を書くか |
|---|---|
| 会社概要・事業内容 | 沿革、事業構成、組織、主要取引先 |
| ビジネスモデル俯瞰図 | 商流・お金の流れを1枚で図示(誰から儲けているか) |
| 現状分析・窮境原因 | なぜ業績・財務が悪化したのかの原因分析 |
| 実態貸借対照表 | 含み損益を反映した「本当の純資産」(実質債務超過か) |
| 経営課題と基本方針 | 解決すべき課題と、立て直しの方向性 |
| アクションプラン | 施策を「誰が・何を・いつまでに・いくら」で具体化 |
| 数値計画(財務3表) | 損益計画・貸借対照表・資金繰り(CF)の5年程度 |
| 返済計画・金融支援の依頼内容 | 返済原資の裏づけと、依頼するリスケ等の内容 |
| モニタリング計画 | 誰が・どの頻度で進捗を確認し金融機関へ報告するか |
ポイントは、これらがバラバラの資料の寄せ集めではなく、「原因→課題→施策→数字→返済」の一本のストーリーになっていること。次章の5ステップは、この順番でストーリーを組み立てる手順です。
金融機関に納得される経営改善計画書はどう書く?5ステップ
経営改善計画書は、次の5ステップで作ります。大事なのは①現状把握と④数値計画の間を、②課題と③施策できちんと橋渡しすること。数字だけ、施策だけ、では実現可能性を示せません。
STEP1|現状把握:実態貸借対照表で「本当の財政状態」をつかむ
最初に、決算書の額面ではなく実態をつかみます。売掛金の回収不能分、不良在庫、含み損のある資産などを時価に引き直し、「実態貸借対照表(実態BS)」を作ります。ここで実質的に債務超過なのか、いくらの穴が空いているのかを直視します。あわせて過去3〜5期の損益・資金繰りの推移を並べ、どこから悪化したのかを時系列で押さえます。この「都合の悪い数字から逃げない」姿勢そのものが、金融機関の信頼の土台になります。
STEP2|課題の特定:数字が悪化した「真因」を掘る
次に、悪化の原因を掘り下げます。「売上が減った」で止めず、なぜ減ったのか(主要顧客の離反か、単価下落か、特定事業の赤字か)を分解します。ここは表面的な症状ではなく真因まで下ろすのがコツで、なぜなぜ分析のように「なぜ」を繰り返すと、打ち手が定まります。財務面の弱点は収益性・安全性の視点で読み解くと整理しやすく、読み方は財務分析の手法で解説しています。
STEP3|改善施策:アクションプランを「誰が・何を・いつまで・いくら」で書く
真因に対する打ち手を、実行できる粒度まで落とします。「経費削減」ではなく「役員報酬を月◯万円減額(○月から)」「不採算のB事業から撤退(○月末)」のように、担当・期限・金額まで書きます。売上を増やす施策より、自社の努力で確実に効く固定費・不採算事業の見直しを先に置くのが、金融機関に実現可能性を示すコツです。各施策には、後の数値計画に効く金額(削減額・利益改善額)を必ず紐づけます。
STEP4|数値計画:施策と連動した損益・返済計画をつくる
STEP3の施策を、そのまま数字に反映して損益計画・BS・資金繰り計画(財務3表)を5年程度で組みます。ここで「施策A=年間◯万円の利益改善」が損益計画のどこに乗っているかが追えることが決定的に重要です。そのうえで、営業キャッシュフローから返済原資を算出し、無理のない返済計画に落とします。数字を根拠づける前提(客数・単価・削減率など)を明示し、KPIとして管理できる形にすると説得力が増します。目標を指標に落とす手順はKPIの設定方法を参考にしてください。
STEP5|モニタリング:進捗を報告する仕組みまで書く
計画は「出して終わり」ではありません。誰が・毎月/四半期ごとに・どの指標で進捗を確認し、金融機関にどう報告するかまで書きます。予実の差異を月次でつかむ仕組みがあると、計画のズレを早期に手当てでき、金融機関の安心感も高まります。月次で回す型は予実管理のやり方が実務的です。
金融機関は経営改善計画書のどこを見ている?
金融機関がまず見るのは、「返済原資が計画の数字から生まれるか(実現可能性)」です。派手な成長ストーリーより、固定費削減や不採算事業の整理といった確実に効く打ち手で黒字化・返済ができる筋道を評価します。専門的には、計画が一定の水準を満たすと、銀行内部での企業の格付け(債務者区分)にも影響します。
| 用語 | 意味 | 目安(一般的な水準) |
|---|---|---|
| 実抜計画 | 実現可能性の高い抜本的な経営再建計画 | 概ね3年(最長5年)で黒字化 等 |
| 合実計画 | 合理的かつ実現可能性の高い経営改善計画 | 概ね5年(最長10年)で正常化 等 |
いずれも共通するのは「実現可能性(実現できる根拠があるか)」と「抜本性・合理性(一過性でなく構造的に立て直せるか)」。だからこそ、STEP3の施策とSTEP4の数字が連動していることが問われます。なお、複数の金融機関と取引がある場合、リスケには原則として全取引金融機関の合意が必要で、各行を集めて計画を説明する「バンクミーティング」を開くこともあります。メイン行だけでなく、取引行全体が納得できる公平な内容にすることが実務では欠かせません(出典:中小企業基盤整備機構)。
経営改善計画書でよくある失敗は?現場で見た落とし穴
私たちが資金繰り・経営支援の現場で見てきた「通らない計画書」には、共通するパターンがあります。私たちはこれを「実現可能性の3チェック」——①数値に根拠があるか ②アクションと数字が連動しているか ③モニタリング体制があるか——として、計画の最終確認に使っています。
| 失敗パターン | 何が起きるか | 防ぎ方(3チェック) |
|---|---|---|
| 売上V字回復を前提にする | 根拠がなく実現可能性を疑われる | ①数値の根拠:確実に効く固定費削減を先に置く |
| 施策と数字がつながらない | 「絵に描いた餅」と判断される | ②連動:施策ごとに利益改善額を数字に紐づけ |
| 出して終わりで放置 | 進捗が見えず信頼を失う | ③モニタリング:月次の予実報告を計画に明記 |
| 実態を隠す・良く見せる | 発覚時に一気に信頼を失う | 実態BSで穴を先に開示する |
現場感覚として最も多いのが、「売上が来期から急回復する」前提で数字を組んでしまうケースです。ある地方の製造業(従業員数十名規模、実質債務超過)の計画づくりをご支援した際も、当初案は初年度から売上15%増を見込む強気な内容で、金融機関の反応は芳しくありませんでした。そこで私たちは、売上増の施策はいったん脇に置き、役員報酬の減額・不採算取引の停止・遊休資産の売却という「自社で確実に実行できる打ち手」だけで返済原資が出る構成に組み直しました。これらの確実に効く打ち手だけで年間数百万円規模の返済原資を確保し、売上は横ばい前提でも黒字化・約定返済が成り立つ数字にしたところ、計画は受け入れられました。金融機関が見たいのは、期待値ではなく”最悪でも返せる根拠”だと痛感した一件です。
ここで一点補足すると、経営改善計画づくりで生成AIが役立つのは、過去データの整理・施策のたたき台づくり・文章化といった”手を動かす”部分です。財務データの推移整理や、施策の抜け漏れチェックのたたき台をAIで素早く作り、そのうえで「この数字は実現できるか」「返済原資として堅いか」という判断は人が担う——この分担(AIは”集めて整える”、判断は人)で、精度とスピードを両立できます。ただし計画の中身は経営の意思そのものなので、AIに丸投げはできません。
自分で経営改善計画書が作れない場合は?405事業の使い方
「自社だけでは実態BSや財務3表まで作り込めない」という場合は、専門家の支援を、費用補助を受けながら使う制度があります。代表的なのが中小企業庁の経営改善計画策定支援事業(通称405事業)です。認定経営革新等支援機関(税理士・会計士・コンサル等)の支援を受けて金融支援を伴う計画を作る際、計画策定・伴走支援などの費用の2/3が補助されます(費用区分ごとに上限あり)。
- 405事業(本格版):リスケなど金融支援を伴う本格的な経営改善計画向け。DD・計画策定支援費用や伴走支援費用の2/3を補助。
- 早期経営改善計画策定支援事業(通称ポスコロ):金融支援までは不要だが、早めに資金繰りや経営を見直したい企業向けの、より軽い枠。
- 相談窓口:各都道府県の中小企業活性化協議会(商工会議所等に設置された公正中立な公的機関)や、取引金融機関、認定支援機関。
補助率・上限額や要件は年度で変わるため、着手前に中小企業活性化協議会や中小企業庁の公式情報で最新の内容を確認してください。制度を使うと、専門家の型に沿って計画を作れるうえ、金融機関との交渉もスムーズになりやすいのが利点です。資金繰りそのものの立て直し策は資金繰りを改善する方法、追加の資金手当ての選択肢は中小企業の資金調達の方法もあわせてご覧ください。
私たちキュリオシティは、”現場主義 × AI”で経営支援コンサルティングを提供しています。実態把握から数値計画、金融機関への説明・モニタリングまで、「通る計画」を現場と一緒につくる伴走を得意としています。
よくある質問(FAQ)
経営改善計画書と事業計画書の違いは?
目的と読み手が違います。経営改善計画書は、業績・財務が悪化した会社が金融機関に返済条件の変更(リスケ)や金融支援を求めるための「立て直しの計画」で、実現可能性と返済原資の裏づけが最重要です。事業計画書は新規事業や資金調達のために構想・成長性を示す書類で、こちらは戦略の魅力が中心になります。
経営改善計画書は何年分の数値計画を作ればいい?
一般的には5年程度の数値計画(損益・貸借対照表・資金繰り)を作ります。金融機関の評価上は、実抜計画で概ね3年(最長5年)での黒字化、合実計画で概ね5年(最長10年)での正常化といった水準が目安とされます。いずれも「その数字が実現できる根拠(施策との連動)」があることが前提です。
経営改善計画書は自分で作れる?専門家に頼むべき?
数値計画や実態貸借対照表の作成には財務の専門知識が要るため、実務では税理士・会計士やコンサルタントの支援を受けるのが一般的です。中小企業庁の405事業を使えば、認定支援機関の支援費用の2/3が補助されます。まずは取引金融機関か、各地の中小企業活性化協議会に相談するのが近道です。
金融機関に経営改善計画書を通すコツは?
「最悪でも返せる根拠」を示すことです。売上のV字回復に頼らず、固定費削減や不採算事業の整理など自社で確実に実行できる打ち手で黒字化・返済ができる数字に組むこと、施策と数字を連動させること、そして月次の予実報告(モニタリング)まで計画に含めることが、実現可能性を裏づけます。
経営改善計画書を「通る計画」にするために
経営改善計画書の書き方は、①現状把握(実態BS)→②課題の特定→③改善施策(誰が・何を・いつまで)→④数値計画(施策と連動した返済計画)→⑤モニタリング、の5ステップ。金融機関が見ているのは成長の夢ではなく「実現可能性=最悪でも返せる根拠」です。施策と数字を一本の線でつなぎ、実態から逃げず、進捗を報告する仕組みまで書くこと——この3点が「通る計画」の条件です。
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