2026.09.09

業務改善

金融機関の業務改善|審査・事務・コンプラ対応の非効率を解消する

融資審査、書類の照合、規程・コンプライアンス対応——金融機関のバックオフィスは「確認」の積み重ねで成り立っています。人手不足とコスト圧力のなかで効率化は待ったなしですが、事務リスクや法令対応をおろそかにはできません。だからこそ「単なる効率化」では現場が動かず、改善が止まります。

金融機関の業務改善は「統制を落とさずに非効率だけを削る」ことが肝で、確認作業を”何を守るための確認か”で仕分け、目的が重複する確認だけを統合・廃止するのが出発点です。

本記事では、審査・照合・コンプラ対応に非効率が溜まる理由、統制を保ったまま効率化する5ステップ、地域金融機関のバックオフィスで書類チェック工程を約3割圧縮した匿名事例、そして金融庁の考え方に沿った進め方を、現場主義の視点で解説します。

金融機関の業務改善はなぜ「効率化だけ」では進まないのか?

金融機関の業務改善が一般企業と違うのは、「速く・安く」の前に「正確に・統制を効かせて」が必須要件だからです。ここを外した効率化は、現場の統制不安を招いて必ず頓挫します。

金融庁の「中小・地域金融機関向けの総合的な監督指針」は、事務リスクを「役職員が正確な事務を怠る、あるいは事故・不正等を起こすことにより、銀行が損失を被るリスク」と定義し、全業務に事務リスクが存在することを理解したうえで、諸規定を明確に定め、事務部門に牽制機能を発揮させる態勢を求めています(出典:金融庁 総合的な監督指針)。

つまり金融機関にとっての業務改善とは、「確認をなくすこと」ではなく「守るべき確認は残し、守らなくてよい確認だけを削ること」。この線引きを現場と合意できるかどうかが成否を分けます。業務改善そのものの型は業務改善コンサルティング業務改善の進め方5ステップで解説していますが、金融機関ではこの「統制の仕分け」という一工程が必ず加わります。

バックオフィスの非効率はどこに溜まる?審査・照合・規程対応の3つの温床

金融機関のバックオフィスで非効率が溜まるのは、主に「審査・融資事務の多重チェック」「照合・入力の手作業」「規程・コンプラ対応の属人化」の3か所です。ここを個別最適で触ると統制が崩れるため、全体を棚卸ししてから手を付けます。

審査・融資事務の多重チェック

融資・審査の書類は「担当→役席→本部」と流れる過程で、同じ書類を何度も照合しがちです。ミスを防ぐための多重化ですが、「誰の確認が最終責任か」が曖昧なまま重ねると、確認が形骸化し、かえってミスの温床になります。多重チェックは”安心”のために増える一方で、減らす基準を持つ組織は多くありません。

照合・名寄せ・入力突合の手作業

顧客情報の名寄せ、取引データの突合、帳票の転記——判断を伴わない定型照合が手作業のまま残ると、繁忙期に事務が滞留し、差し戻しが増えます。これは金融機関に限らない間接業務の典型的なムダで、優先順位の付け方は間接業務の効率化アイデアと優先順位の付け方が参考になります。

規程・コンプラ対応の属人化

本人確認(取引時確認)、疑わしい取引の確認、記録保存といったコンプラ対応が、部署ごと・担当者ごとの経験則で回っているケースです。監督指針は取引時確認や疑わしい取引の届出を単なる事務処理ではなく全行的な法務コンプライアンスの課題として扱うよう求めており、属人化はそのまま統制上のリスクになります。属人化の解き方は業務の属人化を解消する進め方と仕組み化のコツを参照してください。

統制を落とさずに効率化する進め方は?5ステップ

金融機関の業務改善は、次の5ステップで進めます。ポイントは、いきなり削らず「確認の目的」を可視化してから統合・廃止する順序です。

  1. 業務棚卸し:審査・事務・コンプラ対応の全工程を、担当・所要時間・発生頻度で洗い出す。抜け漏れない洗い出し方は業務棚卸しの手順に沿う。
  2. 確認の目的で仕分ける:各チェックを「法令・監督指針が求める確認」「内部統制上必要な確認」「慣習で残っている確認」に分類する。ここが金融機関特有の一工程。
  3. 重複だけを統合・廃止する:同じ目的の確認が複数工程にまたがっていれば1つに集約。統制目的が異なる確認は残す。
  4. 標準化する:残す確認をチェックリストと事務規程に一本化し、最終確認の責任分界を明確にする。手順は業務標準化の進め方|属人化を防ぐ手順マニュアル化のステップを参照。
  5. システム化する(HITL):定型の照合・入力をAI-OCRや突合の自動化に置き換え、判断が必要な部分は人が最終確認する(Human-in-the-loop)。

この順序を守ると、「効率化のために統制を緩めた」のではなく「統制の目的を整理した結果、ムダな確認が減った」という説明が現場にも監査にも通ります。

【事例】地域金融機関のバックオフィスBPRで書類チェック工程を約3割圧縮した進め方

ここからは、当社が支援した地域の中堅金融機関(バックオフィス数十名規模)の匿名事例です。守秘のため、業界・規模・課題・打ち手・成果のみを記載します。

課題:融資・審査の書類が「担当→役席→本部」で多重に照合され、同じ書類を実質3回チェックしていました。顧客情報の名寄せや入力突合は手作業で繁忙期に滞留。本人確認や記録保存の手順は部署ごとにばらつき、担当者の経験に依存していました。

打ち手:まず業務棚卸しで全チェック工程を洗い出し、一つひとつを「何のための確認か」で仕分けました。すると、同じ書類の同じ項目を、統制目的が重複したまま複数の役席が確認していた工程が見つかりました。そこを「最終確認者は誰か」を決めて1工程に集約。チェックリストと事務規程を一本化し、定型の照合・入力はAI-OCRと突合の自動化に置き換え、与信判断など人の判断が要る部分は残しました。

成果:多重化していた書類チェックの工程数を約3割圧縮。繁忙期の残業と差し戻しが目に見えて減りました。数字以上に大きかったのは、「削っても統制は緩んでいない」と現場と監査部門の双方が納得できたことです。

この案件で得た最大の学びは、金融機関の業務改善は「減らす」より先に「何を守る確認か」を仕分ける工程が要る、ということ。ここを飛ばして工数削減から入ると、現場が統制不安から改善に抵抗し、施策が定着しません。判断が要らない定型業務は生成AIやAI-OCRで置き換えられる余地が大きく、具体的な使いどころは金融機関の生成AI活用にまとめています。

金融庁の考え方に沿って「統制を保ったまま」効率化するには?

効率化と統制を両立させる鍵は、監督指針が求める「態勢」を壊さない形で改善を設計することです。具体的には次の3点を押さえます。

  • 諸規定の明確化を効率化と同時に行う:確認を統合・廃止するなら、事務規程・マニュアルを必ず更新し、牽制機能(誰が誰をチェックするか)を残す。規定の空白は事務リスクに直結します。
  • 法務コンプラ対応は”事務”扱いしない:取引時確認・疑わしい取引の確認・記録保存は、効率化対象の一般事務と切り分け、全行的な統制課題として設計する。
  • システム化はシステムリスクとセットで考える:監督指針はシステムリスクを「システムの不備等により顧客や銀行が損失を被るリスク/不正使用による損失リスク」と定義し、管理態勢の充実強化を極めて重要としています。自動化・AI導入は、可用性・アクセス管理・ログ・障害対応を含めて設計します(参考:FISC 金融機関等のシステムリスク管理の解説書)。

言い換えれば、金融機関の業務改善は「業務改善の型」に「統制の設計」を重ねる二層構造です。効率化の一般手順だけでも、統制論だけでも進みません。両方を接続できる体制で臨むことが、定着する改善の条件になります。

よくある質問(FAQ)

Q. 金融機関の業務改善はどこから始めるべきですか?
A. まず業務棚卸しで審査・事務・コンプラ対応の全工程を可視化し、各確認を「法令・監督指針が求める確認」「内部統制上必要な確認」「慣習で残っている確認」に仕分けるところから始めます。削るのはその後で、目的が重複する確認だけに絞ります。

Q. 多重チェックを減らすと統制が弱くなりませんか?
A. 目的が重複する確認を統合するだけなら統制は弱まりません。むしろ「最終確認者は誰か」を明確にすることで、形骸化していたチェックが実効性を取り戻します。統制目的が異なる確認は残すのが原則です。

Q. 金融庁の監督指針は業務改善にどう関係しますか?
A. 監督指針は事務リスク・システムリスクの管理態勢を求めており、業務改善はこの態勢を壊さない範囲で設計する必要があります。諸規定の明確化と牽制機能の維持、コンプラ対応の切り分けが前提条件になります。

Q. AIやAI-OCRで金融事務はどこまで自動化できますか?
A. 名寄せ・照合・転記など判断を伴わない定型業務は自動化の余地が大きい一方、与信判断やコンプラ判断は人が最終確認する(Human-in-the-loop)設計が基本です。システムリスク管理とセットで導入します。

Q. 業務改善の効果はどう測ればよいですか?
A. 工程数・処理時間・差し戻し件数・残業時間などを改善前後で比較します。金融機関では「統制が緩んでいないこと」を監査部門と確認できる状態にしておくことも、効果と同じくらい重要な指標です。

まとめ:統制の仕分けから始める業務改善を

金融機関の業務改善は、効率化の型に「統制の仕分け」という一工程を重ねることで、現場にも監査にも通る改善になります。審査・照合・コンプラ対応に溜まった非効率は、確認の目的を可視化すれば、統制を落とさずに削れます。

キュリオシティは、現場のヒアリングによる業務可視化から、統制を保った効率化・AI活用の設計・定着支援までを一気通貫で支援しています。


監修:大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)/現場主義 × AI で、統制を保ったままの業務改善を支援します。


監修者

大槻 伸夫/ 代表取締役 CEO

キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO。「現場主義×AI」を掲げ、業務改善(BPR)・PMI・経営支援・AIプロダクト開発を一気通貫で支援。クライアント現場での実行支援を重視する。

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