生成AIを業務で使い始めると、必ず「うちは何に気をつければいいのか」という問いにぶつかります。禁止すれば安全なわけではなく、かといって無防備に全社展開すれば事故は起きます。本記事では、企業が備えるべき生成AIのリスクを5つの類型+ガバナンスで一覧に整理し、公的ガイドラインを出典に、実務での備え方まで解説します。
生成AIの主なリスクは「情報漏えい・ハルシネーション(誤情報)・著作権・個人情報・シャドーAI」の5類型に集約でき、全面禁止でなく管理して使う体制づくりが要点です。
キュリオシティが生成AIの導入支援・PoC(概念実証)で実際に配慮してきたリスクを匿名で類型化しました。各リスクの詳細は個別記事へのリンクをたどれるハブ記事として構成しています。
生成AIのリスクにはどんな種類がある?
生成AIのリスクは、大きく「セキュリティ」「出力品質」「法務・コンプライアンス」「組織・ガバナンス」の4観点に分かれ、実務では以下の5類型で押さえると抜け漏れがありません。まずは全体像を一覧で確認してください。
| # | リスク類型 | 主な観点 | 何が起きるか(例) |
|---|---|---|---|
| 1 | 情報漏えい | セキュリティ | 機密・顧客情報の入力が外部に残る/学習に使われる |
| 2 | ハルシネーション | 出力品質 | 事実でない内容を自信満々に出力し、そのまま業務に流れる |
| 3 | 著作権侵害 | 法務 | 生成物が既存著作物に類似し、権利侵害になる |
| 4 | 個人情報・プライバシー | 法務 | 個人情報の入力・取得が個人情報保護法に抵触する |
| 5 | シャドーAI | 組織・ガバナンス | 会社が把握しないAI利用が現場で常態化する |
以下、それぞれの中身と備え方を順に見ていきます。
情報漏えいリスクとは?なぜ起きる?
情報漏えいは、社外の生成AIサービスに機密情報や個人情報を入力し、それが外部サーバーに残る・学習に使われることで起きる、企業にとって最も切実なリスクです。
無料版の生成AIには、入力内容がモデル改善(学習)に使われる設定のものがあります。営業秘密・未公開の財務数値・顧客名簿などをそのまま貼り付ければ、意図せず社外へ情報を出したことになりかねません。私たちがPoCで最初に線を引くのも、まさにこの「何を入力してよいか」の境界です。
対策の基本は、①学習に使われない法人向けプラン/API・社内閉域環境を使う、②入力してよいデータの分類を先に決める、③ログを取り監査できるようにする、の3点です。詳しくは生成AIのセキュリティ対策で解説しています。
ハルシネーション(誤情報)リスクとは?
ハルシネーションとは、生成AIが事実に基づかない内容を、あたかも正しいかのように出力する現象です。
生成AIは「もっともらしい次の言葉」を確率的に選ぶ仕組みのため、存在しない法令・数字・出典を作り出すことがあります。これを検証せず提案書や顧客回答に使うと、信頼失墜や誤った意思決定に直結します。
実務での抑え方は、社内文書を根拠に回答させるRAG(検索拡張生成)の活用と、出力を人が確認してから使う運用(ヒューマン・イン・ザ・ループ)の徹底です。具体策は生成AIのハルシネーション対策にまとめています。
著作権リスクとは?業務利用で何が問題になる?
著作権リスクは、生成物が既存の著作物に依拠・類似している場合に、権利侵害と判断されうる問題です。
学習段階と、生成・利用段階で論点が分かれます。実務で特に注意すべきは後者で、既存キャラクターや文章に酷似した生成物を公開・販売すると、著作権侵害(依拠性・類似性)を問われる可能性があります。反対に、AI生成物そのものに著作権が認められるかという論点もあります。
備え方は、①既存作品に似せる指示をしない、②公開前に類似性チェックを挟む、③生成物の権利関係を契約・社内規程で明確化する、です。詳細は生成AIの著作権リスクと対策をご覧ください。
個人情報・プライバシーのリスクとは?
生成AIに個人情報を入力する行為は、個人情報保護法上の「利用目的の範囲内か」が問われるため、無自覚な入力が法令違反につながります。
個人情報保護委員会は2023年6月2日、OpenAIに対して注意喚起を行い、個人情報取扱事業者がプロンプトに個人情報を入力する際は「特定した利用目的の達成に必要な範囲内」であることを十分に確認するよう求めています(同委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起」)。要配慮個人情報の取得にはさらに慎重さが必要です。
対策は、氏名・連絡先などを入力前にマスキングする、要配慮情報は原則入力しない、といった運用ルール化が中心です。生成AIと個人情報保護で入力・運用ルールを具体化しています。
シャドーAI(無断利用)とは?なぜ危険?
シャドーAIとは、情報システム部門が承認・管理していない生成AIを、従業員が個人判断で業務に使っている状態を指します。
あるレポートでは、従業員の約68%が個人アカウント経由で無料版の生成AIを業務利用しているとされます。会社が「誰が・どのツールで・どんなデータを扱っているか」を把握できないため、上記1〜4のリスクがすべて見えないところで進行するのが怖さです。
重要なのは、全面禁止は逆効果という点です。禁止しても使いたい従業員は私物端末やVPN経由に移り、かえって統制が効かなくなります。安全な公式AIを配り、使ってよい範囲を明示するほうが実効性は高くなります。
生成AIのリスクは誰の責任?(公的ガイドラインとガバナンス)
生成AIのリスク管理は、国の公的ガイドラインが「開発者・提供者・利用者」の各立場に責務を割り当てており、企業は”利用者”として体制を整える責任があります。
- AI事業者ガイドライン(第1.1版):総務省・経済産業省が2025年3月28日に公表。人間中心・安全性・公平性などの共通指針と、立場別の責務を整理。
- AIセーフティ・インスティテュート(AISI):IPA内に2024年2月設立。AIの安全性評価の手法・基準づくりを担う。
- 個人情報保護委員会:生成AIサービス利用に関する注意喚起を継続的に発信。
これらを自社に落とし込む枠組みとして、私たちはNIST AI RMFの「Govern(統治)/Map(把握)/Measure(測定)/Manage(管理)」の4機能を実務の型として援用しています。こうした継続的な統制の仕組みづくりが、いわゆるAIガバナンスです(※AIガバナンスの全体像は別記事で詳述予定)。
企業は生成AIのリスクにどう備える?(管理して使う5ステップ)
結論は「過度に萎縮せず、管理して使う」こと。以下の5ステップで、禁止せずにリスクを抑える体制を作れます。
- 利用範囲を決める:使ってよい業務・データ、禁止事項を明文化する(生成AI 社内利用規程の作り方)。
- 安全な環境を配る:学習に使われない法人プラン・社内閉域・RAG環境を全社に用意する。
- 教育する:ハルシネーション・入力禁止情報など、リスクの勘所を全社員が理解する。
- 人が確認する運用:重要な出力は必ず人がチェックしてから使う。
- 測定・改善する:利用ログを監査し、ルールを継続的に見直す。
キュリオシティは「現場主義 × AI」で、PoCの小さく始める段階からこの5ステップを設計に織り込み、事故を出さずに現場で使われる状態づくりを支援しています(生成AI開発・PoC支援/生成AI導入支援とは)。
よくある質問(FAQ)
Q. 生成AIの一番大きなリスクは何ですか?
A. 業務利用で最も切実なのは情報漏えいです。機密・個人情報を外部サービスに入力しない運用と、学習に使われない環境の用意が最優先です。
Q. 生成AIは禁止すれば安全ですか?
A. いいえ。全面禁止は従業員のシャドーAI(無断利用)を生み、かえって統制が効かなくなります。安全な環境を配り、使ってよい範囲を示すほうが安全です。
Q. 生成AIのリスク対策で最初にやるべきことは?
A. 「入力してよいデータ/使ってよい業務」を決める社内利用規程の整備です。ルールを先に置くことで、教育も環境整備も一貫します。
Q. ハルシネーションは完全になくせますか?
A. 完全にはなくせません。RAGで根拠に基づかせ、重要な出力は人が確認する運用で、実務上許容できる水準まで抑えるのが現実的です。
Q. 公的なガイドラインはありますか?
A. あります。総務省・経済産業省「AI事業者ガイドライン(第1.1版・2025年3月)」や個人情報保護委員会の注意喚起が代表例です。利用者としての責務を確認しましょう。
生成AIのリスクを「管理して使う」体制づくりを支援します
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自社のリスク整理や社内展開の進め方について相談したい方は、無料相談はこちらからお気軽にお問い合わせください。
監修:大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)/「現場主義 × AI」で中堅・中小企業の生成AI導入・PoCを支援。
