「人が増えてきたので、そろそろ組織図をきちんと作りたい」「作ってはみたが、実態と合っておらず誰も見ていない」——組織づくりの相談で、私たちが最も多く受けるのがこの2つです。組織図は“描く”こと自体は簡単ですが、戦略・成長フェーズ・権限とセットで設計しないと、貼り出した瞬間から形だけのものになります。
組織図の作り方は「①目的を決める→②型(機能別・事業部制など)を選ぶ→③部署と役職を洗い出す→④指揮命令系統と権限を線でつなぐ→⑤作図→⑥定期的に見直す」の6ステップで進めます。核心は、型選びを“事業戦略と成長フェーズ”から逆算することです。
本記事では、組織図の種類と選び方、作成の6ステップ、成長フェーズごとの組織設計、権限と責任の決め方までを整理したうえで、「組織図が実態と乖離する」というよくある失敗を防ぐ運用まで、経営支援の現場で実際に効いた視点を匿名化して盛り込みます。
組織図とは?何のために作るのか?
組織図とは、会社の部署・役職・指揮命令系統を図で表し、「誰が・何に責任を持ち・誰に報告するか」を一目で分かるようにしたものです。目的は装飾ではなく、意思決定と責任の所在を明確にすることにあります。
作る前に、まず「何のために作るのか」を決めます。目的が曖昧なままだと、載せる情報がぶれ、結局使われない図になります(出典:bizocean ジャーナル「組織図の書き方」)。主な目的は次の3つです。
- 指揮命令系統の明確化:報告・相談・決裁のルートを一本化し、「誰の指示で動くか」の混乱をなくす
- 役割と責任の可視化:業務の重複・抜け漏れを防ぎ、評価や権限の土台にする
- 社内外への説明:新入社員のオンボーディング、取引先・金融機関への会社説明に使う
目的が決まると、載せるべき情報(役職名だけか、氏名や顔写真まで入れるか)が自動的に決まります。組織図は「経営の意思を可視化した設計図」だと捉えると、後段の型選びがぶれません。
組織図にはどんな種類がある?型の選び方は?
組織図の型は、大きく4つです。「専門性を深めたいか(機能別)」「事業ごとのスピードを上げたいか(事業部制)」を軸に選ぶのが基本で、迷ったら自社の事業数と規模から逆算します。
| 型 | 構造 | 向いている状況 | 主なデメリット |
|---|---|---|---|
| 機能別(職能別)組織 | 営業・製造・開発・管理など機能で部門化 | 単一事業・専門性の蓄積を優先したい | 部門間の連携が弱く、全体最適が利きにくい |
| 事業部制組織 | 製品・地域・顧客など事業単位で区切り、中に機能を内包 | 複数事業・市場変化に速く対応したい | 機能が重複しコストが増える/セクショナリズム |
| マトリックス組織 | 機能軸×事業(プロジェクト)軸の二重所属 | 専門性と機動力を両立したい大規模組織 | 命令系統が二重になり、指示が衝突しやすい |
| フラット組織 | 中間管理層を減らし階層を薄くする | 少人数・スピードと現場裁量を優先したい | 権限と責任の範囲が曖昧になりやすい |
一般に、複数の上司を持つマトリックス型は命令系統が複雑になり、運用難度が高いことが知られています(出典:カオナビ人事用語集「ピラミッド組織とは」)。「かっこいい型」ではなく「回せる型」を選ぶ——これが失敗しない第一条件です。多くの中小企業では、まず機能別で足場を固めるのが定石です。
もっともシンプルな機能別組織は、次のような階層イメージになります(社長の下に機能ごとの部門長、その下に担当が並ぶ形)。
┌─────────┐
│ 社長 │
└────┬────┘
┌────────────┼────────────┐
┌────┴───┐ ┌────┴───┐ ┌────┴───┐
│ 営業部 │ │ 製造部 │ │ 管理部 │
└────┬───┘ └────┬───┘ └────┬───┘
担当A・B 担当C・D 担当E・F
事業部制の場合は、この「社長の直下」が営業・製造・管理ではなく「A事業部・B事業部」に置き換わり、各事業部の中に営業や製造といった機能を内包します。
┌─────────┐
│ 社長 │
└────┬────┘
┌──────────┴──────────┐
┌────┴────┐ ┌────┴────┐
│ A事業部 │ │ B事業部 │
└────┬────┘ └────┬────┘
営業・製造・管理 営業・製造・管理
機能別は「機能を軸に一列」、事業部制は「事業を軸に区切り、各事業の中に機能を持つ」——自社がどちらの並びに近いかを描いてみると、選ぶべき型が見えてきます。
組織図の作り方は?6ステップで解説
組織図は、次の6ステップで作ります。作図ツールから入るのではなく、「目的→型→洗い出し」の順で中身を固めてから描くのがコツです。
- 目的を決める:指揮系統の明確化か、コミュニケーション活性化か。目的で載せる情報が変わる
- 型を選ぶ:機能別/事業部制/マトリックス/フラットから、事業戦略と規模で選ぶ
- 部署・役職を洗い出す:部→課→係→担当まで、既存と“あるべき”の両方を書き出す(出典:HR大学「組織図の作り方」)
- 指揮命令系統と権限をつなぐ:上下関係の実線、協力関係の点線を引き、各役職の決裁範囲を決める
- 作図する:PowerPoint・Excel・専用ツールで清書。1つの箱に1つの責任を対応させる
- 定期的に見直す:人事異動・組織変更のたびに更新し、実態と合わせ続ける
このうち差がつくのは④です。箱と線を描くだけでなく、各ポジションに「どこまで自分で決めてよいか(権限)」をひも付けると、組織図が単なる座席表から“意思決定の地図”に変わります。ここが甘いと、後述の「実態との乖離」を招きます。
成長フェーズに合わせて組織はどう変えるべき?
組織設計に唯一の正解はなく、事業フェーズ・事業数・規模に応じた「最適解」を選び直す作業です。人数の増加に合わせて、次のように進化させるのが一般的なパターンです(出典:start-link「組織設計の基本」)。
| フェーズ | 目安人数 | 推奨する型 | 設計の勘所 |
|---|---|---|---|
| 創業期 | 〜10名 | フラット | 役割を固めすぎず、経営者が全体を見る |
| 拡大初期 | 10〜50名 | 機能別 | 「営業・製造・管理」で分け、部門長を立てる |
| 多角化期 | 50〜200名 | 事業部制 | 事業ごとに損益責任を持たせ、権限を委譲する |
| 大規模期 | 200名〜 | マトリックス等 | 機能と事業を掛け合わせ、全社最適を図る |
背景にあるのは「組織は戦略に従う」(経営史家A.D.チャンドラーが1962年の著書で示した命題)という原則です。戦略が変われば、それを実行できる組織も変える——順序が逆になると組織は機能しません。組織を変えるタイミングの目安は明快で、「今の組織構造が、戦略の実行を妨げていると感じたとき」です。
実務では、人数が30〜50名を超えたあたりで壁が来ます。私たちの支援現場でも、この規模で「採用は進むのに役割が後付けになる」「同じ案件に社長と部門長から違う指示が飛ぶ(二重指示)」「稟議が社長の机で滞留する」という症状が同時多発するのを繰り返し見てきました。ここで機能別へ移行し、部門長に権限を渡せるかが、次の成長の分かれ目になります。中小企業では管理者の育成が組織拡大のボトルネックになりやすいことは、中小企業白書でも人材面の課題として繰り返し指摘されています(参考:中小企業庁 中小企業白書)。組織づくりは、中期経営計画や事業戦略と一体で設計するのが原則です。
権限と責任はどう決める?(組織設計の5原則)
組織図の“線”に意味を持たせるのが、権限と責任の設計です。土台になるのが、古典的な組織設計の5原則です(出典:ReVerve Consulting「組織設計の5原則」)。
- 専門化の原則:分業により各人・各部門を特定業務に専門化し、効率と熟練を高める
- 権限責任一致の原則:与える権限と負わせる責任は同じ大きさにする(片方だけでは機能しない)
- 統制範囲の原則:1人の管理者が見られる部下数には限界がある(複雑な業務ほど少人数)
- 命令統一性の原則:指示は特定の1人から受ける。命令系統を二重にしない
- 例外の原則:定型業務は権限委譲し、管理者は例外的な判断に集中する
とくに中小企業でつまずきやすいのが②です。「責任は負わせるのに、決める権限は渡さない」状態だと、部門長は動けません。役職ごとに「いくらまで・どこまで自分で決めてよいか」を金額や範囲で明文化することで、権限委譲が進み、次世代管理者の育成にもつながります。権限移譲の具体的な進め方や、決めた役割を制度に落とす手順は、業務分掌の作り方や人事評価制度の作り方と合わせて設計すると抜けがありません。
私たちは、この一連を「組織を動かす3点セット」と呼んでいます。すなわち、組織図(構造)・業務分掌(役割)・権限表(意思決定)の3つをワンセットで整えるという考え方です。組織図だけを立派に作っても、分掌と権限表が伴わなければ、絵に描いた餅で終わります。

なぜ組織図は実態と乖離するのか?(現場でよくある失敗)
「作ったのに使われない」組織図には、共通する原因があります。中小企業では、組織や権限のルールが明文化されず、部長・課長の権限範囲が極めて曖昧なまま運用されているケースが少なくありません(出典:中小企業活力向上プロジェクト(keieiryoku.jp))。私たちが支援の現場で繰り返し見てきた乖離は、次の3つの断層に集約されます。
- 採用先行の断層:人を採ってから役割を後付けするため、箱と人が合わなくなる
- 権限のグレーゾーン:線は引いたが「誰が決めるか」が曖昧で、結局すべて社長決裁に戻る
- 更新放置の断層:異動や退職が反映されず、半年で古い図になる
匿名化した支援事例(従業員数50名規模・サービス業):社員数が2年で倍増したにもかかわらず、組織図は創業期の“社長→全員”のフラットなままでした。日々の発注・採用・値引きまで、ほぼ全ての判断が社長の承認待ちになり、決裁の行列で現場が止まる状態でした。そこで、①機能別(営業・制作・管理)へ組み替え、②各部門長に「一定金額までの発注・採用面接の一次判断」を委譲する権限表を作成、③組織図・業務分掌・権限表を四半期ごとに更新する運用に変えました。
結果は、支援先ヒアリングによる概算で、日常の意思決定の約7割を部門長の一次判断で完結できるようになり、社長承認が必要な案件が大きく減少。承認待ちで滞留していた案件のリードタイムも短縮し、社長は例外的な重要判断に集中できるようになりました(数値は当社支援先での概算です)。ポイントは、組織図を“描き直した”ことではなく、権限表と更新ルールを同時に入れたことです。図(箱と線)だけを直しても、決める権限が動かなければ現場は変わりません。
図を立派にすることより、「更新し続ける仕組み」と「権限のひも付け」を持てるかが、形骸化を防ぐ本質です。組織図は完成品ではなく、経営とともに動かし続ける“生きた設計図”だと捉えてください。
よくある質問(FAQ)
Q. 組織図は何人くらいになったら作るべきですか?
A. 明確な人数基準はありませんが、「社長が全員の業務を把握しきれない」と感じ始めたら作りどきです。目安として10名を超えるあたりから、指揮命令系統の明確化のために必要になります。少人数でも、役割の重複や決裁の混乱があるなら早めに作る価値があります。
Q. 組織図はどのツールで作ればよいですか?
A. まずはPowerPointやExcel、Googleスプレッドシートで十分です。重要なのはツールより中身(型・権限・更新運用)です。人数が増え、人事情報と連動させたくなったら、人事管理システムや専用の作図ツールへ移行するのが現実的です。
Q. 機能別と事業部制はどちらを選ぶべきですか?
A. 単一事業で専門性を深めたいなら機能別、複数事業を抱え市場変化に速く対応したいなら事業部制が基本です。多くの中小企業は、まず機能別で足場を固め、事業が増えた段階で事業部制へ移行します。「回せる型」を選ぶことが最優先です。
Q. 組織図が実態と合わなくなるのを防ぐには?
A. ①組織図・業務分掌・権限表をワンセットで整える、②異動・組織変更のたびに更新する、③四半期など更新のタイミングを決めておく、の3点が有効です。作って終わりにせず、「更新し続ける仕組み」を運用に組み込むことが本質的な対策です。
まとめ:組織図は「型・権限・更新」で決まる
組織図の作り方は、6ステップ(目的→型→洗い出し→権限つなぎ→作図→見直し)が基本です。成否を分けるのは作図の巧拙ではなく、①事業戦略と成長フェーズから型を選ぶ、②組織図・業務分掌・権限表を3点セットで整える、③更新し続ける仕組みを持つ、の3点です。組織は戦略に従います。人が増える前に、次のフェーズを見据えて設計し直しておくことが、成長のボトルネックを作らないコツです。
組織設計や権限の見直し、幹部への権限委譲の進め方でお悩みなら、経営支援コンサルティングや幹部育成の仕組みづくりもあわせてご覧ください。自社の状況に合わせた組織設計を一緒に描きたい方は、無料相談からお気軽にご連絡ください。現場主義の視点で、貴社の“動く組織図”づくりをご支援します。
