2026.09.03

経営支援

バリューチェーン分析のやり方|自社の強みと改善余地を可視化する

「バリューチェーン分析をやってみたが、事業活動を主活動・支援活動に分けて図にしただけで、結局どこが自社の強みで、どこを直せばいいのか分からない」——経営支援と業務改善(BPR)の現場で、いちばん多く聞くつまずきがこれです。バリューチェーン分析は自社の価値の流れを分解する定番フレームワークですが、活動を”きれいに並べる”ことが目的化してしまい、肝心の「強み」と「改善余地」まで踏み込めないケースが少なくありません。

先に結論をお伝えします。バリューチェーン分析のやり方は「①活動の洗い出し→②コスト・工数の把握→③強み・弱みの評価→④VRIOで差別化の源泉を特定→⑤戦略と業務改善に落とす」の5ステップです。価値の8割は③〜⑤、つまり「分解した活動を、伸ばす強みと直すボトルネックに仕分けて打ち手に変える」ところにあります。活動を主活動・支援活動に分けるのは、あくまで準備段階です。

この記事では、バリューチェーンの基本の見方から5ステップの手順、そして”分けて終わり”にしないための独自フレーム、戦略と業務改善へのつなげ方までを解説します。あわせて、私たちが”現場主義 × AI”で戦略支援・業務改善を手がけるなかで見てきた「使えるバリューチェーン分析/使えない分析」の違いもお伝えします。


バリューチェーン分析とは?サプライチェーンとの違いは?

バリューチェーン分析とは、自社の事業活動を「価値を生む一連の流れ(価値連鎖)」として分解し、どの活動でどれだけの価値・コストが生まれているかを可視化して、強みと改善余地を見つけるためのフレームワークです。経営学者マイケル・ポーターが著書『競争優位の戦略』(1985年)で提唱した考え方で、活動を「主活動」と「支援活動」に分けて捉えます。

区分 活動 内容の例
主活動 購買物流(仕入) 原材料・商品の調達・受け入れ・在庫
主活動 製造・オペレーション 加工・組立・サービス提供
主活動 出荷物流 保管・配送・納品
主活動 販売・マーケティング 営業・販促・見積・受注
主活動 サービス 保守・アフターサポート・問い合わせ対応
支援活動 全般管理(インフラ) 経営企画・経理・法務・情報システム
支援活動 人事・労務管理 採用・育成・評価・配置
支援活動 技術開発 研究開発・生産技術・DX・IT化
支援活動 調達 仕入先の選定・購買条件の交渉

よく混同されるのがサプライチェーンとの違いです。サプライチェーンが「原材料→製造→流通→販売」という企業をまたいだモノの流れを指すのに対し、バリューチェーンは自社の内部で価値がどう積み上がるかに注目します。前者はモノの供給網、後者は価値の連鎖——視点が「外」か「内」かが違い、バリューチェーン分析は自社の強み・弱みを掘るための内向きの分析だと押さえておくと混乱しません。

バリューチェーン分析のやり方は?基本の5ステップ

バリューチェーン分析は次の5ステップで進めます。多くの解説は「活動を洗い出して分類する」までを厚く説明しますが、実務では③の評価から⑤の戦略化・改善までやって初めて価値が出ます。

STEP1|自社の活動を洗い出して主活動・支援活動に分ける

まず自社の事業活動をすべて書き出し、主活動(購買物流・製造・出荷物流・販売/マーケ・サービス)と支援活動(全般管理・人事・技術開発・調達)に振り分けます。ここで業種に合わせて活動名を自社の言葉に置き換えるのがコツです。たとえば商社なら「製造」は「加工・流通加工」、SaaSなら「出荷物流」は「デリバリー・オンボーディング」になります。実際の記入例で言えば、ある製造業では主活動の「販売・マーケティング」を〈引き合い受付→仕様調整→見積作成→受注〉と自社の工程名まで割ってから分析に入りました。教科書どおりの名称にこだわらず、自社の実態に合わせて分解することで、後の強み・改善余地の評価が具体的になります。

STEP2|各活動のコスト・工数を把握する

分けた活動ごとに、かかっているコストや工数(人員・時間)をあてます。厳密な原価計算までいかなくても、「どの活動に人とお金が偏っているか」の当たりがつけば十分です。ここで価値に見合わないコストがかかっている活動が浮かび上がります。工数の可視化の具体的な手順は業務可視化のやり方で詳しく解説しています。

STEP3|各活動の強み・弱みを評価する

活動ごとに「競合と比べて強いか・弱いか」を評価します。顧客が価値を感じている活動はどこか、逆に他社に見劣りする活動はどこかを、できるだけ事実(顧客の声・受注/失注理由・品質データ)に基づいて判断します。ここが主観の寄せ集めになると分析全体が崩れるので、根拠を添えるのが鉄則です。

STEP4|VRIOで差別化の源泉を特定する

強みと見た活動が「本当に差別化の源泉になるか」を、VRIO(Value=経済価値/Rarity=希少性/Imitability=模倣困難性/Organization=組織)の4問で検証します。模倣されやすい強みは長続きしません。VRIOをくぐらせて、持続的な競争優位につながる活動を絞り込みます(詳しくは後述)。

STEP5|戦略と業務改善に落とす

最後に、強みは「どう伸ばして差別化するか」、弱み・ボトルネックは「どう直すか(コスト削減・標準化・自動化)」の打ち手に変換します。ここでバリューチェーン分析は、戦略(差別化・コストリーダーシップ)と業務改善(BPR)の両方の起点になります。

主活動・支援活動では何を見る?活動別のチェック項目

「各活動で何を見ればいいか分からない」という声が多いので、着眼点を整理します。すべてを深掘りせず、自社の収益に効く活動から見ていくのが効率的です。

活動 見るポイント(価値・コスト・改善余地)
購買物流・調達 仕入価格・在庫水準・発注の手間、仕入先への依存度
製造・オペレーション 品質・歩留まり・リードタイム、属人化・手戻り
出荷物流 配送コスト・納期遵守率、倉庫・輸送のムダ
販売・マーケティング 受注率・単価・顧客獲得コスト、提案・見積の速さ
サービス 顧客満足・継続率、問い合わせ対応の負荷
全般管理・人事・技術開発 間接業務の工数、DX・IT化の遅れ、育成・技術の蓄積

支援活動は見落とされがちですが、間接業務の非効率やIT化の遅れが、主活動全体の足を引っ張っていることは珍しくありません。主活動だけでなく、支援活動まで含めて見るのがバリューチェーン分析の勘所です。

強みと改善余地をどう見つける?(独自フレーム「価値連鎖3レンズ」)

バリューチェーン分析がうまくいかない最大の理由は、活動を主活動・支援活動に分類した時点で満足してしまい、「だから何を伸ばし、何を直すか」に進まないことです。私たちが現場で見てきた「使えない分析」は、ほぼ例外なくここで止まっています。

そこで私たちは、経営支援・業務改善(BPR)の案件で価値連鎖を分解してきた経験から、分解した各活動に次の「価値連鎖3レンズ」を必ず当てるようにしています。1つの活動を3つのレンズで見ることで、戦略(強み)と業務改善(改善余地)を同時に浮かび上がらせる、現場運用のなかで固めた簡易フィルターです。

  1. 強みレンズ:この活動は競合と差がつく強みか?(顧客が対価を払う理由になっているか)
  2. コストレンズ:この活動のコストは生む価値に見合っているか?(過剰なコスト・工数はないか)
  3. ボトルネックレンズ:この活動が全体の足を引っ張っていないか?(品質・スピードの制約になっていないか)

このうち①は戦略(差別化)の入口、②③は業務改善(BPR)の入口です。バリューチェーン分析を戦略と業務改善の橋渡しに使えるのは、同じ1枚の価値連鎖図から「伸ばす活動」と「直す活動」を同時に取り出せるからです。

たとえば、ある中堅の卸売業(従業員120名規模)の戦略・業務改善をご支援した際、当初のバリューチェーン図は活動が整然と並んでいるだけで、打ち手はゼロでした。そこで各活動に3レンズを当てたところ、強みは「販売」の提案力(顧客との関係が深く失注が少ない)、改善余地は「購買物流」の過剰在庫(コストレンズ)と「全般管理」の受発注の手作業(ボトルネックレンズ)にあると特定できました。ここから「提案力という強みを軸にした取扱商材の拡大(差別化戦略)」と「在庫適正化・受発注の自動化(業務改善)」という、攻めと守りの打ち手が同時に導かれました。結果として、過剰在庫はおおむね2〜3割の圧縮、受発注まわりの手作業は月あたり数十時間規模の削減が見込める試算となり、浮いた工数を提案という強みの活動に振り向ける方向で整理できました(数値は同種案件の匿名レンジ)。活動を眺めるのではなく、3レンズで強みと改善余地に仕分ける——これが”分けて終わり”にしないコツです。

なお、活動別のコスト・工数の棚卸しは生成AIとの相性が良い工程です。私たちの支援でも、業務の洗い出しやコスト構造のたたき台づくりに生成AIを使い、短時間で素案を作ってから人が事実確認・取捨選択する進め方をとります(AIは”分解して並べる”、強み・改善余地の判断は人)。「どの活動が差別化の源泉か」という意味づけは経営判断そのものなので、ここは必ず人が担います。

VRIO分析で差別化の源泉をどう見極める?

強みと見た活動が「持続する競争優位」になるかは、VRIOの4つの問いで確かめます。上から順に問い、1つでも「No」なら、その先の優位性は限定的だと判断します。

問い 内容 Noのときの意味
Value(経済価値) その活動は機会をつかみ、脅威を防ぐ価値があるか 競争劣位。まず価値を生む活動へ
Rarity(希少性) その強みを持つ競合は少ないか 価値はあるが横並び(競争均衡)
Imitability(模倣困難性) 他社が真似るのは難しいか・コストがかかるか 一時的な優位にとどまる
Organization(組織) 強みを活かす組織・仕組みが整っているか 宝の持ち腐れ。仕組み化が必要

ポイントは4番目の「組織」です。せっかくの強みも、それを活かす仕組み(人材・評価・オペレーション)がなければ持続しません。バリューチェーン分析で見つけた強みは、VRIOの「O」まで確認して初めて「守れる強み」になります。強み・弱みを戦略に落とす流れはSWOT分析のやり方ともつながります。

バリューチェーン分析を戦略と業務改善にどうつなげる?

バリューチェーン分析は単独で使うより、戦略づくりと業務改善の”共通の起点”として使うと効果を発揮します。3レンズで仕分けた結果を、次のようにつなげます。

  • 強み → 差別化戦略・事業の選択と集中へ:VRIOをくぐった強みを軸に、どの事業・商材に資源を集中するかを決めます。複数事業を持つ場合は事業ポートフォリオの見直し方と組み合わせ、強い価値連鎖を持つ事業に寄せていきます。
  • 改善余地(コスト・ボトルネック)→ 業務改善(BPR)へ:コストレンズ・ボトルネックレンズで浮いた活動は、標準化・自動化・廃止といった業務改善の対象です。バリューチェーン分析は「どの業務から手をつけるか」の優先順位づけに直結します。
  • 全体 → 中期経営計画へ:強みを伸ばす戦略と、弱みを直す改善を、中期経営計画の策定手順のなかで重点戦略・KPI・アクションに落とします。

私たちキュリオシティは、”現場主義 × AI”で中期経営計画・経営支援コンサルティングを提供しています。バリューチェーン分析を「活動を並べて終わる資料」にせず、伸ばす強みと直すボトルネックに仕分け、戦略と業務改善の両輪に落とし込む——戦略と現場(BPR)の両方を一気通貫で支援できるのが私たちの強みです。


よくある質問(FAQ)

バリューチェーンとサプライチェーンの違いは?

サプライチェーンは原材料の調達から製造・流通・販売までの「企業をまたいだモノの流れ(供給網)」を指し、バリューチェーンは自社内部で価値がどう積み上がるかの「価値の連鎖」を指します。サプライチェーンは供給網の最適化、バリューチェーン分析は自社の強み・改善余地の発見に使う、と押さえると混同しません。

バリューチェーン分析の手順は?

「①活動の洗い出し(主活動・支援活動に分類)→②各活動のコスト・工数の把握→③強み・弱みの評価→④VRIOで差別化の源泉を特定→⑤戦略と業務改善に落とす」の5ステップです。多くの解説は①②で止まりますが、③〜⑤まで進めないと打ち手につながりません。

バリューチェーン分析とVRIO分析はどう使い分ける?

バリューチェーン分析は活動ごとに強み・弱みの”当たり”をつける分析、VRIO分析はその強みが「持続する競争優位か」を4つの問い(価値・希少性・模倣困難性・組織)で検証する分析です。バリューチェーンで強みを見つけ、VRIOでそれが本物かを確かめる、という順で組み合わせて使います。

中小企業でもバリューチェーン分析はできる?

できます。むしろ活動がシンプルな中小企業のほうが分解しやすく、強みと改善余地を素早く特定できます。厳密な原価計算にこだわらず、「どの活動に人とお金が偏り、どこが顧客に評価されているか」を現場の事実から押さえるだけでも十分に実用的です。


バリューチェーン分析を「打ち手」に変えるために

バリューチェーン分析のやり方は、①活動の洗い出し→②コスト・工数の把握→③強み・弱みの評価→④VRIOで差別化の源泉を特定→⑤戦略と業務改善に落とす、の5ステップ。価値の中心は「分解した活動を、伸ばす強みと直すボトルネックに仕分けて打ち手に変える」ところにあります。”分けて終わり”を防ぐ鍵は、各活動を強み・コスト・ボトルネックの「価値連鎖3レンズ」で見て、戦略(差別化)と業務改善(BPR)の両方の入口を同時に取り出すことです。

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監修者

大槻 伸夫/ 代表取締役 CEO

キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO。「現場主義×AI」を掲げ、業務改善(BPR)・PMI・経営支援・AIプロダクト開発を一気通貫で支援。クライアント現場での実行支援を重視する。

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