2026.08.07

経営支援

予算編成の進め方|全社目標を部門予算に落とし込む手順

「全社の利益目標は決まった。でも、それを各部門の予算にどう割り振れば現場が本気で動くのか」——予算編成でつまずくのは、たいていこの一点です。

結論から言えば、良い予算編成は「トップダウンで大枠を示し、ボトムアップで積み上げ、両者のギャップを”前提の擦り合わせ”で埋める」という折衷型で進みます。多くの企業がここでつまずくのは、ギャップを気合いや「前年比◯%増で出して」という号令で埋めようとするからです。埋めるべきは数字ではなく、その数字を支える前提条件(単価・数量・稼働・投資回収の置き方)です。

本記事では、全社目標を部門予算に落とし込む進め方を5ステップで整理し、年間スケジュールの型、そして予算策定の支援現場で繰り返し見てきた「つまずきの型」と回避策までをまとめます。

この記事の監修:大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)。中小・中堅企業の経営支援、事業承継後のPMI(買収後統合)、予算・予実管理や管理会計の設計を、数十社規模で支援。”現場主義 × AI”で、絵に描いた餅にならない計画づくりを伴走しています。


予算編成とは|「予算策定」「予実管理」と何が違うか

まず言葉を整理します。似た言葉が多く、ここが曖昧なまま進めると社内で話がかみ合いません。

用語 何をするか この記事の位置づけ
予算編成(予算策定) 全社目標を部門・費目ごとの予算に落とし込み、年間の数値計画を「作る」 ★本記事のテーマ
予算管理 作った予算を運用し、必要に応じて見直す一連の営み 上位の概念
予実管理 予算(予定)と実績を月次で突き合わせ、差異の原因を潰す 予算を「回す」後工程

つまり予算編成は、経営の1年を動かす「地図」を描く工程です。地図が雑なら、その後どれだけ予実管理を頑張っても、進む方向がずれたまま走ることになります。だからこそ「作り方」が重要なのです。

予算編成は「中期経営計画」から始まる

単年度の予算は、単独で存在するものではありません。3〜5年の中期経営計画の策定手順で描いた到達点を、単年度に切り出したものが今年の予算です。中期計画がないまま予算だけを組むと、根拠が「前年並み」しかなくなり、後述する前年踏襲の罠に真っ直ぐ落ちていきます。

なぜ今、予算の「作り方」が問われるのか

前年実績に一定の成長率を掛けて積み上げる従来型は、市場環境の変化が速い今、機能しにくくなっています。中小企業白書でも、環境変化に応じて事業計画を見直す企業ほど業績が伸びやすいことが繰り返し指摘されており(中小企業庁・中小企業白書)、実務者からも「戦略は四半期ごとに変わるのに、年度初めに決めた予算は動かせない構造になっている」という声が上がっています(経営企画室長|MBA・note)。予算を「去年のコピー」で済ませないための作り方が、いま改めて問われています。


予算編成の進め方【5ステップ】全社目標を部門予算へ落とし込む

全社目標を部門予算に落とし込む標準的な流れは、次の5ステップです。トップダウンとボトムアップを一度ずつ往復させ、STEP4のギャップ調整に最も時間をかけるのがポイントです。

予算編成5ステップの全体像。予算編成方針→トップダウン配分→ボトムアップ積み上げ→前提の擦り合わせ→確定・KPI接続の流れ図
予算編成5ステップの全体像。予算編成方針→トップダウン配分→ボトムアップ積み上げ→前提の擦り合わせ→確定・KPI接続の流れ図

STEP1|予算編成方針を決める(全社目標と「前提」を明示する)

最初にやるのは、いきなり数字を配ることではありません。経営として何を優先するのか(成長投資か、利益確保か、財務改善か)という方針と、全社の売上・利益目標を、経営層が決めて言語化します。国の予算でも編成の起点は「予算編成の基本方針」であり(内閣府)、企業でも同じです。方針なき数字配分は、現場に「なぜこの数字なのか」が伝わりません。

このとき、後の混乱を防ぐ最大のコツが「前提条件の明示」です。目標数値の裏側にある想定——想定成長率、主要顧客の動向、人員計画、投資の回収期間など——を、方針とセットで共有します。前提を先に握っておくと、STEP4のギャップ調整が「感情論」ではなく「前提のすり合わせ」になります。

実務では、この方針を1枚の「予算編成方針シート」にまとめて各部門へ配ると、認識のズレが激減します。最低限、次の項目を書き込める様式にしておくと十分です。

  • 今期の経営方針(成長投資/利益確保/財務改善のどれを優先するか)
  • 全社の売上・利益目標(と、その根拠となる想定成長率)
  • 主要な前提条件(市場・主要顧客の見通し、人員・採用計画、投資と回収期間)
  • 部門への配分の考え方(重点部門・削減方針)
  • 提出期限とフォーマット(後述の「期限後は経営企画案を採用」ルールもここに明記)

STEP2|トップダウンで大枠を配分する

方針と全社目標を、経営企画または管理部門が逆算し、事業部・部門レベルの大枠予算に落とします。トップダウンは経営の意思が反映され、決定が速いのが長所です。一方で、事業部レベルまでしか落ちず、現場の実情と乖離しやすいという弱点があります(クラウドERP実践ポータル)。ここではあくまで「規範としての大枠」を示すに留め、精緻化は次のステップに委ねます。

STEP3|ボトムアップで各部門が積み上げる

大枠を受けて、各部門が売上・コストの計画を積み上げます。商品・顧客・施策の単位まで下ろすことで、現実的で実行可能な数字になります。各部門は、コストの使途が妥当か、過去の損益計算書と照らして現実性があるかを自己点検し、可能なら具体的な行動計画(施策)とセットで提出します(ITトレンド)。「この売上を、どの施策で、いつ取るのか」まで書けて初めて、予算は絵に描いた餅を脱します。

STEP4|ギャップを「前提の擦り合わせ」で埋める(本記事の核心)

ここが予算編成の山場です。トップダウンの目標と、ボトムアップの積み上げは、初回提出でほぼ必ずギャップが出ます。 たいていは現場案が全社目標に届きません。評価に直結するため、部門は達成しやすい保守的な数字を出しがちだからです(あると・note)。

やってはいけないのは、「あと3%上乗せして」と数字だけを動かすこと。上乗せの根拠がないまま数字だけ膨らんだ予算は、期初から未達が確定した「守れない予算」になります。

支援の現場で有効なのは、ギャップを前提条件に分解して擦り合わせることです。「目標に届かないのは、想定単価が低いのか、数量が保守的なのか、新規顧客の立ち上がり時期を遅く見ているのか」——差の出どころを前提レベルで特定し、どの前提なら合理的に動かせるかを経営と部門で合意します。同じ数字でも、前提に納得して置いた数字は、現場の実行度がまるで違います。

STEP5|経営会議で確定し、KPIと行動計画に接続する

擦り合わせた予算案を集計・調整し、経営会議で審議・承認して確定します。そして忘れてはならないのが、確定した予算をKPIと行動計画に翻訳することです。予算が「評価用の数字」で止まり、日々の行動につながっていないと、予算はただの数字合わせに終わります。全社目標をどう現場の指標へ分解するかは、KPIの設定方法を参考にしてください。ここまでやって、予算編成はゴールではなく予実管理のやり方という運用の「スタート」になります。


予算編成のスケジュール(年間の型)

予算編成は数週間で終わる作業ではありません。4月開始(3月決算)の企業なら、半年前から動き始めるのが一般的です。

時期 主なタスク 主担当
9〜10月 次年度の経営方針・予算編成方針の決定、前提条件の共有 経営層・経営企画
10〜11月 各部門による予算案(売上・コスト・施策)の作成と提出 各部門
11〜12月 集計・全社目標とのギャップ調整(前提の擦り合わせ) 経営企画×各部門
12〜1月 予算案の調整・シミュレーション 経営企画
2〜3月 経営会議での審議・承認、KPI・行動計画への落とし込み 経営層

ポイントは、ギャップ調整(STEP4)の時間を最初からスケジュールに組み込んでおくことです。ここを「提出後にまとめて」と甘く見ると、年末に「集計→未達→差し戻し→再集計」の消耗戦に突入します。


予算編成でつまずく5つの落とし穴と回避策

支援の現場や実務者の証言で、繰り返し見られる「つまずきの型」があります。自社に心当たりがないか点検してみてください。

落とし穴1|前年踏襲(去年のコピー+微調整)

最も多い罠です。前年予算をベースに微調整するだけだと、環境変化に対応できず、戦略も反映されません。回避策は、前提条件を毎年ゼロから問い直すこと。「この費用は、今年の方針に照らして本当に必要か」を一件ずつ検証します。

ここで対比されるのが「前年踏襲」と「ゼロベース予算」です。ゼロベース予算とは、前年の予算をいったん白紙(ゼロ)に戻し、すべての費用を「今年の目的に照らしてゼロから積み直す」考え方です。全費目を毎年ゼロから精査するのは負荷が大きいので、実務では「聖域になりがちな固定費・大型の費目だけをゼロベースで見直す」ハイブリッド運用が現実的です。全部を前年踏襲にせず、要所だけゼロから問い直すイメージです。

落とし穴2|コンサバ化と無駄なバッファー

評価に響くため達成しやすい予算を出し、「どうせ削られる」と見越して余裕を積む。この二重の保守化で、予算は実力より小さく歪みます(あると・note)。回避策は、予算の未消化を「良いこと」にしない運用。使い切れなかった予算を成果とセットで評価し、根拠なきバッファーを削ります。

落とし穴3|「数字合わせ」で終わる形骸化

経営会議では戦略を熱く語るのに、予算の場になると帳尻合わせに終始する——この乖離が競争力を蝕みます(鷲巣大輔・note)。回避策は、予算を必ず戦略・施策と紐づけること。「どの戦略テーマに、いくら張るのか」を明示します。

落とし穴4|終わらない修正ループ

集計したら未達、差し戻して再提出、また集計……という無限ループ。回避策として実務者が挙げるのが、提出期限を過ぎたら経営企画案を自動採用すると事前に通知しておくルールです(あると・note)。締め切りが実質的に機能し、催促の消耗が減ります。

落とし穴5|戦略と予算の乖離

戦略が「グローバル展開の加速」のようなスローガンに留まると、担当者は前年踏襲しか選べません(経営企画室長|MBA・note)。回避策は、戦略を「具体的に何をやるのか(施策)」まで解像度を上げること。戦略の粗さは、そのまま予算の粗さになります。


現場が動く予算にする3つのコツ(支援現場の一次情報)

ここからは、キュリオシティが中小・中堅企業の予算策定を支援する中で、特に効果が大きかった実務のコツを3つ紹介します(守秘のため内容は匿名化しています)。

コツ1|「前提の置き方」を明文化する

多くの企業で、予算の数字は残っていても「その数字を誰が・いつ・どんな根拠で置いたか」が残っていません。 私たちは支援の初手で、主要な前提(単価・数量・稼働率・採用時期・投資回収)を一覧化し、「置いた人・根拠・置いた日」まで記録するようにしています。実際に使っている「前提一覧表」は、次のようなシンプルな様式です。

前提項目 今期の置き方 根拠 置いた人 前回値
主力商品の平均単価 前年+3% 4月改定の価格表 営業部長 据え置き
新規顧客の立ち上がり 受注から3ヶ月で本格稼働 過去2年の平均 経営企画 2ヶ月
増員(エンジニア) 下期に2名 採用計画 管理部 上期3名
設備投資の回収 24ヶ月 稟議時の試算 経営層 18ヶ月

効果は期中に効いてきます。予実に差が出たとき、前提の記録があれば「前提が外れたのか(読み違い)」「実行がずれたのか(やり切れなかった)」を切り分けられます。 この切り分けができると、翌年の編成精度が一段上がります。予実の回し方は予実管理のやり方で詳しく解説しています。

コツ2|ギャップは「気合い」でなく前提で埋める

STEP4で述べた通り、目標未達分を「頑張って上乗せ」で埋めると守れない予算になります。あるご支援先では、初回提出のギャップを前提条件ごとに分解し、「動かせる前提/動かせない前提」を経営と現場で仕分けしました。総額は変えていないのに、”自分たちで置いた前提”に変わった。すると翌期の予実会議で「そもそも前提が高すぎた」という後出しの言い訳が目に見えて減り、議論が「実行のどこが詰まったか」に集中するようになったのが印象的でした。

コツ3|「部門別」から「戦略テーマ別」の視点を足す

部門ごとに予算を割ると、どうしても部門最適に寄り、成長投資が薄まりがちです。実務者からも「部門別から戦略テーマ別の予算管理へ転換すべき」という提言があります(経営企画室長|MBA・note)。既存の部門別予算に加えて、「今年、勝負する戦略テーマ」に横串で予算を確保する枠を一本持たせるだけで、予算が「守り」から「攻め」の性格を帯びます。この土台には、部門横断で数字を見る管理会計の導入が効いてきます。


予算編成でよくある質問(FAQ)

Q. 予算編成の進め方は、まず何から始めればいいですか?
A. 数字を配る前に「予算編成方針を決める」ことから始めます。今期の経営方針・全社目標・主要な前提条件を1枚のシートにまとめ、各部門へ共有するのが最初の一歩です。ここが曖昧なまま部門に数字を割ると、後工程のギャップ調整が必ず紛糾します。

Q. トップダウンとボトムアップ、どちらが正解ですか?
A. どちらか一方ではなく、折衷型が実務の標準です。経営が方針と大枠をトップダウンで示し、現場がボトムアップで積み上げ、ギャップを擦り合わせる——この往復で、意思と現実の両方を満たします。

Q. 中小企業でも本格的な予算編成は必要ですか?
A. 必要です。むしろ資源が限られる中小企業ほど、「どこに張るか」を決める予算の重要度は高くなります。最初は精緻さより、全社目標→部門→施策のつながりを一本通すことを優先してください。

Q. 予算はどこまで細かく作るべきですか?
A. 「差異が出たときに打ち手を変えられる粒度」が目安です。細かすぎると運用が回らず、粗すぎると原因が特定できません。まずは費目と主要施策の単位から始め、予実管理を回しながら調整します。

Q. 立てた予算が期中に合わなくなったら?
A. 前提が変わったなら予算も見直す前提で運用します。四半期ごとの見直しや緊急枠を設けておくと、市場変化に対応できます。加えて、コスト予算は資金繰りへの影響も併せて確認しましょう。


まとめ|予算は「配る」より「握る」

ここまで、予算編成の進め方を5ステップと落とし穴・コツで整理してきました。要点は次の通りです。

  • 進め方は折衷型(トップダウンで大枠→ボトムアップで積み上げ→ギャップ調整→確定・KPI接続)
  • 山場はSTEP4のギャップ調整。数字でなく前提条件を擦り合わせて埋める
  • 前年踏襲・コンサバ化・数字合わせの3つが典型的な失敗。前提の明文化と、未消化を良しとしない運用で防ぐ
  • 予算は作って終わりでなく、KPIと予実管理に接続して初めて機能する

予算は上から「配る」ものではなく、経営と現場が前提を「握る」ものです。その握りの質が、1年間の実行力を決めます。

予算編成や中期経営計画づくりで「全社目標と現場の数字が噛み合わない」「毎年前年踏襲になってしまう」とお悩みなら、キュリオシティの経営支援をご活用ください。詳しいサービス内容は経営支援コンサルティングをご覧ください。

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全社目標を単年度の予算・現場の行動へ落とし込むための「中期経営計画テンプレート」を無料で配布しています。予算編成の前段となる目標設計に、そのままお使いいただけます。

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監修:大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)/最終更新:2026年8月


監修者

大槻 伸夫/ 代表取締役 CEO

キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO。「現場主義×AI」を掲げ、業務改善(BPR)・PMI・経営支援・AIプロダクト開発を一気通貫で支援。クライアント現場での実行支援を重視する。

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