2026.10.30

AIプロダクト

見積作成をAIで自動化|過去見積・型番照合から下書きを作る仕組み

「見積依頼のExcelが届くたびに、ベテランが過去の受注を検索して型式を1行ずつ埋めている」——製造業や商社で見積の相談を受けると、ほぼ必ずこの話になります。金額の計算はシステムでできても、お客様が書いてきた品名が、自社の扱うどの型式なのかを決める作業が人に残っているからです。

見積作成のAI自動化とは、見積依頼の品名を過去の受発注データと照らして型式の候補を出し、単価は価格表から引き、自信のない行だけを人に回して見積の下書きを作る仕組みです。AIに金額を考えさせるのではなく、「品名→型式」の引き当てを任せるのが近道です。

本記事では、当社グループが提案した型番抽出AIのPoC(製造業・匿名)の設計と、この記事のために行った「架空の見積依頼35行を型式に引き当てる検証」の結果をもとに、どこまで自動化でき、どこで人が止めるべきかを整理します。

この記事の監修:大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)。業務改善・PMI・生成AI導入の現場支援に携わり、「現場主義 × AI」で業務の可視化から生成AIの試作・定着までを支援。

見積作成はAIでどこまで自動化できるのですか?

下書きまでは自動化でき、提出の判断は人に残ります。 見積業務を工程に分けると、AIが効く工程とルールで処理すべき工程がはっきり分かれます。最初にこの仕分けをしないと、「AIに見積を作らせたら金額が違った」という失敗になります。

工程 中身 向いている手段
①依頼を読む メール・PDF・Excelから品名・数量・納期を取り出す 生成AI(抽出)・AI-OCR
②品名→型式 客の書き方を自社の型式に引き当てる 類似検索(RAG)+ルール照合
③単価・在庫 型式から価格・掛率・在庫を引く 基幹システム・価格表(AIは使わない)
④見積書を作る ひな形に流し込み、備考や納期回答の文面を作る テンプレート+生成AI(文面)
⑤確認・提出 値引き・特価・与信の判断、提出 人

ポイントは③です。生成AIは数字の計算や最新価格の把握が苦手で、WEELの解説記事でも「生成AI(LLM)は数字・計算が苦手」と注意されています。単価はAIに考えさせず、型式をキーに価格表から引くのが原則です。

一方で②は、人がいちばん時間を使っている工程です。プロワンのコラムでは、トラスコ中山が見積回答のスピードを原因とする失注を課題にし、価格見積を「最短5秒で回答」、見積自動化率30.5%(2025年12月末時点)まで進めた例が紹介されています。速さで負けないためには、②を人の検索から外す必要があります。

見積業務のうち受発注や報告を含めた全体の効率化は、営業事務の効率化|見積・受発注・報告業務のムダを減らすで整理しています。

なぜ見積の自動化は「品名→型式」で詰まるのですか?

お客様の書く品名が、自社の型式と一致しないからです。 見積依頼の品名は、お客様の社内用語・略称・古い型式・全角半角の混在で書かれてきます。完全一致の検索では、ほとんど何も見つかりません。

現場で見かける崩れ方は、だいたい次の4種類に収まります。

  • 表記ゆれ:「M8×30」「M8x30」「M8 L30」、「ステンレス」「ステン」「SUS」
  • 言い換え:「深溝玉軸受」と「ベアリング」、「ソレノイドバルブ」と「電磁弁」
  • 兄弟品:M8×30とM8×35、φ6とφ8のように、文字はほぼ同じで寸法だけ違う品
  • 未登録品:過去に一度も扱っていない品。本当は「該当なし」と返すべき行

厄介なのは後ろの2つです。兄弟品は人でも見落とし、未登録品はシステムが「それらしい別の品」を返してしまいます。型番を書類から読み取る工程そのものは型番抽出をAIで自動化|製造・商社の事務効率化で解説しました。本記事はその次の、読み取った品名をどの型式として見積に載せるかに絞ります。

過去見積・受発注データから型式を引き当てる仕組みは?

過去の受注(客の品名)と発注(メーカーの型式)を受注番号でつなぎ、「客の書き方→正しい型式」の対応表を知識ベースにします。 新しい見積依頼が来たら、似た品名を検索して型式の候補を出し、人が確認した結果を対応表に足していきます。

当社グループが製造業向けに出したPoC提案では、処理を次の5段階にしました。

  1. 見積依頼のCSVをアップロードする
  2. システムが「品名」の列を読み取る
  3. 過去の受注・発注データから、似た品名と型式の組を検索する
  4. AI(RAG構成)が候補から最も確からしい型式を選ぶ
  5. 推測した型式を列に足したCSVを、担当者がダウンロードして確認する

使うデータは3種類です。見積依頼(処理対象)、受注データ(品名と受注番号)、発注データ(受注番号から実際に手配した型式)。発注データは「その品名で実際に何を手配したか」の記録なので、正解のついた教師データとして使えます。新しく大量のデータを作る必要がないのが、この方式の利点です。

この案件では、当初クラウドの生成AIを想定していましたが、お客様のセキュリティ要件でクラウド利用ができず、社内に置いたGPU搭載PC1台でオープンモデルを動かす構成に切り替えました。取引先名や価格が並ぶ見積データは、外に出せない会社が少なくありません。構成の選び方は閉域網で生成AIを使う方法とローカルLLM(オンプレ生成AI)の導入を参照してください。似た文書を探す仕組み自体はRAG構築の進め方と同じです。

似ている品名の検索だけで任せてよいのですか?【自社検証】

任せてはいけません。似ている品名の1位をそのまま採ると、寸法違いの兄弟品と未登録品で誤答します。 この記事のために、引き当て方の違いで結果がどう変わるかを検証しました。

検証の条件

  • 知識ベース:架空の産業資材22型式について、過去の受注で客が書いた品名47行(ボルト・ナット・ベアリング・エアシリンダ・近接センサ・ケーブル・電磁弁・モーター・チューブ・手袋)
  • テスト:新しい見積依頼35行。うち30行は既知の型式を崩して書いたもの(全角、略称、語順違い、「Φ」「st」など)、5行は過去に一度も扱っていない品(タイミングベルト、リニアガイドなど)
  • 比べた4つの方式:A 完全一致/B 全角半角などをそろえ、言い換え辞書(ステン→SUS など22語)を通して一致/C 2文字ずつに区切った似ている度合いで1位を採る/D Cに「品名の数字が候補にも含まれるか」の照合と、似ている度合いが基準未満なら人に回すしきい値(0.55)を足す

結果

似ている品名検索だけでは6件誤答。数字の照合と人に回す線で誤答0件になった検証結果(2回目のルール修正後も含む)
似ている品名検索だけでは6件誤答。数字の照合と人に回す線で誤答0件になった検証結果(2回目のルール修正後も含む)
方式 既知30行で正しい型式を出せた 誤答 人に回した
A 完全一致 0行 0行 35行
B 正規化+言い換え辞書 11行 0行 24行
C 似ている品名の1位 29行 6行 0行
D C+数字の照合+しきい値 25行 0行 10行(既知5・未登録5)
D’ Dの数字ルールを直した2回目 26行 0行 9行(既知4・未登録5)

読み取れることは3つです。

  1. 完全一致は役に立たない。 崩した書き方の既知品30行は、1行も一致しませんでした。正規化と辞書を足しても11行です。辞書は検証者が書いたもので、実務ではもっと漏れます。
  2. 似ている度合いの1位は「必ず何か答える」。 Cは既知品を29行当てましたが、「ウレタンチューブ φ6」をφ8の型式と取り違え、未登録の5行にもボルトやセンサの型式を返しました。似ている度合いは0.08〜0.17と低くても、1位は1位として出てきます。
  3. 数字の照合としきい値で、誤答を人の確認に置き換えられる。 Dは寸法違いを数字の照合で止め、未登録品はしきい値で全件「空欄=人が調べる」に回しました。代わりに、既知品のうち5行も人に回っています。

「人に回す」行の中身も見る

Dで人に回った既知品5行を見ると、4行はケーブルやチューブで「100m巻」「1.25-2C」のように書き方が大きく違い、似ている度合いが基準に届かなかった行でした。残る1行は「3相モータ 0.4KW」で、「3相」の3が型式に含まれない数字だったため、数字の照合で止まっていました。照合のルールは、型式を決める数字(寸法・容量・規格)と、決めない数字(巻長・入数)や文字として照合すべき数字(「3相」の3)を分けて書く必要があります。

そこで2回目は、「100m巻」「100枚入」のような型式を決めない数字と、「3相」のように言い換え辞書で「三相」として照合済みの数字を、数字の照合から外すようルールを1行直しました(表のD’)。誤答0行のまま、モーターの1行が自動で出るようになっています。人が止まった理由を見てルールに戻すと、確認の件数は少しずつ減っていきます。PoC期間中に回すのは、この「止まった行を見る→辞書かルールを直す」の繰り返しです。

数字の照合で「決める数字」と「決めない数字」をどう分けるか

商品群 型式を決める数字(照合する) 型式を決めない数字(照合から外す)
ボルト・ナット ねじ径(M8)・長さ(30) 入数・箱数
ベアリング 呼び番号(6204) 個数
エアシリンダ 内径(φ32)・ストローク(50) 取付数
ケーブル 断面積(1.25sq)・芯数(2C) 巻長(100m巻)
モーター 出力(0.4kW)・極数(4P) 「3相」の3(三相・単相は文字で照合する)

この表は商品群ごとに担当者が書けます。AIの仕組みに手を入れず、現場の知識をそのまま誤答防止に使えるのが利点です。

なお、この検証は架空データ・小規模・単純な文字の似ている度合いで行ったもので、実データでの精度を保証するものではありません。実務ではベクトル検索やLLMによる選択を加えますが、「1位を必ず返す」性質と兄弟品の取り違えは手段を変えても残るため、Dの考え方はそのまま使えます。

自動で出す線(しきい値)はどう決めればよいですか?

誤答1件の損失と、人が1行確認する手間を比べて、業務側が決めます。 しきい値を上げるほど誤答は起きにくくなりますが、人に回る行が増えます。どちらを取るかは技術ではなく業務の判断です。

同じ検証(2回目のD’)でしきい値だけを変えると、次のようになりました(誤答はすべて0行)。この小さな検証では0.45でも誤答は出ませんでしたが、実データは兄弟品も書き方の崩れも桁違いに多いため、最初は高めに置き、誤答0を確かめながら下げるのが安全です。

しきい値 既知30行のうち自動で出せた 人に回した(未登録5行を含む)
0.45 30行 5行
0.55 26行 9行
0.65 24行 11行
0.75 20行 15行

決めるときは、次の3点を業務側と話します。

  • 誤答したら何が起きるか:誤った型式で見積を出すと、受注後の手配ミスや値引き対応になる。特注品・高額品ほど線を上げる
  • 人の確認は何行まで回せるか:1日の見積依頼の行数と、確認できる人数から上限を出す
  • 人が直した結果を辞書と知識ベースに戻すか:戻せば、同じ書き方は次から自動で出る。戻さなければ人の確認は減らない

AIの誤答を前提にした設計の考え方は、生成AIのハルシネーション対策でも扱っています。

見積の金額や文面もAIに作らせてよいですか?

金額はルール、文面はAI、判断は人、と分けます。 見積は社外に出る数字なので、誰がどの根拠で出したかを説明できる状態にしておく必要があります。

項目 任せ方 理由
単価・掛率 価格表・基幹から引く 計算と最新価格はAIが苦手。根拠を説明できる
類似案件の参考価格 AIが過去見積を検索して提示(参考値) 新規品は過去が少なく外れやすい
備考・納期回答の文面 生成AIで下書き 定型文の言い回しは得意
値引き・特価・与信 人 取引関係と責任の判断

プロワンのコラムでも、過去データが少ない新規品目や新規顧客については「推奨価格は参考値にとどめ、担当者が判断する運用ルールを決めておく」ことが勧められています。原材料価格が急に動いた時期は、過去の実績が今の原価とずれる点にも注意が要ります。

見積自動化のPoCはどう進めればよいですか?

12週間ほどで、1つの商品群・1つの依頼形式に絞って始めます。 前述の製造業向けPoC提案では、次の4段階で計画しました。

期間 やること 終わりの状態
1〜2週目 要件定義・設計(社内環境の条件確認を含む) 対象の商品群、依頼形式、評価に使う過去データが決まっている
3〜6週目 開発(引き当ての仕組み+社内でのモデル環境構築) 見積依頼CSVを入れると型式候補つきCSVが返る
7〜10週目 改善(精度の改善、辞書・ルールの調整) 人が直した結果が辞書に戻る運用が回っている
11〜12週目 最終検証・納品(運用マニュアル・評価レポート) 本番に進むか止めるかを数字で判断できる

評価レポートでは、精度(出した型式が正しかった割合)・未判定率(人に回した割合)・代表的な誤りの型の3つを測ります。精度だけを追うと「全部人に回せば精度100%」になってしまうため、未判定率と組で見るのが要点です。提案時に挙げたリスクも、そのまま運用ルールの論点になります。

  • データに存在しない品名 → 空欄で返すルールを決める(検証のDと同じ)
  • 曖昧な品名 → 複数候補を並べるか1つに絞るかを決める
  • 大きなCSV → 分けて処理する
  • 参照データが古くなる → 知識ベースを定期的に作り直す

撤退基準の置き方は生成AIのPoCの進め方|失敗しない設計とKPI・撤退基準、費用の内訳は生成AI導入の費用相場、効果の見積もり方は生成AI導入のROIの考え方で解説しています。見積・型番照合を含む商社業務全体での使い方は商社の生成AI活用アイデア、仕入側で見積を比べる場面は購買・調達の生成AI活用をご覧ください。

PoCの企画を1枚にまとめるテンプレートを配布しています

対象業務・評価データ・KPI・撤退基準・体制を1枚に整理できる「生成AI PoC企画テンプレート」を無料で配布しています。見積自動化の企画を社内に通すときの下書きにお使いください。

生成AI PoC企画テンプレートを無料でダウンロードする

自社の見積データで、どの程度まで自動で出せそうかを一緒に見立てたい場合は、無料相談からお気軽にご連絡ください。

よくある質問(FAQ)

Q. 見積作成をAIで自動化すると、どのくらい時間が減りますか?
A. 減るのは主に「品名から型式を探す」時間です。削減幅は依頼の書き方のばらつきと過去データの量で大きく変わるため、まず過去の見積依頼で何割を自動で出せるかを測ってから見込むのが確実です。

Q. 見積の金額もAIに計算させてよいですか?
A. おすすめしません。単価・掛率は型式をキーに価格表や基幹システムから引き、AIは型式の候補出しと備考などの文面の下書きに使うのが安全です。

Q. 過去の見積データが整理されていなくても始められますか?
A. 受注データ(品名と受注番号)と発注データ(受注番号と型式)が残っていれば始められます。この2つを受注番号でつなぐと、客の書き方と正しい型式の対応表ができます。

Q. 見積データを外部のクラウドAIに出したくない場合は?
A. 社内に置いたPCやサーバーでオープンモデルを動かす構成があります。当社グループのPoC提案でも、セキュリティ要件からクラウドをやめ、GPU搭載PC1台の社内構成に切り替えました。

Q. AIが間違えた型式で見積を出してしまうのが心配です。
A. 品名の数字(寸法・規格)が候補と一致するかの照合と、似ている度合いが基準未満の行を人に回すしきい値を入れてください。当社の検証では、この2つで誤答を6行から0行にできました。

まとめ:見積自動化は「品名→型式」と「人に回す線」の設計で決まる

  • 見積作成のAI自動化は、金額計算ではなく品名→型式の引き当てから始める。単価は価格表から引く
  • 過去の受注×発注を受注番号でつなぐと、新しいデータを作らずに知識ベースができる
  • 似ている品名の1位は必ず何か答える。数字の照合で兄弟品を止め、しきい値で未登録品を人に回す。照合する数字は商品群ごとに決める数字・決めない数字を現場が書く
  • しきい値は誤答の損失と確認の手間で業務側が決める。人が直した結果は辞書に戻す
  • PoCは12週間・1商品群から。精度と未判定率を組で測る

見積の自動化は、ツールを入れて終わりではなく、人の確認が少しずつ減っていく仕組みです。最初の一歩として、生成AI PoC企画テンプレートで対象と評価方法を1枚にまとめるところから始めてみてください。


監修者

大槻 伸夫/ 代表取締役 CEO

キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO。「現場主義×AI」を掲げ、業務改善(BPR)・PMI・経営支援・AIプロダクト開発を一気通貫で支援。クライアント現場での実行支援を重視する。

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