業務分掌の作り方は「①業務を棚卸しする→②組織図に業務を割り付ける→③責任分担表で重複と抜けを点検する→④業務分掌規程に落とし込む→⑤定期的に見直す」の5ステップで進めます。
「この仕事、結局だれの担当なの?」——組織が大きくなるほど、この問いに即答できない業務が増えていきます。片方では同じ確認作業を2つの部署が別々にやり(重複)、もう片方では「相手がやると思っていた」で処理が止まる(抜け)。どちらも、役割の分担が言葉と1枚の表になっていないことから起きます。それを整理する仕組みが業務分掌です。
本記事では、業務分掌と職務分掌の違いを整理したうえで、規程を作る前にまず「回る分担表」を作るという順序で、作り方を5ステップに分けて解説します。あわせて、私たちがBPR(業務改革)や組織設計の支援で実際に見てきた「役割の重複と抜け」の見つけ方、よくある失敗、生成AIの使いどころまで、担当者がそのまま動ける形でまとめました。
業務分掌とは何か?なぜ「分担表」が要るのか
業務分掌とは、組織の各部署・各担当者が「どの業務に、どこまで責任と権限を持つか」を分担・明確化することです。 これを文書にしたものが業務分掌規程で、別紙として業務分掌表(分担表)を添えるのが一般的です。
業務分掌が曖昧なままだと、①同じ業務を複数人がやる「重複」、②誰の担当でもない「抜け(責任の空白)」、③特定の人しか分からない「属人化」が同時に進みます。人の頭の中にある分担を、組織で共有できる1枚の表にすることが、業務分掌の実質的なゴールです。単なる規程づくりではなく、業務可視化の一環として捉えると失敗しにくくなります。
業務分掌と職務分掌はどう違う?
業務分掌は「部署・チーム単位で業務を分ける」もの、職務分掌は「役職・個人単位で責任と権限を分ける」ものです。 対象の粒度と目的が異なります。実務では両方を組み合わせて使います。
| 観点 | 業務分掌 | 職務分掌 |
|---|---|---|
| 主な対象 | 部署・チーム単位の「業務内容」 | 役職・個人単位の「役割・責任・権限」 |
| 主な目的 | 業務の円滑な遂行・重複と抜けの解消 | 責任と権限の配分・不正防止(内部統制) |
| 代表的な文書 | 業務分掌規程+業務分掌表 | 職務分掌規程・職務権限規程 |
| 効きどころ | 「どの部署が何をやるか」 | 「誰がどこまで決めてよいか」 |
なお内部統制の文脈では、承認・実行・記録・保管といった役割を意図的に分ける「職務の分離(Segregation of Duties)」が重視されます。これは不正やミスを一人で完結させない仕組みで、上場審査や内部監査でも「規程と実際の運用が一致しているか」が確認されます(出典:マネーフォワード IPO、カオナビ人事用語集。いずれも2026年8月時点)。
業務分掌を整えると何が良くなる?(メリットと落とし穴)
メリットは「責任の明確化・重複と抜けの解消・不正抑止・人事評価のしやすさ・属人化の防止」です。 一方で、決めすぎると硬直化するという落とし穴もあります。
- メリット
1. 責任の所在が明確になり、「お見合い」で止まる業務が減る
2. 重複作業が見つかり、工数のムダを削減できる
3. 承認・実行・記録を分けることで不正・ミスを抑止できる(内部統制)
4. 担当が明確になり、人事評価の基準がつくりやすい
5. 業務が可視化され、属人化を防げる - 落とし穴(デメリット)
- 分担を固定しすぎると「自分の担当外」意識が生まれ、想定外の事態に弱くなる
- 規程だけ立派で実態と乖離すると、かえって形骸化する
- 粒度がバラバラだと、点検の道具として使えない
落とし穴は、後述する「STEP5 定期見直し」と「回る分担表を主役にする」考え方でほぼ回避できます。
業務分掌の作り方は?5ステップで解説
業務分掌は「①業務の棚卸し→②組織図への割付→③責任分担表で点検→④規程化→⑤定期見直し」の順で作ります。 ポイントは、規程を先に書かず、先に現場が回る分担表を作ってから規程に落とすことです。順序を逆にすると、実態と乖離した”飾りの規程”になりがちです。
以下の表が全体像です。上から順に進めます。
| STEP | やること | 成果物 | つまずきポイント |
|---|---|---|---|
| 1 | 業務を棚卸しし粒度を揃える | 業務一覧 | 粒度がバラバラ |
| 2 | 組織図に業務を割り付ける | 割付済み組織図 | 現状と規程の混同 |
| 3 | 責任分担表で重複と抜けを点検 | 責任分担表(R/A) | ◎が複数/空白の放置 |
| 4 | 業務分掌規程に落とし込む | 業務分掌規程+分掌表 | 実態と乖離した文言 |
| 5 | 定期的に見直す | 更新履歴 | 作って終わり |
STEP1 業務を棚卸しして粒度を揃える
まず、部署ごとに「実際にやっている業務」をすべて洗い出し、粒度を揃えます。 ここが分掌表の土台であり、最もサボってはいけない工程です。
現場へのヒアリングで、日次・週次・月次・年次で発生する業務を書き出します。このとき「営業活動」と「請求書の封入」のように大小が混在すると、後の点検に使えません。私たちの支援では、業務可視化の網羅フレーム「業務カルテ17軸」(誰が・いつ・何をトリガーに・どの成果物を・どこへ渡すか等)に沿って洗い出し、粒度を「中分類(例:月次請求業務)+小分類(例:請求書発行・送付・入金消込)」の2段で揃えると、分担表に載せやすくなります。詳しい手順は業務棚卸しの手順にまとめています。
現場の実感として、棚卸しの段階で「規程のどこにも載っていないが毎月必ず発生している業務」が複数見つかることがほとんどです。分掌の”抜け”は、平常時は見えず、担当者が休んだ週に初めて表面化します。だからこそ、最初に全部を書き出すことが重要です。
STEP2 組織図に業務を割り付ける
次に、洗い出した業務を組織図の各部署に割り当てます。 「あるべき姿」ではなく、まず「現状どこがやっているか(As-Is)」で割り付けるのがコツです。
理想から入ると現場と乖離するため、最初は現実を写し取ります。部署をまたぐ業務は、主担当(実行する部署)と関与部署を分けて記録します。ここで業務フロー図を併用すると、部署間の受け渡し(誰から誰へ)が見え、割付の抜け漏れに気づきやすくなります。
STEP3 責任分担表(R/A方式)で重複と抜けを点検する
業務を縦軸、部署・担当を横軸に取ったクロス表を作り、各セルに責任の種類を記入します。 これが本記事の主役、責任分担マトリクスです。
RACI(Responsible=実行/Accountable=説明責任/Consulted=協業・相談/Informed=報告)が有名ですが、中小企業でそのまま使うと記号が4種類もあって回りません。実際、支援現場でRACIをそのまま配ると、「相談(C)」と「報告(I)」の線引きで手が止まり、シートが空欄のまま返ってくることがよくあります。そこで私たちは、「R=実行担当」と「A=最終責任者」の2つだけに絞ったR/A方式を勧めています。1業務につきAは必ず1人、Rは1人以上、という単純なルールにすると、現場が迷わず記入でき、次の2点が一目で分かります。
- 重複 … 1つの業務にAが2人以上いる、または同じ作業にRが複数部署ついている → 二重作業・責任の綱引きのサイン
- 抜け(責任の空白) … 行がまるごと空白、またはAが誰もいない → 誰の担当でもない業務
| 業務 | 総務 | 経理 | 営業事務 | 判定 |
|---|---|---|---|---|
| 請求書の発行 | R / A | R | ⚠ Rが2部署=重複 | |
| 入金の消込 | R / A | OK | ||
| 備品の発注 | ⚠ 空白=抜け | |||
| 契約書の保管 | R / A | OK |
上の例なら、「請求書の発行」は経理と営業事務でRが重複しているので一本化を検討し、「備品の発注」はAが不在なので担当を決めます。表を1枚に統合した瞬間に、重複とお見合いの両方が同時に見える——これが分担表を作る最大の効果です。
STEP4 業務分掌規程に落とし込む(盛り込む項目)
分担表で実態を固めたら、それを業務分掌規程として文書化します。 規程は複雑にせず、当たり前のことをシンプルに書けば十分です。
一般的に盛り込む項目は次のとおりです(出典:doda、bizocean。いずれも2026年8月時点)。
- 目的 … 何のための規程か
- 適用範囲 … 対象とする組織・業務
- 組織構成 … 部門の定義
- 組織単位の業務分掌 … 「◯◯部は次の業務を分掌する」の列挙
- 別紙:業務分掌表 … STEP3で作った分担表を添付
- 改廃 … 誰がいつ見直すか
規程本文は難しく考えず、次のような短い条文で十分です(そのまま雛形として使えます)。
第1条(目的)本規程は、各組織単位の業務分掌を定め、責任と権限を明確にすることを目的とする。
第2条(適用範囲)本規程は、当社の全部門に適用する。
第3条(業務分掌)各部門の分掌する業務は、別紙「業務分掌表」に定めるところによる。
第4条(改廃)本規程の改廃は、◯◯(役職)が行い、少なくとも年1回見直すものとする。
細目まで本文に書き込むと更新が追いつかないため、変わりやすい担当の詳細は別紙の分掌表(STEP3のR/A表)に逃がし、規程本文は骨格だけにするのが運用のコツです。日々の手順書は規程とは別に業務マニュアルとして整えると、規程・分掌表・マニュアルの3点セットで属人化を防げます。
STEP5 定期的に見直す(更新トリガー)
業務分掌は「作って終わり」にせず、半年〜1年ごと、または組織変更・新規事業・人の異動のタイミングで見直します。 更新トリガーをあらかじめ決めておくのが定着のコツです。
見直しを怠ると、規程は残っているのに担当は口頭・慣習で動く「規程と実態の乖離」が進み、退職や異動のたびに属人化が再発します。更新の責任者(Aは誰か)を規程内に明記し、業務標準化のサイクルに組み込みましょう。
役割の「重複」と「抜け」はどう見つける?
縦に業務・横に担当を並べた責任分担表を使い、「同じ行に◎(A)が複数=重複」「行がまるごと空白=抜け」を機械的に探します。 目視の感覚ではなく、表のルールで見つけるのがポイントです。
点検は次の順番で行うと漏れません。
- 各行にAが1人だけいるか … 0人なら抜け、2人以上なら重複
- 同じ作業に複数部署のRが並んでいないか … 並んでいれば二重作業を疑う
- 部署をまたぐ受け渡しで、渡す側と受ける側の両方が表にあるか … 片方しかなければお見合いの温床
- 繁忙期・担当者不在時に誰が代替するか(バックアップのA) … 空欄なら業務停止リスク
現場での典型は、製造業の間接部門で同じ照合作業を2部署が別々にやっていた(重複)と同時に、「相手がやると思っていた」で入力漏れが放置されていた(抜け)ケースです。分担表に統合するまで、どちらも当事者は気づいていませんでした。統合後は、重複していた照合を一方の部署に寄せ、抜けていた入力に担当を割り当てたことで、その月次業務の二重確認とやり直しが目に見えて減りました。削減できる工数は業務量によって差がありますが、重複の一本化は着手初月から効果が出やすい打ち手です。重複は削減、抜けは担当決定へ——分担表はその判断を1枚で下せる道具になります。
中小企業は業務分掌をどこまで作ればいい?
中小企業やスタートアップは、分厚い規程は不要です。「業務一覧+R/A方式の分担表1枚」から始めれば十分機能します。 むしろ人数が少ないほど属人化のリスクは高く、担当者が1人休むだけで業務が止まります。
最小構成は次の3点だけです。
- 業務一覧(STEP1の棚卸し結果/中分類+小分類の2段)
- 責任分担表(縦:業務/横:担当。各業務にR=実行とA=最終責任を記入)
- A4数枚の業務分掌規程(前掲の雛形4条+別紙として2の分担表)
まずはこの3点をExcelやスプレッドシートで作り、四半期に一度見直すだけでも、重複と抜けの大半は防げます。人が増えて部門が固まってきた段階で、職務権限規程などへ拡張していけば十分です。
業務分掌でよくある失敗は?
最も多い失敗は「規程と実態の乖離」「粒度バラバラ」「作って終わり」「責任の空白の放置」の4つです。 いずれも、規程を先に作り、分担表を軽視すると起きます。
- 規程と実態の乖離 … 立派な規程はあるのに現場は慣習で動く。→ 分担表を現状(As-Is)から作り、規程はその写像にする
- 粒度がバラバラ … 大きな業務と細かい作業が混在し点検に使えない。→ STEP1で中分類+小分類の2段に統一
- 作って終わり … 一度作ったきり更新されない。→ 更新トリガーと更新責任者を規程に明記
- 責任の空白 … 誰の担当でもない業務が放置される。→ R/A表でAが不在の行を必ず埋める
業務改善そのものが失敗する共通パターンは業務改善が失敗する原因と回避策でも整理しています。
業務分掌づくりに生成AIはどう使える?
議事録・作業ログ・職務経歴などの既存文書を生成AIに読ませ、「誰が何に関与しているか」の分担表ドラフトを先に作らせる使い方が有効です。 ゼロから聞き取るより、叩き台を叩く方が現場は速く進みます。
私たちの支援でも、直近数カ月の議事録や日報を生成AIに要約させ、「登場する業務」と「登場人物の関与」を抽出して仮の責任分担表を生成させたところ、ヒアリングの初速が大きく上がりました。ただしAIの出力は必ず人が最終確認(Human-in-the-Loop)して確定するのが鉄則です。分担=責任の割り当ては経営判断であり、AIに決めさせるものではありません。更新時も、新しい議事録との差分をAIに検出させ、人が承認する運用にすると、STEP5の見直しが軽くなります。具体的な進め方は業務改善にAIを活用する進め方を参照してください。
まとめ|業務分掌は「規程」より「回る分担表」から
業務分掌の作り方は、①棚卸し→②割付→③責任分担表で点検→④規程化→⑤定期見直しの5ステップです。多くの現場でつまずくのは、規程の文言づくりから入ってしまうこと。先に現状を写した1枚の責任分担表を作り、重複(Aが複数)と抜け(空白)をつぶしてから規程に落とす——この順序を守るだけで、形骸化と属人化の大半は防げます。
役割の重複と抜けをなくす第一歩は、業務をもれなく書き出すことです。私たちが支援現場で使っている観点を反映した「業務棚卸しテンプレート」を無料で配布しています。分担表づくりの土台としてご活用ください。
無料ダウンロード:業務棚卸しテンプレート
業務分掌・分担表の前提になる業務の洗い出しを、抜け漏れなく進められるテンプレートです。
▶ ダウンロードはこちら「自社の分掌をどう整理すべきか相談したい」という場合は、無料相談(お問い合わせ)も承っています。業務可視化から組織設計まで、業務改善コンサルティングとしてご支援します。
よくある質問(FAQ)
Q. 業務分掌と職務分掌の違いは何ですか?
A. 業務分掌は部署・チーム単位で「どの業務をどこが担うか」を分けるもの、職務分掌は役職・個人単位で「どこまでの責任と権限を持つか」を分けるものです。実務では両方を組み合わせ、業務分掌表と職務権限規程をセットで整えます。
Q. 業務分掌規程には何を書けばよいですか?
A. 目的・適用範囲・組織構成・組織単位の業務分掌・別紙の業務分掌表・改廃(見直しルール)が基本項目です。本文は骨格だけにし、変わりやすい担当の詳細は別紙の分担表に逃がすと更新が楽になります。
Q. 小さな会社でも業務分掌は必要ですか?
A. 必要です。むしろ人数が少ないほど属人化が起きやすく、担当が休むと業務が止まります。規程はA4数枚で十分なので、まずは業務を棚卸しして「R=実行/A=最終責任」を書き込む1枚の分担表から始めるのがおすすめです。
Q. 役割の「重複」と「抜け」はどう見つけますか?
A. 縦に業務・横に担当のクロス表を作り、「1つの業務にAが2人以上=重複」「行が空白=抜け」を機械的に探します。感覚ではなく表のルールで点検するのがコツです。
Q. 業務分掌はどのくらいの頻度で見直すべきですか?
A. 半年〜1年ごとの定期見直しに加え、組織変更・新規事業・主要メンバーの異動が起きたタイミングで更新します。更新トリガーと更新責任者をあらかじめ規程に明記しておくと、形骸化を防げます。
