2026.10.21

PMI

M&Aでの許認可の承継|株式譲渡・事業譲渡別の手続きと注意点

株式譲渡なら許認可は会社に残り、事業譲渡や合併では、業法に承継の定めがある業種を除いて取り直しになります。

許認可が要る事業を買うとき、最初に決めるのは「どのスキームで買うか」です。そして、もう1つ見落とされやすいのが「引き継いだ先の会社が、許可の要件をもう一度満たせるか」という点です。

当社は2026年10月、当社とグループ会社の2社のどちらで有料職業紹介事業の許可を取るかを検討しました。2社の確定決算で要件を試算すると、黒字の会社でも要件に届かない、借入で現金を積んでも要件の数字は1円も増えないといったことが分かりました。これは自社で新しく許可を取るための試算ですが、事業譲渡や合併で許可を取り直す買い手の会社は、同じ許可基準が適用されます。

本記事では、スキーム別・業種別の承継ルールを整理したうえで、この試算から作った「許認可承継の3点チェック(仕組み・要件・時点)」を紹介します。

※本記事は一般的な情報提供です。個別の判断は所管の官庁と行政書士・弁護士にご確認ください。


M&Aで許認可は引き継げる?スキーム別の基本ルール

許認可は「会社(法人格)」に付いています。法人格がそのまま残る株式譲渡では許認可も残り、法人格が消える合併や、事業だけを移す事業譲渡では、原則として引き継げません。

スキーム 法人格 許認可の扱い(原則) 主な手続き
株式譲渡 変わらない そのまま残る 役員・株主などの変更届。人の要件を満たし続けているかの確認
吸収合併 存続会社が残り、消滅会社は消える 存続会社の許可は残る。消滅会社の許可は業法の承継規定がなければ消える 承継認可・届出、または存続会社で新規取得
新設合併 全社が消え、新会社ができる 業法の承継規定がなければ全部取り直し 新会社で新規取得
会社分割 事業を承継する会社へ移る 業法に承継規定があれば認可・届出で移る 承継認可、または新規取得
事業譲渡 事業だけが移る 原則は取り直し。建設業など一部の業種だけ承継できる 事前認可・承認・届出、または新規取得

この表のとおり、許認可が重い業種のM&Aでは株式譲渡が選ばれやすくなります。ただし株式譲渡にも「何もしなくてよい」わけではない落とし穴があり、後の章で扱います。スキームそのものの違いは「株式譲渡と事業譲渡の違い」として別の記事で整理する予定です。合併の手続きは会社合併の進め方をご覧ください。


業種別に見ると、どの許認可が承継できる?

事業譲渡で承継の仕組みがあるのは、建設業・一般貨物自動車運送・旅館業・飲食店営業などです。宅地建物取引業・労働者派遣・有料職業紹介・介護保険の指定・薬局開設許可は、事業譲渡では新規の取得になります。

業種 許認可 事業譲渡 合併・分割 根拠・手続き
建設業 建設業許可 ○ 事前認可で承継 ○ 事前認可で承継 建設業法第17条の2(2020年10月施行)。許可業種の全部を承継する場合に限る
運送 一般貨物自動車運送事業 ○ 事前認可 ○ 事前認可 貨物自動車運送事業法第30条。認可前の承継は効力なし
宿泊 旅館業 ○ 事前承認 ○ 事前承認 旅館業法第3条の2(事業譲渡は2023年12月施行の改正で追加)
飲食 飲食店営業 ○ 事後の届出 ○ 事後の届出 食品衛生法第56条(2021年6月施行)
不動産 宅地建物取引業免許 × 新規取得 × 新規取得 承継の規定なし
廃棄物 産業廃棄物処理業 × 新規取得 × 原則新規取得 処理業の許可は承継できない。処理施設の設置許可は譲渡・合併・分割で承継の手続きがある
人材 有料職業紹介・労働者派遣 × 新規取得 × 新規取得(存続会社が許可を持っていれば不要) どちらも事前申請により、合併日と同日付で許可を受けられる扱い(厚生労働省の要領)
介護 介護保険の指定 × 新規指定 × 原則新規指定 廃止届と新規指定を同時に進める。加算・規模区分が引き継がれない場合がある
調剤 薬局開設許可・保険薬局指定 × 新規取得 × 新規取得 保険薬局は、地方厚生局が認めれば遡及指定で空白を避けられる場合がある

ここで見てほしいのは、「承継できる」の中身が業種ごとに違うことです。建設業や一般貨物は承継の前に認可が要り、飲食店営業は譲渡の後の届出で足ります。産業廃棄物は、処理施設の許可は引き継げても処理業の許可は引き継げません。人材紹介・派遣は、合併でも分割でも、存続・承継する会社が許可を持っていなければ新規取得です。このほか酒類販売業・古物商・旅行業なども、業法ごとに扱いが異なります。

業種ごとの統合の進め方は、介護・福祉事業のM&A・PMI、調剤薬局のM&A・PMI、IT・SES企業のM&A・PMIでも扱っています。


株式譲渡なら手続きは不要?見落としやすい「人の要件」

株式譲渡でも、役員や管理者が替われば変更届が要ります。さらに危ないのは、許可の要件になっている「人」が売り手側の退任で抜け、要件を欠いてしまうことです。

株式譲渡では、売り手の社長が退任し、買い手が役員を送り込むことがよくあります。このとき、許可の要件になっている人が抜けると、許可そのものが維持できなくなります。

業種 要件になっている人 変更時の届出期限の目安
建設業 経営業務の管理責任者(常勤役員等)・営業所ごとの技術者 役員の変更は30日以内、管理責任者・技術者は2週間以内
介護 事業所の管理者・人員基準上の職員 変更から10日以内
調剤薬局 管理薬剤師 変更から30日以内
有料職業紹介 事業所ごとの職業紹介責任者(常勤) 変更の翌日から10日以内(登記事項証明書が要る変更は30日以内)

建設業の管理責任者は、売り手の社長本人であることが少なくありません。社長がクロージングと同時に退任し、後任の要件を満たす人がいなければ、許可を維持できません。「誰がいつ抜けるか」と「誰がその要件を引き継ぐか」は、最終契約の前に決めておく必要があります。顧問として一定期間残ってもらう約束は、最終契約書(SPA)の条項に書き込みます。

もう1つ、許認可の取り消し事由に「役員の欠格事由」がある業種では、買い手が送り込む役員がその事由に当たらないかも確認します。


許可を取り直す会社は、どの数字で落ちる?当社の試算で分かった落とし穴

有料職業紹介の財産要件をグループ2社の確定決算で試算すると、要件は「申請時の直近の決算日1日」の数字で判定され、借入では満たせず、創立費やのれんは差し引かれることが分かりました。事業譲渡や合併で許可を取り直す買い手は、同じ壁に当たります。

何をしたか

2026年10月、当社と当社のグループ会社のどちらで有料職業紹介事業の許可を取るかを検討しました。財産要件は次の2つです(厚生労働省の許可基準)。

  • 基準資産額=資産 −(繰延資産+営業権)− 負債 が、500万円×事業所数以上
  • 自己名義の現金・預金が、150万円+(事業所数−1)×60万円以上

グループ2社の直近の確定決算(2025年9月期・10月期)を使って、この2つを計算しました。

分かった4つのこと

# 分かったこと M&Aでの意味
1 2社とも現預金要件は満たしたが、基準資産額は2社とも不足した。1社は不足が大きく、利益の積み上げだけでは到達が数期先。もう1社は黒字なのに数百万円足りなかった 現金があっても、許可が取れるとは限らない。見るべきは純資産側
2 黒字の1社は、創立費(繰延資産)が資産から差し引かれ、その分だけ不足が広がった 事業譲渡の受け皿に新設会社を使うと、創立費は数えられない。合併で計上したのれん(営業権)も差し引かれる
3 判定は申請時の直近の事業年度の決算日1日の数字。決算日で足りなければ、公認会計士・監査法人の監査証明を付けた中間・月次決算書が必要になる 受け皿会社の決算日の前に資本を入れるかどうかで、許可の時期が数か月単位で変わる
4 借入で現金を入れても基準資産額は増えない(資産と負債が同じだけ増える)。効くのは利益の積み上げのほか、増資・DES(借入金の株式化)・債務免除 買収資金を借入で受け皿会社に入れる形だと、財産要件は満たせない。利益を待てないなら資本で入れる

黒字の会社については、決算日前に600万円を増資すれば、その期の決算書だけで申請でき、監査証明は要らないという結論になりました。決算日を1日でも過ぎると、監査証明付きの月次決算書を用意するか、次の決算まで待つことになります。

買い手にとっての教訓

この試算で一番効いたのは、許認可の要件は「承継先の会社」で判定されるという当たり前の事実でした。売り手の会社が許可を持っていても、事業譲渡や、許可を持たない会社を存続会社にする合併では、買い手側の会社がもう一度要件を満たす必要があります。

さらに、更新時にも財産要件はあります(有料職業紹介は更新時に基準資産額350万円×事業所数)。株式譲渡で許可が残った場合でも、買収のために対象会社に借入を寄せたり、のれんを計上したりすると、次の更新で要件を割るおそれがあります。

※当社グループの実際の検討(2026年10月)。社名・金額の詳細は伏せています。M&Aでの当てはめは、同じ許可基準から当社が整理したものです。業種によって財産要件の有無・計算式は異なります。


許認可承継の3点チェック(仕組み・要件・時点)とは?

許認可の承継は、①承継の仕組みがあるか、②承継先が要件を満たすか、③いつの時点の何で判定されるか、の3点を順に確かめれば漏れを防げます。

許認可承継の3点チェック(仕組み・要件・時点)の確認項目
許認可承継の3点チェック(仕組み・要件・時点)の確認項目
チェック 確かめること 確かめ方
①仕組み 選んだスキームに、その業法の承継規定(認可・承認・届出)があるか 業法の条文と所管官庁の手引き。無ければ新規取得か、スキームの変更
②要件 承継先の会社が、人・財産・場所の要件を満たすか 人=常勤の責任者・技術者、財産=決算書の数字、場所=事務所・設備の基準
③時点 いつの数字で判定され、申請から許可・認可まで何日かかるか 決算日・申請期限・標準処理期間から、クロージング日を逆算する

③の「時点」は、主な許認可で次のように決まっています。日数は目安で、自治体や時期で変わるため必ず窓口で確かめます。

許認可 判定・申請のタイミング 期間の目安
建設業の承継認可 承継予定日より前に認可を受ける。受付期間は許可行政庁ごとに決まっている(国土交通省・各地方整備局の手引き) 審査に数か月かかる前提で、承継予定日の2〜3か月前には書類をそろえる
有料職業紹介の新規許可 財産要件は申請時の直近の決算日の数字 労働局の審査の後に厚生労働大臣が許可するため、申請から許可まで2〜3か月を見込む
介護保険の新規指定 指定日(月1日付が多い)に対する自治体ごとの申請締切 締切は自治体の手引きで確認(指定日の1〜2か月前に設ける例がある)
一般貨物の譲渡譲受認可 認可を受けるまで譲渡の効力が生じない 地方運輸局へ事前相談のうえ確認

多くの解説は①の「承継できる業種・できない業種」で終わります。しかし実務で止まるのは②と③です。建設業のように承継の仕組みがあっても、認可は承継の前に受ける必要があり、要件を欠けば認可されません。人材紹介・派遣のように合併日と同日付の許可が可能な業種でも、事前の申請に間に合わなければ空白期間ができます。


許認可の手続き漏れは、PMIのどの段階で起きる?

漏れの多くは、DDで「許可がある」ことだけを確認し、承継先の要件と日程を確かめないまま最終契約・クロージングへ進むことで起きます。許認可はDDからDay1までの各段階で、確認する中身が変わります。

段階 やること よくある漏れ
DD 許認可の一覧・有効期限・条件・行政処分歴・人の要件の担い手を洗い出す 許可証の写しだけ集め、要件を担う人を確認しない
スキーム決定 3点チェックで、承継できるか・取り直すかを決める 税務や価格だけでスキームを決め、許認可の取り直しを後で知る
最終契約 認可・許可の取得をクロージングの前提条件にする。キーマンの残留を約束する 前提条件に入れず、許可が出る前に実行してしまう
Day1まで 変更届・承継届の期限と担当を決め、窓口へ事前相談する 届出期限(10日・2週間・30日)を過ぎる
100日以内 更新時期と財産要件の維持を、統合後の資本・借入計画と照らす 借入の付け替えやのれんの計上で、次の更新の要件を割る

DDで見つけた事項を統合の課題に変える方法はデューデリジェンスからPMIへの引き継ぎ、クロージング当日までの準備はPMIのDay1準備で詳しく解説しています。取引先契約のチェンジオブコントロール条項による承諾も、許認可と同じく前提条件になりやすい論点です。統合で表面化する課題を先回りで潰す進め方はPMIのリスク管理で紹介しています。


事業譲渡で承継できない許認可は、どう手当てする?

手当ては「スキームを変える」「事前に申請して空白をなくす」「遡及の手当てを使う」の3つです。売り手の許可で買い手が営業を続ける形は、名義貸しになるため使えません。

  1. スキームを変える:株式譲渡にすれば、法人格ごと許可が残ります。対象事業だけを買いたい場合は、売り手が会社分割で事業を新会社に移し、その株を買う方法もあります。ただし分割で許可が移るかは業法しだいです(人材紹介は新設分割でも新規取得)。
  2. 事前に申請して空白をなくす:人材紹介・派遣は、合併を決議した株主総会議事録などを付けて事前に申請すれば、合併日と同日付で許可を受けられる扱いです。建設業も、承継の日より前に認可を受けておけば空白期間なく営業できます。
  3. 遡及の手当てを使う:保険薬局は、開設者が変わっても事業が続いていると地方厚生局に認められれば、遡及指定で保険の請求を途切れさせずに済む場合があります。使えるかは事前に厚生局へ相談します。介護も廃止と新規指定の日付を合わせて空白を作らないように進めます。

どの手当ても、窓口への事前相談が前提です。審査期間は業種と自治体で違うため、クロージング日は許可・認可の見込み日から逆算して決めます。


よくある質問(FAQ)

Q. M&Aで株式譲渡をすれば、許認可の手続きは一切いりませんか?
A. いいえ。法人格が残るため許認可自体は残りますが、役員・管理者などが替われば変更届が必要です。建設業の管理責任者や介護の管理者など、要件を担う人が退任すると許可を維持できない場合もあります。

Q. 事業譲渡で許認可を引き継げる業種はどれですか?
A. 建設業(事前認可)、一般貨物自動車運送事業(事前認可)、旅館業(事前承認)、飲食店営業(届出)などです。宅地建物取引業、有料職業紹介、労働者派遣、介護保険の指定、薬局開設許可は新規取得が必要です。

Q. 許認可を取り直す場合、買い手の会社のどこを見られますか?
A. 業種ごとに、人(常勤の責任者・技術者)、財産(決算書の純資産や現預金)、場所(事務所・設備)の要件を承継先の会社で判定されます。財産要件は決算日時点の数字で見られることが多く、借入で現金を増やしても純資産は増えません。

Q. 許可が出る前にクロージングしてしまうとどうなりますか?
A. 許可や認可の前に事業を始めると、無許可営業になるおそれがあります。認可が効力要件になっている業種もあるため、許認可の取得は最終契約でクロージングの前提条件にしておきます。


まとめ:許認可は「名義替え」ではなく、承継先が要件を満たすかの問題

許認可の承継は、①スキームに承継の仕組みがあるか、②承継先の会社が人・財産・場所の要件を満たすか、③いつの数字で判定され、いつまでに申請するか、の3点で確かめます。

  • 株式譲渡なら許認可は残るが、要件を担う人の退任と変更届の期限に注意する
  • 事業譲渡・合併では、業法の承継規定がなければ買い手側で新規取得になる
  • 取り直す場合の財産要件は、決算日1日の数字・借入では増えない・創立費やのれんは差し引かれる、の3つを押さえる
  • 許認可の取得はクロージングの前提条件にし、クロージング日は許可の見込み日から逆算する

許認可の漏れは、M&Aそのものを止めるだけでなく、統合後の営業停止や更新不可につながります。当社では、統合でつまずきやすい論点を一覧にした「PMI失敗要因チェックシート」を無料で配布しています。許認可を含むDD〜Day1の確認漏れの点検にお使いください。

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監修者

大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)
現場主義×AIを掲げ、業務改善・PMI・生成AI導入を支援。自社グループでも事業承継型M&Aの検討や許認可取得の試算を行い、その実務の知見を支援に生かしている。

参考資料

  • 厚生労働省「職業紹介事業の業務運営要領 第8 その他の手続等」(法人の合併・会社分割・営業譲渡の取扱い) https://www.mhlw.go.jp/general/seido/anteikyoku/jukyu/syoukai/dl/08.pdf
  • 厚生労働省「職業紹介事業の許可基準」 https://www.mhlw.go.jp/content/11650000/001398199.pdf
  • 国土交通省「建設業者の地位の承継について(建設業法第17条の2・3)」 https://www.mlit.go.jp/common/001365753.pdf
  • 国土交通省 関東地方整備局「事業承継等の事前認可制度」 https://www.ktr.mlit.go.jp/ktr_content/content/000877209.pdf
  • 厚生労働省「労働者派遣事業 許可・更新等手続マニュアル」 https://www.mhlw.go.jp/file/06-Seisakujouhou-11600000-Shokugyouanteikyoku/0000107980.pdf
  • 千葉県「介護サービス事業者の変更届」 https://www.pref.chiba.lg.jp/koufuku/tetsuzuki/kaigo/henkoutodoke.html
  • 大阪府「産業廃棄物処理施設(合併・分割)認可申請書」 https://www.pref.osaka.lg.jp/menkyo/o120060/0001890/0007579.html
  • 事業譲渡で許認可は承継できる?業種別一覧(ミツキ) https://mitsukijapan.com/ma/column/biz-transfer-licenses/


監修者

大槻 伸夫/ 代表取締役 CEO

キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO。「現場主義×AI」を掲げ、業務改善(BPR)・PMI・経営支援・AIプロダクト開発を一気通貫で支援。クライアント現場での実行支援を重視する。

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