※本記事は2026年10月時点の公開情報(厚生労働省「雇用動向調査」「新規学卒就職者の離職状況」)と、当社が2026年10月に自社の1on1記録を読み直した結果にもとづきます。社員が特定されないよう、件数と傾向のみを記載しています。
「辞めると言われて初めて、不満があったと知った」「福利厚生を足したのに、辞める人が減らない」——中小企業の経営者から、よく聞く悩みです。
離職防止は、施策を足す前に「辞める理由」を条件・関係・先行きの3層で特定し、一人の声か全員の声かで打ち手を分けることから始めます。
理由が分からないまま研修や手当を増やしても、当たらない施策にお金と時間を使うだけです。この記事では、公的データで見る離職理由、本当の理由が会社に届かない仕組み、当社が自社の1on1記録を読み直して見えたこと、そして理由を特定してから打ち手を選ぶ5つのステップを解説します。
社員はなぜ辞める?公的データで見る離職理由の上位は?
転職した人が前職を辞めた理由の上位は、男女とも「給与」「人間関係」「労働時間・休日」の3つです。そして会社の規模が小さいほど、若手は早く辞めています。
厚生労働省「令和6年雇用動向調査」によると、2024年の離職率は14.2%でした。転職した人が前職を辞めた理由(個人的理由)の上位は次のとおりです。
| 順位 | 男性 | 女性 |
|---|---|---|
| 1位 | 給料等収入が少なかった(10.1%) | 労働時間・休日等の労働条件が悪かった(12.8%) |
| 2位 | 職場の人間関係が好ましくなかった(9.0%) | 職場の人間関係が好ましくなかった(11.7%) |
| 3位 | 労働時間・休日等の労働条件が悪かった(8.6%) | 給料等収入が少なかった(8.3%) |
出典:厚生労働省「令和6年雇用動向調査結果の概要」
もう一つ、中小企業が押さえておきたいのが規模による差です。大学を卒業して就職した人が3年以内に辞める割合は全体で33.8%ですが、事業所の規模別に見ると大きく違います。

出典:厚生労働省「新規学卒就職者の離職状況(令和4年3月卒業者)」(2025年10月24日公表)
30人未満の事業所では、大卒の2人に1人以上が3年以内に辞めています。小さな会社では1人の離職が業務と採用費に直結するため、「辞めてから考える」余裕はありません。
なぜ「本当の辞める理由」は会社に届かないのか?
退職の面談で語られる理由は、たいてい当たり障りのない表向きの理由です。本当の理由は、辞めると決める前の普段の会話にしか出てきません。
辞めると決めた社員にとって、退職面談で本音を言う得はほとんどありません。円満に辞めたいので「家庭の事情」「新しい挑戦」と答えます。その結果、会社の記録には表向きの理由だけが残り、次の離職防止策もずれていきます。
本当の理由が届かない原因は、主に3つです。
- 聞く場がない:上司と1対1で話す時間が、評価面談の年2回しかない
- 聞いても記録しない:話は聞いたが、残っていないので前回と比べられない
- 記録しても集計しない:一人ひとりの悩みとして扱い、複数人に共通する声として見ていない
離職防止の第一歩は、退職面談を工夫することではなく、辞めると決める前の会話を、比べられる形で残すことです。1on1の始め方そのものは「1on1ミーティングの導入の進め方」で詳しく解説しています。
当社が自社の1on1記録を読み直して分かったことは?
当社の1on1記録を読み直すと、全員が同じ構造の不満を口にしていた一方で、変化を追うための点数欄は全件空欄で、記録も1回で止まっていました。
当社は2026年4月、代表が社員4名と1on1を行い、17項目の記録様式(仕事の充実度・健康状態・ストレス・部署間連携・キャリアの方向性など)に要点を残しました。この記事を書くにあたり、2026年10月にその記録を読み直しました。
| 見えたこと | 件数 | 読み取れること |
|---|---|---|
| 営業と現場の連携の悪さに触れた | 4名中4名 | 一人の不満ではなく、組織の作りの問題 |
| 今の役割の先が見えないことに触れた(後任がいない、同じ立場に長く留まりたくない等) | 4名中2名 | 成長機会が詰まり始めている |
| 働く時間の条件に触れた(時間の柔軟性の希望、長時間の稼働) | 4名中2名 | 条件の不満は、具体的な要望の形で出る |
| 給与への不満をはっきり口にした | 0名 | 言わないだけの可能性もあり、ゼロとは言い切れない |
| 「仕事の充実度(10点満点)」の欄 | 4件とも空欄 | 唯一の数値項目を取っておらず、変化を比べられない |
| 記録の更新 | 4月の1回のみ | 半年間、同じ物差しで追えていない |
ここから学んだことは2つあります。
一つ目は、「全員が言っていること」は個人ではなく組織への宿題だということです。4名全員が営業と現場の連携に触れていた以上、上司が一人ずつ話を聞いて励ましても解決しません。部署をまたぐ定例の場を設けるなど、仕組みで手を打つ必要があります。
二つ目は、話を聞くことと、予兆を追えることは別物だということです。記録は充実していても、点数欄が空欄で、2回目がなければ「先月より悪くなった」に気づけません。当社自身、この点はまだ改善の途中です。等級・評価の制度も、2026年10月時点でたたき台を作り直しているところです。
離職防止の進め方は?辞める理由を特定する5ステップ
離職防止は「測る→聞く→3層に仕分ける→一人の声か全員の声かを分ける→打ち手を1つ選んで測り直す」の5ステップで進めます。
ステップ①:離職の実態を数字で押さえる
まず、過去2〜3年分の退職者を一覧にします。入社からの年数、部署、上司、退職した月、退職面談での理由を並べるだけで、「入社1年以内に集中している」「特定の部署に偏っている」といった傾向が見えます。人数が少ない会社でも、件数で見れば十分です。
ステップ②:辞める前の声を、比べられる形で聞く
1on1やアンケートで、辞めると決める前の声を集めます。ポイントは、毎回同じ質問を入れ、1つは点数で答えてもらうことです。たとえば「今の仕事の充実度は10点中何点か」を毎回聞けば、点数の下がり方で予兆に気づけます。当社の記録のように、点数欄を空けたままにしないことが肝心です。
点数とあわせて、次のような普段の変化も予兆として記録しておきます。
- 1on1や会議での発言が減った、質問をしなくなった
- 有給休暇の取り方が変わった(半日単位の休みが急に増えた等)
- 「この先」の話を避けるようになった、次の目標を聞いても答えが曖昧になった
- 長時間の稼働が続いているのに「大丈夫です」と答える
一つだけで判断せず、点数の低下と重なったときに上司が早めに声をかける、と決めておくと動きやすくなります。
ステップ③:理由を「条件・関係・先行き」の3層に仕分ける
集めた声を、当社では次の3層に仕分けています。これを「離職理由の3層」と呼んでいます。
| 層 | 中身 | 典型的な声 |
|---|---|---|
| 条件 | 給与、労働時間、休日、働く場所 | 「残業が多い」「時間をもう少し自由にしたい」 |
| 関係 | 上司、同僚、部署間のつながり | 「上司に相談しにくい」「営業と現場が噛み合わない」 |
| 先行き | 役割、成長機会、キャリアの見通し | 「この先どうなるか見えない」「同じ仕事がずっと続く」 |
公的データの上位3理由のうち、給与と労働時間は「条件」、人間関係は「関係」にあたります。一方で、中小企業では「先行き」の不満が表に出にくく、気づいたときには転職先が決まっていることが少なくありません。
ステップ④:一人の声か、全員の声かを分ける
同じ不満でも、1人だけが言っているのか、複数人が言っているのかで打ち手は変わります。
- 一人の声:その人の上司が個別に手を打つ(業務量の調整、配置の相談など)
- 全員の声:経営が仕組みで手を打つ(制度、会議体、組織の作りの見直し)
全員の声を一人ずつの面談で解決しようとすると、上司が疲れるだけで何も変わりません。逆に、一人の声に全社制度で応えると、大げさな施策になります。
ステップ⑤:打ち手を1つに絞り、3か月後に測り直す
打ち手は一度に1〜2個に絞ります。3か月後に、ステップ②と同じ質問・同じ点数で測り直し、変化を確かめます。変化がなければ、仕分けが間違っていた可能性があります。
理由別に効く離職防止の打ち手は?3層で選ぶ
打ち手は「人気の施策」から選ぶのではなく、特定した理由の層に合わせて選びます。
| 層 | 一人の声への打ち手 | 全員の声への打ち手 |
|---|---|---|
| 条件 | 業務量の調整、休暇の取得を上司が後押し | 賃金テーブルの見直し、残業の上限ルール、柔軟な勤務制度 |
| 関係 | 上司との1on1の頻度を上げる、相談相手(メンター)をつける | 部署をまたぐ定例の場、上司向けの面談研修 |
| 先行き | 次の役割を本人と話し合う、挑戦できる仕事を渡す | 等級とキャリアの道筋を明文化する、後任を育てる仕組み |
「先行き」の全員の声には、等級ごとに期待する役割を書き出し、評価と処遇をつなぐことが根本の打ち手になります。設計手順は「人事評価制度の作り方」、次世代の幹部を計画的に育てる方法は「幹部育成の仕組みづくり」をご覧ください。
なお、雇用管理制度を整えて離職率を下げた事業主向けに、厚生労働省の「人材確保等支援助成金(雇用管理制度・雇用環境整備助成コース)」があります。要件や金額は年度で変わるため、最新の内容は厚生労働省・都道府県労働局で確認してください。
離職防止が空回りする会社の共通点は?
空回りする会社の多くは、理由を特定する前に施策を決め、実施したことに満足して測り直していません。
経営支援の現場で見かける共通点は次の3つです。
- 流行りの施策から始める:他社で効いた福利厚生やツールを、自社の理由を確かめずに導入する
- 全員の声を上司任せにする:組織の作りが原因なのに、上司の面談力の問題として扱う
- 聞きっぱなしで返さない:アンケートや面談で声を集めたのに、何を変えたかを社員に伝えない。社員は「言っても変わらない」と学び、次から本音を言わなくなる
3つ目は特に影響が大きく、声を集めたこと自体が逆効果になります。打ち手を1つでも実行したら、「皆さんの声を受けて、これを変えました」と必ず伝えてください。社員の参加意欲を高める考え方は「人的資本経営とは」でも触れています。
よくある質問(FAQ)
Q. 離職防止は何から始めればいいですか?
A. 過去2〜3年分の退職者を一覧にし、入社年数・部署・上司・退職時期で並べることから始めます。そのうえで、在籍している社員に毎回同じ質問と点数で声を聞き、条件・関係・先行きの3層に仕分けます。
Q. 小さな会社でも離職防止の仕組みは必要ですか?
A. 必要です。厚生労働省の調査では、30人未満の事業所で大卒の2人に1人以上が3年以内に辞めています。小さな会社ほど1人の離職の影響が大きいため、毎月の短い1on1と記録だけでも始める価値があります。
Q. 給与を上げれば離職は防げますか?
A. 給与が理由の人には効きますが、人間関係や先行きが理由の人には効きにくいです。給与は「条件」の一部にすぎないため、まず辞める理由を特定し、層に合った打ち手を選ぶことが大切です。
Q. 離職の予兆はどう見つければいいですか?
A. 1on1で毎回「仕事の充実度を10点中何点か」のように点数で聞き、点数の下がり方を追うのが簡単な方法です。あわせて、遅刻や有給の取り方の変化、会議での発言の減少など、普段の様子の変化にも目を配ります。
Q. 離職防止の効果はどう測ればいいですか?
A. 離職率そのものは変化が出るまで時間がかかるため、3か月ごとに同じ質問の点数を測り直し、打ち手を打った層の点数が上がったかで確かめます。1年単位で、入社3年以内の離職率もあわせて追います。
まとめ:離職防止は「理由の特定」で8割決まる
離職防止の進め方は、①離職の実態を数字で押さえ、②辞める前の声を比べられる形で聞き、③条件・関係・先行きの3層に仕分け、④一人の声か全員の声かを分け、⑤打ち手を1つに絞って測り直す、の5ステップです。
当社自身、自社の1on1記録を読み直して、全員が同じ課題を口にしていたこと、そして点数欄が空欄のまま記録が止まっていたことに気づきました。離職防止で大切なのは、施策の数ではなく、辞める理由を特定し、変化を同じ物差しで追い続けることです。
離職防止を含む組織づくりや、評価・育成の仕組みを経営計画とつなげて整えたい方は、「中期経営計画・経営支援コンサルティング」もあわせてご覧ください。自社の離職の理由を一緒に整理したい方は、無料相談からお気軽にご連絡ください。現場主義×AIの視点で、辞めない組織づくりをご支援します。
監修:大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)
業務改善・PMI・経営支援のコンサルティングに従事。現場に入り込んで課題を可視化し、AIを組み合わせて仕組みに落とし込む「現場主義 × AI」の支援を行う。
