2026.10.17

業務改善

業務の引き継ぎ書の作り方|異動・退職で業務を止めない項目とテンプレ

引き継ぎ書は「業務一覧」と「業務カード」の2枚で作り、年1〜4回・随時・承認の業務に後任名を入れます。

「異動が決まったので引き継ぎ書を作ってほしい」と言われると、多くの人はまず担当業務を一覧表にします。それ自体は正しい出発点です。ただ、一覧表を作った時点で「引き継ぎは済んだ」と考えてしまうと、業務は止まります。止まるのは毎日やる業務ではありません。次に回ってくるのが半年後の業務と、何かが起きたときだけ発生する業務、そして承認者の名前が前任者のまま残っている業務です。

本記事では、引き継ぎ書に書く項目をテンプレートとして示したうえで、ある企業グループで実際に作られた引き継ぎ一覧(129業務)を当社で集計した結果と、当社が社内で作業を渡すときに書いた引き継ぎ書の型を、記入例つきで紹介します。そこから組み立てた「引き継ぎ書の2枚構成(業務一覧+業務カード)」と「後任欄が空く3つの穴」は、部署異動・退職・休職のどれにもそのまま使えます。

※実在の引き継ぎ一覧は、ある企業グループ(5法人)の管理部門で2023年に作られたものです。社名・人名・取引先名は出さず、件数のみで示します。自社の引き継ぎ書は2026年9月に当社で作成したものです。


引き継ぎ書には何を書けばいい?

引き継ぎ書は2枚に分けます。1枚目の「業務一覧」で全部の業務と後任を決め、2枚目の「業務カード」で1業務ずつやり方と注意点を書きます。

一般的な解説記事では、業務の全体像・スケジュール・手順・イレギュラー対応・資料の保管場所・関係者を引き継ぎ書の必須項目に挙げています(参考資料参照)。項目としてはどれも必要です。ただ、これを1つの文書に全部書こうとすると、100を超える業務を抱える担当者は途中で手が止まります。そこで役割で2枚に分けます。

1枚目:業務一覧 2枚目:業務カード(1業務1枚)
目的 抜け漏れなく全部を並べ、後任を決める 後任が1人でその業務を回せるようにする
書く単位 1行=1業務 1枚=1業務(重要な業務だけでよい)
主な項目 業務名・頻度・次回の実施日・現担当・後任・社外の相手・承認や名義 目的・肝・入力と置き場所・手順と順番・成果物・守るルール・落とし穴・現在の状況
作る人 前任者(上司が後任欄を確定) 前任者が書き、後任が実際にやって直す

業務一覧の作り方は、業務棚卸しとほぼ同じです。洗い出しの手順は業務棚卸しの手順で詳しく紹介しています。

1枚目「業務一覧」のテンプレート

業務一覧には、一般的な引き継ぎ表に3つの列を足します。「次回の実施日」「社外の相手」「承認・名義」です。理由は次の章の集計結果で説明します。

列 書く内容 記入例
大分類・業務名 動詞で終わる1行 経理/銀行への年次報告を出す
頻度 日次・週次・月次・年◯回・随時 年1回
次回の実施日 年◯回と随時は必須。随時は「発生する条件」を書く 2026年6月末
現担当 → 後任 後任は個人名。空欄のまま提出しない 山田 → 佐藤
社外の相手 提出先・委託先・金融機関など 取引銀行(担当窓口)
承認・名義 承認者、システムの権限、カードやアカウントの名義 会計システムの承認者=山田
業務カード あり/なし あり

書くときは、後任が前任者に聞かずに読めることを基準にします。社内の略語や「いつもの件」のような言い方は開き、「誰が・いつまでに・何を・どこへ」を1行に入れます。日付と数字は「月末ごろ」ではなく「6月30日」のように具体的に書き、1業務の説明は1画面に収めます。長くなる手順は業務カードへ回します。


実際の引き継ぎ一覧は、作成時点でどこが空欄だった?

実在の一覧129業務のうち、退任する担当者が1人で持っていた23業務では、一覧の作成時点(2023年11月)で後任が書かれていたのは5件だけでした。空欄の18件のうち15件は、年1〜4回の業務と随時の業務です。

当社の手元にある、ある企業グループ(5法人)の管理部門の業務引き継ぎ一覧を集計しました。担当者の1人が退任するにあたって作られたもので、列は「大分類・分類・業務内容・頻度(日次/週次/月次/年次/随時)・引継担当・引継後担当・備考」です。一般的なテンプレートに沿った、丁寧な一覧です。

引き継ぎ一覧の作成時点で後任欄が空欄だったのは、年1〜4回と随時の業務が中心
引き継ぎ一覧の作成時点で後任欄が空欄だったのは、年1〜4回と随時の業務が中心

集計して分かったことは3つです。

  1. 随時の業務が一番多い:129業務のうち、頻度が「随時」だけの業務が61件と約半分でした。登記の依頼、税務の相談、金融機関への報告など、「何かあったら」発生する業務です
  2. 後任が空くのは年1〜4回と随時:退任者が1人で持っていた23業務のうち、作成時点で後任欄が空欄だったのは18件。その内訳は年1〜4回が8件、随時が7件、月次が2件、日次が1件でした。毎月回る資金繰り表などには後任が書かれていた一方、銀行との契約更新や年次の報告は空欄でした
  3. 承認と名義は「備考」に散らばっていた:「会計システムの承認チェック:(退任者名)」が3件、「ネットバンク承認変更手続中」「承認ルート変更」「法人カード登録→引継ぎ」がそれぞれ1件。さらに、頻度欄が空欄の3業務のうち2件は伝票承認とネットバンクの支払承認でした。承認は業務として一覧に乗りにくく、備考や空欄に逃げます

年1〜4回の空欄8件のうち6件は、金融機関や取引先、取締役会など社外や上位の相手に期限つきで出すものでした。社内の作業は遅れても社内で済みますが、これらは期限を過ぎると相手に迷惑がかかり、信用に響きます。

この一覧は作りとしては丁寧です。それでも空欄があったのは、一覧の作り方より、空欄を確定させる手順がなかったためと考えられます。毎月の業務は引き継ぎ期間中に一度は回ってくるので、後任が隣で見て覚えられます。年1回の業務は回ってこないので、後任が決まらないまま次の期限を迎えやすくなります。この一覧も、その後どう埋まったかまでは記録が残っていません。だからこそ、一覧の段階で空欄をなくす手順が必要です。note でも、退職を前に「5年に1回ほどのイレギュラーまで書くべきか」と迷う声が投稿されています。


後任欄が空く「3つの穴」はどう埋める?

年1〜4回の業務は「次回の実施日」、随時の業務は「発生する条件」、承認は「名義を変える日」を、それぞれ一覧の列にして埋めます。

集計から分かった3つの穴と、その埋め方を表にまとめます。

穴 なぜ空く 埋め方 確認する人
① 年1〜4回の業務 引き継ぎ期間中に回ってこない 次回の実施日を書き、後任のカレンダーに登録する。前回の提出物を業務カードに添付する 上司
② 随時の業務 「起きたら考える」で後回しになる 「何が起きたら発生するか」を1行で書く。直近1年で何回あったかも書く 前任者
③ 承認・名義 業務ではなく権限なので一覧に乗らない 承認者・システム権限・カード・アカウントを別の列にし、名義を変える日を決める 上司と管理部門

③はとくに重要です。情報システムの引き継ぎでも「管理者権限が個人のアカウントに紐づいたまま」が典型的な失敗とされています。承認者が退任者のままだと、後任が作業を終えても支払いや伝票が承認されず止まります。パスワードやログイン情報は引き継ぎ書に書き込まず、会社のパスワード管理の仕組みで共有し、引き継ぎ後に変更します。承認ルートそのものを見直す場合は承認フローの見直し方も参考にしてください。

後任を個人名で決めきれない業務は、そもそも誰の仕事かが決まっていない可能性があります。その場合は業務分掌の作り方の手順で、部署としての担当を先に決めます。


1業務1枚の「業務カード」には何を書く?

業務カードには8項目を書きます。中でも「肝(一番外してはいけない点)」「落とし穴」「現在の状況」の3つは、手順書には書かれないので必ず入れます。

当社では、分析作業を並行で進めるときに、作業を別の担当へ渡す前に引き継ぎ書を1枚書きます。2026年9月、設備管理分野の分析案件では、2つの作業を別の作業セッション(AIエージェント)へ渡すために引き継ぎ書を2本書きました。AIは書かれていないことを知らず、前任者に聞きに行くこともできません。前任者に聞けない状況は、退職による引き継ぎと同じです。 2本の章立てを人への引き継ぎ用に整理し直すと、次の8項目になります。

# 項目 書く内容
1 これは何の仕事か 1〜2行で。誰に頼まれ、何に使われるか
2 肝(ここが価値) この業務で一番外してはいけない点。依頼者の言葉をそのまま引用する
3 入力と置き場所 使うファイル・システムと保存場所。データの癖(要注意点)
4 手順と順番 やること。順番を間違えると結果が変わる箇所は理由も書く
5 成果物 何を・どこに・どの形式で残すか
6 守るルール 社内ルール、相手に渡すときの決まり
7 落とし穴 前任者が実際に踏んだ失敗。番号つきで
8 現在の状況 どこまで済んだか。「未着手」「成果物は残っていない」まで書く

業務カードの記入例(架空の「銀行への年次報告」)

# 項目 記入例
1 これは何の仕事か 取引銀行へ、決算確定後に財務指標の報告書を出す。融資契約で提出が決まっている
2 肝 提出期限を過ぎないこと。期限は契約書の条項で決まっている(確認済)
3 入力と置き場所 確定した決算書と前年の報告書。共有フォルダ「経理/銀行報告/2025」(確認済)
4 手順と順番 ①決算確定を待つ ②前年の様式に数字を入れる ③上司の承認 ④銀行の担当窓口へ送る。①より前に作ると数字が変わる
5 成果物 報告書のPDFと送付メール。同じフォルダに年度名で保存
6 守るルール 社外へ出す前に必ず上司の承認を取る
7 落とし穴 前年は株主総会の後まで決算が確定せず、提出が期限ぎりぎりになった(確認済)
8 現在の状況 今年分は未着手。銀行の担当窓口は春に交代したと聞いている(推測・要確認)

この型で書いて分かったことが2つあります。記入例の「(確認済)」「(推測)」の書き分けは、1つ目の気づきから来ています。

1つ目は、「確かめたこと」と「まだ仮説のこと」を分けて書く必要があることです。 渡した引き継ぎ書の1本には「所要時間は、発生日時とクローズの日時の差から取る」と書いていました。受け取った側が実データで確かめると、発生からクローズまでは中央値で23日あり、まとめて入力された形跡もありました。つまりこの差は現場での作業時間ではなく、案件が閉じるまでの日数でした。受け手が確かめたので誤った数字は出ませんでしたが、前任者が仮説を事実のように書くと、後任はそのまま信じます。業務カードでは、確認済みの事実と前任者の推測を分けて書きます。

2つ目は、「置き場所」は書く前に確かめる必要があることです。 引き継ぎ書を書くために各フォルダを開くと、2つの案件の資料が互いのフォルダに入れ違っていました。渡す前に入れ替えたので、後任が別の案件のデータを使わずに済みました。

8項目のうち4番の手順は、業務マニュアルと同じ書き方で構いません。手順の粒度のそろえ方は業務マニュアルの作り方で紹介しています。標準作業手順書(SOP)としてきちんと整える場合も、まず業務カードを書いておけば、それが下書きになります。


引き継ぎはどんな順番と期間で進める?

業務一覧 → 3つの穴を埋める → 業務カード → 後任が実際にやる → 社外へ後任を紹介 → 名義を変える、の6段階で進めます。始めるのは退職・異動日の1〜2か月前が目安です。

段階 やること 終わりの条件
1 前任者が業務一覧を作る 全業務が1行ずつ並んでいる
2 上司が3つの穴を埋める 後任欄・次回実施日・承認名義に空欄がない
3 前任者が重要業務の業務カードを書く 8項目が埋まり、事実と推測が分かれている
4 後任が業務カードを見ながら実際にやる 前任者に聞かずに1回終えられた。直した点をカードに反映した
5 社外の相手へ後任を紹介する(同行あいさつ・連絡先変更の通知) 一覧の「社外の相手」全員に連絡済み
6 承認者・権限・名義を変える 変えた日を一覧に記録した

段階4は省略しないでください。前任者が説明して後任がうなずくだけでは、引き継げたかどうかが分かりません。後任が前任者に聞かずに1回やり切れたら完了、と決めておきます。年1回の業務は期間中に回ってこないので、前回の提出物を使って模擬で1回やります。退職の場合は、辞めた後に聞ける相手がいなくなるため、段階4を退職日の2週間前までに終えておきます。始める時期の「1〜2か月前」は、情シス365の退職前チェックリストでも同じ目安が示されています。

上司が定期的に1on1を行っているなら、引き継ぎ期間中は「後任欄の空欄が何件残っているか」を毎回の確認項目にすると、進み具合が数字で見えます。1on1の運用は1on1ミーティングの導入の進め方をご覧ください。

なお、引き継ぎのたびに同じ業務で困る場合は、業務が特定の人に偏っています。根本から直すには業務の属人化を解消する進め方をあわせて進めてください。


よくある質問

Q. 引き継ぎ書はどのくらいの期間で作ればいいですか?
A. 退職・異動日の1〜2か月前から始めるのが目安です。業務一覧を作るより、後任が業務カードを見ながら実際にやる段階に時間がかかります。

Q. 引き継ぎ書はExcelとWordのどちらで作るべきですか?
A. 業務一覧は並べ替えや絞り込みができるExcelなどの表形式、業務カードは文章と画像を入れやすいWordや社内Wikiが向いています。2枚の役割が違うので、形式も分けて構いません。

Q. すべての業務に業務カードを作る必要がありますか?
A. 必要ありません。社外に期限つきで出すもの、承認が絡むもの、年1〜4回の業務を優先します。毎日やる業務は、後任が隣で見て覚えられることが多いからです。

Q. 後任が決まっていないときはどうすればいいですか?
A. 後任欄に上司の名前を仮で入れ、空欄のまま提出しないでください。空欄は「誰も気づかない業務」になります。上司が後で割り振り直せば足ります。

Q. 引き継ぎが終わったかどうかは何で判断しますか?
A. 後任が前任者に聞かずに1回やり切れたかどうかで判断します。説明を受けたかどうかでは判断しません。


まとめ

  • 引き継ぎ書は「業務一覧」と「1業務1枚の業務カード」の2枚構成で作る(業務カードは記入例を参照)
  • 実在の引き継ぎ一覧129業務では、退任者が1人で持っていた23業務のうち、作成時点で後任が書かれていたのは5件。空欄18件のうち15件は年1〜4回と随時の業務で、承認は備考に散らばっていた
  • 業務一覧には「次回の実施日」「社外の相手」「承認・名義」の3列を足し、年1〜4回・随時・承認の3つの穴を上司が埋める
  • 業務カードは8項目。確認済みの事実と前任者の推測を分け、置き場所は書く前に確かめる
  • 引き継ぎの完了は「後任が前任者に聞かずに1回やり切れたか」で判断する

業務改善の全体像は業務改善コンサルティングで紹介しています。手順をそろえて誰でもできる状態にしたい場合は業務標準化の進め方もご覧ください。

無料ダウンロード:業務棚卸しテンプレート

引き継ぎ書の1枚目「業務一覧」は、業務棚卸しとほぼ同じ作業です。業務棚卸しテンプレートを使えば、業務名・頻度・担当を表に並べ、後任と次回の実施日を書き足すだけで引き継ぎ一覧になります。

▶ 業務棚卸しテンプレートを無料でダウンロードする(メールアドレスの登録でお受け取りいただけます)

「部署の業務が特定の人に偏っていて、異動のたびに止まる」「引き継ぎ一覧の空欄をどう埋めるか一緒に整理したい」という場合は、無料相談をご利用ください。


監修者

大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)
業務改善・BPRとPMIの支援に携わる。「現場主義×AI」を掲げ、業務を人からAIへ、人から人へ渡すときほど、渡す前に書いて確かめる仕組みを重視している。社内の作業の受け渡しも引き継ぎ書を書いて行い、その型を検証し続けている。

参考資料

  • HubSpot「【テンプレ付】引き継ぎ書の作り方は?必須項目や作成のポイントを解説」 https://blog.hubspot.jp/marketing/zokujinka-work-transfer-documents
  • mfloow「わかりやすい引き継ぎ書の6つの必須項目や作り方を解説」 https://www.mfloow.com/blog/handover_document_template
  • yuua「引き継ぎどこまで?」(note) https://note.com/yuua_newlife/n/n147a636c3470
  • 情シス365「情シス担当者が退職する前に引き継ぐべき項目チェックリスト」(2026年10月) https://www.josis365.com/blog/joshisu-resignation-handover-checklist/
  • ある企業グループ(5法人)の管理部門の業務引き継ぎ一覧(2023年作成・129業務)を当社で集計(社名・人名は非公開)
  • キュリオシティ株式会社 社内の引き継ぎ書2本(2026年9月作成、設備管理分野の分析案件)


監修者

大槻 伸夫/ 代表取締役 CEO

キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO。「現場主義×AI」を掲げ、業務改善(BPR)・PMI・経営支援・AIプロダクト開発を一気通貫で支援。クライアント現場での実行支援を重視する。

業務改善・PMIのご相談はキュリオシティへ

記事で紹介したテンプレートの配布や、貴社課題に合わせた無料相談を行っています。

BACK TO INDEX