2026.09.15

業務改善

承認フローの見直し方|多すぎるハンコと決裁遅延をなくす設計

※本記事は2026年9月時点の公開情報に加え、当社(キュリオシティ)の業務改善(BPR)支援で得た知見にもとづきます。守秘のため事例はすべて匿名化し、業界・規模・課題・打ち手・成果のみを記載しています。個別の規程・法令の適用は自社の管理部門・専門家にご確認ください。

「見積を1件通すのに、ハンコが7つ要る」「課長も部長も本部長も押すけれど、誰も中身を見ていない」——承認フローが重い会社では、これが当たり前になっています。ワークフローシステムの比較記事は山ほどありますが、ツールを入れても、承認の”数”そのものを減らさなければ決裁は速くなりません。

結論から申し上げます。承認フローの見直しは「①その承認は本当に要るのかを目的から問い直す → ②残す承認を職務権限表で1人1責任に引き直す → ③その上で電子化する」の順で進めます。 遅い承認は、ほとんどの場合「紙だから」ではなく「承認者が多すぎるから」です。本記事では、ハンコが増える力学を解き明かし、当社独自の「承認の4目的仕分け」で消せる承認を見極め、職務権限表の再設計から定着までを、BPR支援の実務知見で具体的に解説します。

この記事の監修:大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)。”現場主義 × AI”を掲げ、製造・商社・金融・サービスなど複数業種で業務改善(BPR)・PMI・生成AI導入を支援。現場に入り、承認フロー・稟議の可視化から権限設計・電子化・AI活用までを一気通貫で伴走している。


承認フローの見直しとは?ツール導入の前にやること

承認フローの見直しとは、申請から決裁までの承認者・順番・条件を、目的にさかのぼって再設計することです。ここで最初に押さえるべきは、見直しには2つの層があり、効果が出るのは前者だという点です。

層 内容 よくある着手 本当の効果
①承認の設計 承認者の数・順番・条件を引き直す 後回しにされがち 決裁が速くなる。統制も締まる
②承認の道具 紙→ワークフローシステムに載せる ここから始めがち 進捗は見えるが、承認者が多いままなら遅い

多くの会社は②から始めます。しかし、10人が順に押す紙の稟議を、10人が順に押す電子稟議に置き換えても、待ち時間は電子化されるだけです。承認フロー見直しで成果を出す会社は、①の設計=「その承認は要るのか」から着手します。道具の載せ替え(電子化)は、設計を直したあとの最後の工程です。電子化そのものの手順は稟議の電子化・効率化で、システム選定はワークフローシステムの選び方で詳しく解説しています。本記事は、その手前の「設計」に絞ります。


なぜ承認は多すぎるのか?ハンコが増える3つの力学

承認者が増えるのは、誰かが悪いからではありません。放っておくと承認は増える一方になる、組織の力学があるからです。当社では、承認肥大を「ハンコが増える3つの力学」として捉えます。

  • ①念のため(不安の外部化) — 「一応、部長にも回しておこう」。判断の責任を分散させたい心理が、意思決定に不要な承認者を1人ずつ足していく。
  • ②責任分散(誰も止めない) — 過去にトラブルがあると「今後は◯◯の承認も必須」とルートに追加される。だが一度増えた承認は、削る人がいないまま残り続ける。増設はされても撤去されない。
  • ③前例踏襲(形骸化した押印) — 「昔からこの順で回している」。目的を誰も説明できないのに、様式に押印欄があるから押す。中身を見ずに押す”素通り承認”が生まれる。

この3つが積み重なると、承認は「意思決定の手段」から「儀式」に変わります。実際、承認が遅い会社の多くは、承認者の数が組織の意思決定に必要な人数を大きく超えています。まず認識すべきは、承認フローの重さは”紙かデータか”ではなく”承認者の数と目的の有無”で決まるということです。原因を人ではなく仕組みで捉える発想は、業務の現状分析(As-Is)のやり方と共通します。


その承認、何のためにある?承認の目的を4つに仕分ける

承認を減らす鍵は、一つひとつの承認に「これは何のための承認か」を問い直すことです。当社では、あらゆる承認を次の「承認の4目的」に仕分けます。目的が言えない承認は、消せる承認です。

目的 何のための承認か 判定
①意思決定 実行するか・いくら使うかを”決める”承認 残す(ただし決める人は1人でよい)
②牽制・不正防止 起案者と別の目で不正・誤りを止める承認 残す(ただし1段で足りる。二重・三重は過剰)
③情報共有 「知っておいてほしい」ための承認 消す(承認でなく”通知・共有”で代替)
④責任分散 「念のため」「昔から」で押している承認 消す(目的が説明できない=不要)

ポイントは、残すべき承認は①意思決定と②牽制の2つだけだということです。③情報共有は、承認(=業務を止めて待つ行為)ではなく、決裁後の通知やダッシュボードでの共有に置き換えられます。④責任分散は、目的そのものが存在しません。この2つを承認ルートから外すだけで、多くの会社は承認段階を半分近くまで減らせます。

「その承認は①〜④のどれか」を1件ずつ問うのが、承認フロー見直しの出発点です。目的が①か②に当てはまらなければ、その押印欄は撤去の候補になります。ムダな工程を「なくす・まとめる・入れ替える・簡素化する」というECRSの4原則を、承認という工程に当てはめた考え方です。


どの承認を消していい?承認の要否を見極める判断軸

「消していい承認」と「残すべき承認」を、感覚でなく基準で切り分けます。前章の4目的をもとに、次の4つの問いを順に当てると、要否がほぼ機械的に決まります。

  1. その承認者は、内容を却下・修正することがあるか? — 過去1年で一度も差し戻していないなら、それは”素通り承認”。意思決定にも牽制にも効いていない(→消す)。
  2. 牽制の目は二重になっていないか? — 経理と課長が同じ金額チェックをしているなど、同じ観点の承認が重複していれば、片方でよい(→まとめる)。
  3. それは「知らせたい」だけではないか? — 承認を止める理由が「見ておいてほしいから」なら、承認でなく通知で足りる(→通知に置換)。
  4. 金額・リスクに見合った階層か? — 数千円の消耗品まで役員が承認していないか。金額が小さい案件は、下位者の決裁で完結させる(→権限を委譲)。

この4問を承認ルートの各ステップに当てると、「残す(①意思決定/②牽制)」「まとめる」「通知に置換」「委譲」のいずれかに振り分けられます。判断の様子は表よりも図にすると合意が取りやすく、承認ルートは業務フロー図の作り方にならって描くと、素通り承認や二重牽制が一目で見えます。

なお、承認の要否とあわせて”承認待ちの時間”そのものを可視化したい場合は、リードタイムと待ち時間を分けて測るバリューストリームマッピング(VSM)が有効です。本記事の「承認の数を削る」と、VSMの「待ちを削る」は、両輪で効きます。


権限設計はどう直す?職務権限表を金額×種別で引き直す

残すと決めた承認は、職務権限表(決裁権限規程)で「誰が・いくらまで・何を決めるか」を金額×種別のマトリクスに引き直します。職務権限規程とは、誰がどの範囲の意思決定権を持つかを定めた社内ルールで、承認ルートはこの規程を根拠に設計されます(参考:職務権限規程とは?作り方をテンプレートで解説|マネーフォワード クラウド)。

引き直しの原則は3つです。

  • 1承認1責任にする — 1つの承認ステップに「決める人」を1人だけ置く。複数人の合議で責任があいまいになるのを避ける。
  • 金額の閾値で階層を分ける — 例えば「10万円未満は課長決裁で完結/100万円未満は部長/それ以上は役員」のように、金額で承認階層を切り替える。少額まで上位者に回さない。
  • 権限を下位へ委譲する — 最終決裁者に承認が集中すると、そこが渋滞の元になる。委譲できる決裁は下位者に移す。これは権限移譲の進め方そのものです。

イメージとして、購買稟議の職務権限表は次のように整理します(自社の実態に合わせて閾値を設定してください)。

金額帯 決裁者(意思決定) 牽制(不正防止) 承認段階数
10万円未満 課長 不要(事後モニタリング) 1段
10〜100万円未満 部長 経理の予算内チェック 2段
100万円以上 役員 経理+(必要時)法務 2〜3段

あわせて、承認者の不在で書類が止まらないよう「代理承認」を必ず設定します。そして重要なのが、職務権限規程は作って終わりにせず、組織変更・人事異動のたびに実態とのズレを点検することです。規程と実態がずれたまま放置されると、監査での指摘対象にもなります。年次での見直しをルール化しておくと、承認フローの形骸化を防げます。


承認フローの見直しはどう進める?(失敗しない5ステップ)

承認フローの見直しは、いきなり職務権限表を書き換えるのではなく、次の5ステップで進めます。①〜③で設計を直し、④〜⑤で道具に載せて定着させる構成です。

ステップ1:承認フローを棚卸しする

まず、社内にどんな承認があるかを洗い出します。「購買」「経費」「契約」「採用」など種類ごとに、承認者・順番・金額帯・平均決裁日数・発生頻度を一覧化します。これは業務そのものを洗い出す業務棚卸しの手順と同じ発想で、承認も”間接業務のひとつ”として棚卸しの対象にします。

ステップ2:承認を4目的に仕分け、要否を判定する

棚卸しした各承認ステップを、前述の「承認の4目的」と「4つの判断軸」に当てて、残す/まとめる/通知に置換/委譲に振り分けます。ここが見直しの心臓部です。素通り承認・二重牽制・情報共有目的の押印を、この段階で洗い出します。

ステップ3:職務権限表を再設計する

残すと決めた承認を、金額×種別のマトリクスで職務権限表に引き直します。1承認1責任・金額閾値・権限委譲・代理承認の4点を織り込みます。決裁権限のあり方は全社の意思決定に直結するため、経営会議の進め方の見直しとあわせて議論できると理想的です。

ステップ4:ワークフローシステムに載せる(電子化)

設計を直したフローを、初めてシステムに載せます。順序が逆にならないよう注意してください——電子化は”速くする施策”ではなく、直した設計を”維持する器”です。載せ方の詳細は稟議の電子化・効率化、選定軸はワークフローシステムの選び方を参照してください。全社一斉ではなく、件数の多い承認(経費・購買)から小さく始めます。

ステップ5:運用ルールを標準化し、点検を回す

申請テンプレート・記載ルール・添付必須項目を標準化して差し戻しを減らし、職務権限規程の年次点検をルール化します。承認フローは一度直して終わりではなく、増える力学に抗って”定期的に間引く”運用が要ります。全体の段取りは業務改善の進め方5ステップと同じ考え方です。


現場の実例|承認印7つのうち、実際に判断していたのは2人だった

私たちがあるBtoB企業(間接部門中心・数百名規模)でBPR支援に入った際、購買稟議の承認フローを棚卸ししました(守秘のため業界・規模・概要のみ。実名・実数は非開示)。この案件で対象にしたのは”承認者の数”です。承認の待ち時間そのものを測って圧縮するVSMの事例とは着眼が異なり、ここでは「その承認は要るのか」を1件ずつ問いました。

1件の発注に、承認印は7つありました。起案者→係長→課長→次長→部長→本部長→役員という直列ルートです。ところが、各承認者に「過去1年で、この稟議を差し戻したことがあるか」を聞くと、実際に内容を却下・修正していたのは2人だけでした。残りの5つは、目的を尋ねても「昔から回っているから」「念のため」としか説明できない——前章でいう③情報共有・④責任分散の押印だったのです。

そこで「承認の4目的」で全ステップを仕分け直しました。意思決定は金額帯に応じて1人(部長または役員)、牽制は経理の予算チェック1段に集約し、情報共有目的だった中間承認は決裁後の自動通知に置き換えました。責任分散で残っていた押印は撤去しました。結果、7段あった承認は2〜3段になり、平均決裁日数も体感で半分以下の水準まで短縮しました(相対値。実数は非開示)。しかも、システムはまだ入れていません。承認の”数”を削っただけで、ここまで速くなったのです。

この事例が示すのは、遅い承認の正体は「時間」ではなく「数」だったということです。ツールを入れる前に「その承認は誰が・何のために押しているのか」を1件ずつ問うだけで、承認の半分以上が消せる会社は珍しくありません。電子化は、こうして削り込んだ設計を維持する”器”として、最後に載せれば十分です。承認者の数を減らすことは、承認ルートの属人化を解消することにもつながります。

なお、この棚卸しと仕分けの下ごしらえは、生成AIで速められます。過去の稟議ログから承認者と差し戻し実績を集計させたり、押印欄の目的を分類する叩きを作らせたりと初速は上がります。ただし「その承認を消してよいか」を最終判断するのは人間です。AIは下ごしらえの道具であり、意思決定を置き換えるものではありません——これが当社の掲げる”現場主義 × AI”の考え方です。全体設計は業務改善コンサルティングの観点で行うと有効です。


承認フローの見直しでよくある失敗は?

  • 設計を直さずに電子化する — 最も多い失敗です。7段の承認をそのまま電子化しても、7段のまま。まず承認の数を削ってから載せます(→間接業務の効率化)。
  • 現場を入れずに管理部門だけで決める — 実際に起案・承認するのは現場です。棚卸し・仕分けの段階から現場を入れないと、「使いにくい」と敬遠され形骸化します。
  • 牽制まで削ってしまう — スピードを求めるあまり、不正防止の承認(②牽制)まで外すのは危険です。消してよいのは③情報共有・④責任分散であって、①意思決定・②牽制は残します。
  • 一度直して放置する — 承認は放っておくと増えます。年次で職務権限規程を点検し、増えた承認を間引く運用をルール化しないと、数年で元の重さに戻ります。

よくある質問(FAQ)

Q. 承認フローの見直しは何から始めればいいですか?
A. システム選びより先に「承認の棚卸し」と「要否の仕分け」から始めます。社内の承認を種類・承認者・金額帯・平均日数で一覧化し、各承認ステップを「意思決定・牽制・情報共有・責任分散」の4目的に仕分けて、情報共有と責任分散の承認を外すのが、失敗しない順序です。

Q. 承認者が多すぎて決裁が遅いです。どう減らせばいいですか?
A. 各承認者に「過去1年で差し戻したことがあるか」を聞いてください。一度も差し戻していない承認は”素通り承認”で、意思決定にも不正防止にも効いていません。目的を説明できない承認は撤去の候補です。あわせて金額の閾値で承認階層を分け、少額は下位者の決裁で完結させます。

Q. 承認フローを電子化すれば承認は速くなりますか?
A. 承認者の数が多いままなら、電子化しても遅いままです。速くなるのは、承認の数そのものを減らし、直列を条件つきで並列化し、進捗を見える化した場合です。電子化は「直した設計を維持する器」であって、電子化それ自体が速さを生むわけではありません。

Q. 職務権限表(決裁権限規程)はどう作ればいいですか?
A. 組織図を整理したうえで、承認事項ごとに「誰が・いくらまで・何を決めるか」を金額×種別のマトリクスにします。1つの承認ステップに決裁者は1人(1承認1責任)、金額の閾値で承認階層を切り替え、委譲できる決裁は下位者に移します。組織変更・人事異動のたびに実態とのズレを点検し、年次で見直します。

Q. 中小企業でも承認フローの見直しはできますか?
A. できます。むしろ承認者が少なく意思決定が近い中小企業のほうが、要否の仕分けと権限委譲の効果が早く出ます。全承認を一度に見直さず、件数の多い経費・購買の承認から小さく始めるのがおすすめです。


まずは「承認を含む業務の棚卸し」から

承認フローの見直しは、システム導入から始めるのではなく、「どんな承認が・誰を通って・何日かかっているか」を書き出すところから始めると、成果が大きく・確実になります。

当社では、そのための「業務棚卸しテンプレート」を無料で配布しています。承認を含む間接業務を洗い出し、承認者のムダ・重複・属人化を見える化するためのフォーマットです。

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監修:大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)
現場主義 × AI を掲げ、業務改善(BPR)・生成AI導入・PMIの支援を手がける。承認フロー・稟議の可視化から、職務権限表の再設計・ワークフローシステム・生成AIを組み込んだ実務改善までを一気通貫で支援。

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監修者

大槻 伸夫/ 代表取締役 CEO

キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO。「現場主義×AI」を掲げ、業務改善(BPR)・PMI・経営支援・AIプロダクト開発を一気通貫で支援。クライアント現場での実行支援を重視する。

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