2026.10.05

経営支援

働き方改革の進め方|残業削減と生産性を両立させる中小企業の実務

※本記事は2026年10月時点の公開情報(厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」「働き方改革推進支援助成金」)と、当社が2026年9月に支援先の工数調査・対応記録を分析した結果にもとづきます。支援先が特定されないよう、業種と比率のみを記載しています。

「ノー残業デーを始めたのに、結局みんな水曜以外に残っている」「残業を減らせと言ったら、管理職だけが遅くまで残るようになった」——働き方改革に取り組んだ中小企業の経営者から、よく聞く声です。

働き方改革は、時間のルールを先に締めるのではなく、残業の発生源を業務から特定して仕事を減らし、その後に時間を締める順番で進めます。

仕事の量が変わらないまま時間だけを締めると、残業は消えずに「見えない場所」へ移ります。この記事では、中小企業が守るべき法律の要点、時間ルール先行の改革が形骸化する理由、当社の工数分析で見えた「残業の発生源」、そして発生源から締める5つのステップを解説します。


働き方改革で、中小企業がまず守るべきルールは何?

法律で義務になっているのは「残業の上限」「年5日の有給取得」「月60時間超の割増率50%」の3点です。いずれも中小企業にもすでに適用されており、「これから準備する」段階ではありません。

ルール 中身 中小企業への適用
時間外労働の上限規制 原則 月45時間・年360時間。特別条項があっても年720時間以内、休日労働を含め月100時間未満、2〜6か月平均80時間以内 2020年4月から
年次有給休暇の取得義務 年10日以上付与される人に、年5日を取得させる 2019年4月から
月60時間超の割増賃金率 月60時間を超える時間外労働は50%以上(深夜帯と重なると75%以上) 2023年4月から

出典:厚生労働省「時間外労働の上限規制 わかりやすい解説」ほか。建設業・自動車運転・医師は2024年4月から別の上限が適用されています(厚生労働省)。

このほか、正社員と非正規社員の不合理な待遇差を禁じる「同一労働同一賃金」(中小企業は2021年4月から)や、テレワーク・フレックスタイムなど柔軟な働き方も働き方改革の柱です。本記事では、中小企業で最も相談の多い残業削減に絞って進め方を解説します。

上限規制には罰則(6か月以下の拘禁刑または30万円以下の罰金)があります。また月60時間超の割増率50%は、残業が多い会社ほど人件費を直接押し上げます。働き方改革は「福利厚生の話」ではなく、法令順守と人件費の両方に効く経営課題です。

労働時間を客観的に記録する仕組み(勤怠管理)が整っていない場合は、ここが最初の一歩です。選び方は「勤怠管理システムの選び方」で解説しています。


なぜ「ノー残業デー」だけの働き方改革は形骸化するのか?

時間のルールは「仕事の量」を1分も減らさないからです。量が同じまま時間を締めると、残業は持ち帰り・早朝出社・管理職への集中という形で、見えない場所に移るだけです。

上位の解説記事の多くは、ノー残業デー・残業の事前申請制・定時退社の呼びかけを打ち手に挙げます。どれも間違いではありません。ただ、当社が業務改善の現場で見てきた失敗には、共通の順番の誤りがあります。

  1. 経営者が「残業を月◯時間まで減らす」と宣言する
  2. ノー残業デーや事前申請制を始める
  3. 仕事の量と段取りは変わらない
  4. 期限に間に合わせるため、申請しない残業(持ち帰り・休憩中の作業)が増える
  5. 部下の残業を減らした分、管理職が自分で引き取る
  6. 数字上は残業が減ったが、管理職が疲弊し、半年ほどで元に戻る

この失敗の根は、「なぜ残業が生まれているのか」を確かめないまま、時間の蛇口だけを閉めたことにあります。残業は結果であり、原因は業務の側にあります。だから働き方改革は、業務改善とセットで進めないと続きません。


残業はどこから生まれる?当社の工数分析で見えた3つのこと

同じ職種でも拠点によって時間の使い方は真逆になり、必要人数を決めていたのは作業時間ではなく発生件数でした。残業は「人が遅い」からではなく、業務の構造から生まれます。

当社は2026年9月、ビル・施設の設備管理を担う企業の業務改善を支援し、複数拠点の工数調査票と、夜間の緊急対応の記録を分析しました。働き方改革の進め方を考えるうえで、示唆の大きかった3点を紹介します。

発見①:同じ職種でも、拠点によって時間の使い方は真逆だった

同じ「設備管理の作業者」でも、ある拠点では時間の約8割が故障・不具合への突発対応、別の拠点では約8割が点検などの定常業務でした。分かれ目は、点検を自社で行うか外部に委託するかです。点検に割く時間には10倍以上の開きがありました。

同じ職種でも拠点によって時間の使い方は真逆だった
同じ職種でも拠点によって時間の使い方は真逆だった

これは働き方改革の打ち手に直結します。突発が8割の拠点で「点検の手順を効率化」しても残業は減りませんし、定常が8割の拠点で「不具合の報告書を自動化」しても効果はわずかです。実際、突発型の拠点では「現地確認・原因調査・報告書作成」が作業者の最大の業務でしたが、定常型の拠点ではこの工程がほぼゼロでした(点検中に見つけて、その場で直して完結するため)。全社一律の施策を全社の効果として積むと、効果を過大に見積もります。

発見②:工数アンケートは「総枠に合わせて」答えられていた

ある拠点の回答は、合計がぴったり「月160時間×人数」に一致し、「その他(数字調整)」という行までありました。積み上げた実績ではなく、所定の枠に合わせて按分された回答だった可能性が高い、ということです。この書き方では、残業の時間はそもそも票に出てきません。

さらに、拠点によって「1人分で記入」「チーム合計で記入」と記入単位が違い、票の項目も拠点ごとに違いました。そのまま並べると、0時間が「やっていない」のか「票に項目が無い」のか区別できません。当社は全員を1人あたり月160時間に換算し直し、時間数ではなく比率で比べることにしました。工数の調べ方は「業務量調査のやり方」でも解説しています。

発見③:夜間対応の人数を決めていたのは「時間」ではなく「発生件数」

夜間の緊急対応について、何人体制が必要かを試算しました。1件あたりの移動時間・現地作業時間の前提を上下に振っても、必要人数の振れは小さいものでした。一方で、物件あたりの年間発生件数は、設備の監視方式によって20倍以上の開きがありました。人数(=夜間の拘束時間)を決めていたのは、作業の速さではなく発生件数だったのです。

また、遠隔で警報を受けて経過観察で済ませる仕組みがある物件では、警報のおよそ3分の1は現地に行かずに完結していました。突発対応の残業を減らす本命は「速く直す」ではなく「行かずに済む件数を増やす」ことだと分かります。


働き方改革の進め方は?残業の発生源から締める5ステップ

当社では、残業を「定常」「突発」「偏り」の3つの発生源に分け、発生源ごとに打ち手を選んでから、最後に時間のルールを締める順番で進めます(残業の発生源3分類)。

発生源 典型的な姿 効く打ち手
定常(量が多い) 毎日・毎月決まって発生する作業が所定時間に収まらない やめる・減らす・まとめる(ECRS)、外注、ツール化
突発(読めない) 故障・クレーム・急な依頼で予定が崩れる 発生件数を減らす、一次対応を遠隔・窓口に寄せる、当番制
偏り(人に集まる) 特定の人・管理職だけが遅くまで残る 手順の標準化、権限移譲、承認の簡素化

ステップ①:残業の実態を「誰に・いつ」で押さえる

まず勤怠データで、部署別・個人別・月別の残業時間を並べます。見るのは平均ではなく偏りです。「全員が少しずつ多い」のか「特定の数人が突出している」のか「決算月だけ多い」のかで、次に調べる場所が変わります。月45時間・月60時間を超えている人は、法令と割増率の面から最優先です。

ステップ②:業務を可視化し、時間を3つの発生源に仕分ける

残業の多い部署から、業務の一覧と1人あたりの時間を集めます。このとき発見②の落とし穴を避けるため、記入単位(1人分かチーム合計か)と票の項目を全員でそろえ、所定時間に収める按分ではなく実績で書いてもらうことが大切です。集めた時間を、定常・突発・偏りに仕分けます。業務の洗い出し方は「業務可視化のやり方」が参考になります。

ステップ③:発生源ごとに、仕事そのものを減らす

拠点や部署で発生源が違えば、打ち手も違って当然です。発見①のとおり、一律の施策を全社展開しないことがポイントです。

ステップ④:仕事を減らしてから、時間のルールを締める

減らした仕事の分だけ、時間のルールを締めます。36協定の上限の見直し、ノー残業デー、残業の事前申請、勤務間インターバルなどは、このタイミングで入れると「守れるルール」になります。順番を逆にすると、冒頭の形骸化が起きます。勤務間インターバルや労働時間の短縮には、厚生労働省の「働き方改革推進支援助成金」が使える場合があります(令和8年度の要件・締切は必ず最新の公募要領で確認してください)。

ステップ⑤:残業と成果を、月次で一緒に測り直す

残業時間だけを追うと、「仕事を断る」「品質を落とす」でも数字は良くなります。残業時間と、売上・粗利・処理件数などの成果を同じ表で毎月見ることで、生産性が上がったのか、仕事が消えただけなのかを判別できます。業務改善全体の回し方は「業務改善の進め方5ステップ」で解説しています。


残業削減と生産性を両立できたかは、何で測る?

「残業時間」「1人あたりの成果」「偏り」の3つを同時に見ます。残業だけが減って成果も減っていれば、それは改革ではなく縮小です。

見る指標 例 読み方
残業時間 部署別・個人別の月間時間外労働、月45時間・60時間超の人数 法令リスクと割増コストの管理
成果あたりの時間 1人1時間あたりの粗利、1件あたりの処理時間 生産性が上がったかの判定
偏り 上位3人の残業が部署全体に占める割合、管理職の残業時間 部下の残業が管理職に移っていないかの確認

生産性の計算方法そのものは「生産性向上とは?」で詳しく解説しています。


働き方改革でつまずく会社の共通点は?

つまずく会社は、目的・測り方・展開の仕方のどこかで「時間」だけを見ています。

つまずき 起きること 回避策
時間ルールから始める 持ち帰り・管理職への集中 仕事を減らしてから締める(ステップ④)
全社一律の施策 効く部署と効かない部署が混ざり、効果を過大に見積もる 発生源を部署・拠点ごとに仕分ける
工数票をそのまま集計 按分回答で残業が見えない/記入単位の違いで比べられない 記入単位と項目をそろえ、比率で比べる
突発対応を「速く」で解こうとする 現場の負担感が増すだけで件数は減らない 発生件数を数え、行かずに済む仕組みを作る
残業時間しか測らない 成果が落ちても気づかない 成果あたりの時間を一緒に見る

よくある質問(FAQ)

Q. 働き方改革は何から始めればいいですか?
A. 勤怠データで「誰が・いつ」残業しているかを並べることから始めます。そのうえで残業の多い部署の業務を可視化し、定常・突発・偏りに仕分けてから打ち手を選びます。

Q. 中小企業にも残業の上限規制は適用されていますか?
A. はい。2020年4月から中小企業にも適用されており、原則は月45時間・年360時間です。月60時間超の割増率50%も2023年4月から中小企業に適用されています。

Q. ノー残業デーは効果がないのですか?
A. 仕事の量を減らした後に入れれば効果があります。量が同じまま始めると、他の曜日や持ち帰りに残業が移るだけになりやすいです。

Q. 残業を減らすと売上が下がりませんか?
A. 定常業務のムダや属人化による偏りを減らせば、売上を保ったまま残業を減らせます。残業時間と成果あたりの時間を同じ表で毎月確認し、成果が落ちていないかを見ることが大切です。

Q. 働き方改革に使える助成金はありますか?
A. 厚生労働省の「働き方改革推進支援助成金」に、労働時間短縮や勤務間インターバル導入などのコースがあります。要件と締切は年度ごとに変わるため、最新の公募要領で確認してください。


まとめ:働き方改革は「仕事を減らしてから時間を締める」

  • 中小企業にも、残業の上限規制・年5日の有給取得・月60時間超の割増率50%がすでに適用されている
  • 時間のルールから始めると、残業は持ち帰りや管理職へ移るだけで形骸化しやすい
  • 当社の工数分析では、同じ職種でも拠点で時間の使い方が真逆になり、夜間対応の人数を決めていたのは発生件数だった
  • 残業を「定常・突発・偏り」の3つの発生源に仕分け、発生源ごとに仕事を減らしてから時間を締める
  • 残業時間と成果あたりの時間を、月次で一緒に測り直す

働き方改革を中期の経営課題として位置づけ、人員計画や投資と一体で進めたい場合は「中期経営計画・経営支援コンサルティング」もご覧ください。

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キュリオシティは「現場主義 × AI」で、業務の可視化から残業の発生源の特定、業務削減と仕組み化までを伴走します。「どの部署から手をつければよいか分からない」という段階からご相談いただけます。

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監修:大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)


監修者

大槻 伸夫/ 代表取締役 CEO

キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO。「現場主義×AI」を掲げ、業務改善(BPR)・PMI・経営支援・AIプロダクト開発を一気通貫で支援。クライアント現場での実行支援を重視する。

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