「会社が大きくなってきたので経営企画を置きたい。でも、何から任せればいいのか分からない」。社長や管理部長から、よくいただく相談です。
経営企画の立ち上げは、中期経営計画より先に「毎月の数字が合っている」と証明できる状態を作ることから始めます。
経営企画の最初の成果物は、計画書ではなく「検算表」と「判断待ちリスト」の2枚です。
計画も会議も、数字が合っていることを前提に動きます。土台の数字がずれたまま計画を作ると、議論の時間が「どの数字が正しいか」の確認に消えます。この記事では、立ち上げを考えるべきタイミング、組織のどこに置くか、任せる人の選び方を整理し、当社が「経営企画立ち上げの4段階(数字→決める場→計画→横串)」と呼んでいる1年の進め方を紹介します。あわせて、当社が経営企画の機能を内製してきた中で実際に起きた「数字の事故」も、そのまま書きます。
監修:大槻 伸夫(キュリオシティ株式会社 代表取締役CEO)。当社の副社長兼COOとして経営計画・KPI設計・PL/BS設計を担当し、2026年6月に代表に就任。自社の経営企画機能(資金繰り・管理会計・人事制度・経営会議)を専任部署を置かずに内製で立ち上げている。中堅・中小企業の経営計画・業務改善・PMI・生成AI導入も支援。
経営企画部門を立ち上げるとは、何を作ることなのか?
経営企画部(経営企画室)を立ち上げるとは、「社長の頭の中にある判断」を、数字と会議と計画で会社の仕組みに置き換えることです。 部署の看板を掛けることではありません。
経営企画の仕事の範囲は会社によって違います。経営企画を0から立ち上げた角田剛史氏のnoteでは、計画策定・予実管理・業務改善・システム導入・組織変更と人員配置・資金調達と資本政策の6つに整理されています。当社ではこれに「経営会議の運営」を足し、立ち上げ期の持ち方に合わせて次のように組み替えています。
| 機能 | 中身 | 最初の1年で |
|---|---|---|
| 予実管理・管理会計 | 月次の実績と予算の差を見て、見込みを更新する | 必ず持つ(最初に作る) |
| 経営会議の運営 | 議題・資料・決定の記録を回す | 必ず持つ |
| 計画策定(予算・中期計画) | 年に1回、次年度の「地図」を作る | 持つ(後半で作る) |
| 組織変更・人員配置 | 部門をまたぐ課題・体制の見直し | 全社プロジェクト1本の事務局として持つ |
| 業務改善・システム導入 | 仕組みと道具を整える | 数字の土台に関わる分だけ持つ |
| 資金調達・資本政策 | 銀行・投資家の窓口 | 社長と財務が持ち、経営企画は資料で支える |
ポイントは、全部を一度に持たないことです。立ち上げ直後の経営企画は、たいてい1人か兼任です。6つ全部を抱えると、どれも中途半端になります。
経営企画はいつ立ち上げるべき?5つのサイン
目安は「社員100人を超えたら」か「事業が複数になったら」ですが、本当の判断基準は規模ではなく、次の5つのサインが出ているかどうかです。
角田氏の別のnoteでは、立ち上げを考えるべきサインとして次の5つが挙げられています。
- 事業計画の数字が粗い、または間違っている
- 事業計画の数字が、いつの間にか現場で変わっている
- 計画との差が、誰にも気づかれていない
- 決めたことが浸透せず、形だけになっている
- 施策が部門ごとの部分最適になっている
当社の支援現場の感覚では、このうち1〜3(数字のサイン)が出ているなら、規模にかかわらず着手してよいと考えています。4・5(組織のサイン)は、数字が整ってからでないと手が打てないからです。社員が数十名でも、社長が数字を毎月自分で集計して疲れているなら、それは立ち上げのサインです。
経営企画の最初の1年は何からやる?「立ち上げの4段階」
最初の1年は、四半期ごとに「①数字を合わせる→②決める場を作る→③計画を作る→④横串を通す」の順で進めます。 計画を後半に回すのが、この4段階の一番の特徴です。

当社もこの順で進めています。2026年の夏から秋にかけて、まず資金繰りと管理会計の数字を通帳と突き合わせて合わせ、そのあとで人事制度の見直しや会計ソフトとのつなぎ込みといった「決める論点」に進みました。論点は番号付きの一覧にして、決まったものから消し、決めた内容は記録に残しています。計画づくり(③)と全社プロジェクト(④)は、これから進める段階です。
① 1〜3か月目:数字を合わせる
月次の売上・利益・現預金が、通帳や会計の数字と検算で一致していることを毎月示せる状態を作ります。当社ではこのための確認項目の一覧を「検算表」と呼んでいます。あわせて、社長と幹部に30分ずつ話を聞き、誰かが決めないと止まっている論点を一覧にした「判断待ちリスト」(これも当社の呼び方です)を作ります。これが2段階目の会議の議題の元になります。資金の動きは資金繰り表の形で月次に揃えると、検算の相手が決まります。
② 4〜6か月目:決める場を作る
経営会議に「報告・討議・決定」の区分と決定の記録を入れ、判断待ちリストを毎回減らします。予実は月1回、差の理由と打ち手をセットで報告します。会議の型は経営会議の進め方、予実の回し方は予実管理のやり方で解説しています。見る指標はこの段階で3〜5個に絞り、経営ダッシュボードにまとめます。
③ 7〜9か月目:計画を作る
半年分の実績と決定の記録がそろってから、次年度の予算と中期計画に取りかかります。過去の実績が合っているので、「来期はいくらできるか」の議論を実績から始められます。手順は予算編成の進め方と中期経営計画の策定手順を参照してください。
④ 10〜12か月目:横串を通す
部門をまたぐ全社プロジェクトを1本だけ事務局として回し、経営企画が「部門の間をつなぐ役」であることを社内に見せます。最後に、2年目の体制(専任化するか、採用するか、外部を使うか)を社長と決めます。
なぜ計画より先に数字なのか?当社の内製化で起きた3つの事故
数字が合っていないと、経営企画の報告そのものが経営判断を誤らせるからです。 当社は経営企画の専任部署を置かず、集計や突き合わせを生成AIに手伝わせながら、資金繰り・管理会計の仕組みを内製で作ってきました。その中で、実際に次の3つが起きました。
| 起きたこと | 実際は | 学び |
|---|---|---|
| 会計ソフトと管理表を突き合わせ、「1か月分の売上が丸ごと欠けている」「全体の差もかなり大きい」と報告された | その月の差は0円。期間で絞り込む条件の書き方(月を表す文字と日付の比べ方)が原因で、その月だけが集計から外れていた。全体の差も、実際は報告した額の半分以下だった | 合計の前に、両側の件数と期間の端を確認する。条件の書き方ひとつで行は静かに落ちる |
| 1年分の売上を会計ソフトと突き合わせたら、6%ほどの差が出た | 4月と5月の差は互いに打ち消し合う「計上月のずれ」。本当の原因は特定の2か月の入力漏れで、確認したほかの月は、差が0円から十数万円に収まっていた | 差は合計で語らず、月ごとに分けて「ずれ」と「漏れ」を分ける |
| 取引先と案件のコードを、9日前に調べた番号の続きで振ったら、別の担当者が画面から登録した番号と重なった | 集計が狂い、営業利益が本来の約4倍に出た。その数字で税金の試算までしてしまい、やり直した | 番号は登録の直前に取り直す。仕組み側で重複を弾く(その後、重複を受け付けない設定を入れた) |
3つとも、エラーは一度も出ませんでした。1つ目と3つ目は、生成AIに集計を手伝わせる中で「もっともらしい数字」として出てきた誤りで、2つ目は突き合わせて初めて見えた本物のずれです。どちらも、別の数字と突き合わせなければ気づけませんでした。もし検算の仕組みがないまま中期計画を作っていたら、間違った利益を前提に投資や採用を決めていたかもしれません。なお、自社の別口座への振替を「資金の流出」と読み違えかけた例は、資金繰り表の作り方で紹介しています。
この経験から、当社では「月末の残高が通帳と差0円」「件数と分類が元データと一致」など、合っていることを示す検算の項目を決めて、数字を更新するたびに確認しています。会計ソフトとのつなぎ込みも、「未確定の取引0件・残高の差0円・損益の差0円」を合格条件に置いて検討しているところです。経営企画の最初の3か月は、この検算表を作る期間だと考えてください。管理会計の仕組みづくりは管理会計の導入手順で解説しています。
経営企画は組織のどこに置く?社長直下と管理部の中の違い
立ち上げ期は、社長直下に置くのが基本です。 経営企画の価値は「社長の判断の材料を、部門の利害から離れて揃えること」にあるため、どこかの部門の中に置くと、その部門の立場で見られてしまいます。
| 置き場所 | 情報の集まりやすさ | 部門からの見え方 | 向いている場面 |
|---|---|---|---|
| 社長直下(社長室・経営企画室) | 社長の論点が直接入る。部門の情報は取りに行く必要がある | 「社長の代理」に見えやすい。聞く姿勢で中立を示す | 立ち上げ期の標準 |
| 管理本部・管理部の中 | 経理の数字はすぐ入る。営業・現場の情報が遠い | 「管理部の一部」に見え、事業部が本音を出しにくい | 予実管理を中心に始める場合 |
| 役員の兼任(部署なし) | 兼任する役員の担当領域に偏る | 担当役員の部門の味方に見える | 社員数十名まで。まず形を作る段階 |
当社は社員十数名規模のため、部署を置かず代表の私が兼任しています。その代わり、資金繰りと管理会計は「経理部長」、評価や報酬の制度は「人事部長」と機能ごとに役割の名前を付けて、生成AIの専門家エージェントに下ごしらえをさせ、判断は私が行う形にしています。人を1人置く前に、機能に名前を付けて持ち主を決めるだけでも、抜け漏れはかなり減ります。
経営企画は誰に任せる?人材の選び方とよくある失敗
最初の1人は、数字に強い人よりも「社長の近くにいて、現場の話を聞ける人」を選びます。 数字の作業は仕組みと道具で補えますが、社長と現場の両方から信頼される立ち位置は後から作れないからです。
| 選び方 | 向いている場面 | 注意点 |
|---|---|---|
| 社長・役員が兼任 | 社員数十名まで。まず形を作りたい | 社長の時間が足りなくなる。数字の集計は早めに手放す |
| 社内の管理部門・営業からの異動 | 社内事情に詳しい人がいる | 元の部門の立場が残る。「経営企画は全社の味方」と社長が言葉で示す |
| 経験者の採用 | 計画・予算の型がない/上場や資金調達を控える | 社内の信頼がない状態から始まる。最初の3か月は聞く役に徹してもらう |
| 外部の専門家と組む | 型を早く入れたい/専任を置く前に試したい | 任せきりにすると、仕組みが社内に残らない |
求められる力として、角田氏のnoteでは「巻き取り力・プロジェクトマネジメント力・現場理解力・整理整頓力・コミュニケーション能力」が挙がっています。私はこれに「決めない勇気」を足したいと考えています。経営企画は判断の材料を整える役で、決めるのは社長と経営会議です。
立ち上げでよくある失敗は、次の3つです。
- 計画書だけ作って終わる:数字の検算がないまま中期計画を作り、半年後には誰も見なくなる
- 社長の秘書になる:資料作りと日程調整に追われ、判断待ちリストが1件も減らない
- 元の部門の代弁者になる:異動元の部門に有利な数字の見せ方をして、他部門から信頼されなくなる
経営企画が「何でも屋」で終わらないためには?
持ち込まれた仕事をすべて記録し、「受ける・返す・後で」を社長と月1回仕分けることです。 これをしないと、経営企画は「担当が決まらない仕事の受け皿」になります。
Xでも「経営企画は何でも屋業務。主な業務は予実管理を中心とした管理会計と、投げ所がわからないプロジェクト企画推進」という声があります(中野仁氏の投稿)。noteでも「経営企画は『何でも屋』か」という問いが繰り返し書かれています。投げ所がない仕事が集まること自体は、経営企画の価値でもあります。問題は、それで数字と会議の仕事が止まることです。
当社で効いたのは、次の2つです。
- 判断待ちを番号で管理する:たとえば人事制度の見直しでは、決めるべき論点を「D1」「D2」…と番号を振って一覧にし(現在は十数件)、決まった順に消す運用にしています。番号があると「どこまで決まったか」を誰でも追えます。
- 道具を入れる前に、合格の条件を数字で決める:会計ソフトとのつなぎ込みの検討では、作業時間の削減より数字の正確さを判断の軸にし、合格条件を先に決めました。
担当の境目があいまいな仕事は、業務分掌で持ち主を決めて経営企画から返します。
生成AIは経営企画の人手不足をどこまで補える?
集計・資料の下書き・調査の一次整理は生成AIに任せられますが、検算と判断は人が持ちます。 立ち上げ期の経営企画が1人でも回るのは、この切り分けができたときです。
上で挙げた事故のうち2つは、生成AIに集計や突き合わせを手伝わせている最中に「もっともらしい数字」として出てきたものでした。生成AIを使うほど作業は速くなりますが、そのぶん別の数字と突き合わせる検算の重要性は上がります。経営企画での具体的な使い方は経営企画の生成AI活用にまとめています。
よくある質問(FAQ)
Q. 経営企画は何人から始めればいいですか?
A. 1人か兼任で始めて問題ありません。最初の1年は数字と経営会議の2つに絞れば1人でも回ります。全社プロジェクトや計画づくりが増えてきた2年目に、専任化や増員を判断します。
Q. 経営企画と経理・財務の違いは何ですか?
A. 経理・財務は過去の取引を正しく記録し、お金を管理する部門です。経営企画はその数字を使って、これからの計画と判断の材料を作る部門です。立ち上げ期は経理と同じ数字を見るので、検算の項目を一緒に決めておくと揉めません。
Q. 経営企画の最初の1年の成果は何で測ればいいですか?
A. 検算表の項目がすべて合った月の数、判断待ちリストが決定に変わった件数、決定の記録のうち実行まで進んだ割合の3つで測ります。本文で使う道具をそのまま物差しにすると、評価のための資料作りが増えません。
Q. 経営企画を立ち上げるのに、どれくらいのコストがかかりますか?
A. 大きいのは人件費で、専任を1人置くか、兼任にするか、外部と組むかで変わります。最初の1年は兼任か外部で数字と会議の型を作り、2年目に専任化を判断すると、型が無いまま人を採る失敗を避けられます。
Q. 中小企業にも経営企画部門は必要ですか?
A. 部署としては不要でも、機能としては必要です。社長が毎月自分で数字を集計している、決めたことが現場に伝わらないといったサインがあれば、兼任でも機能を置く価値があります。
まとめ:経営企画の最初の成果物は、計画書ではなく検算表と判断待ちリスト
- 経営企画の最初の成果物は、計画書ではなく検算表と判断待ちリスト。中期計画より先に、毎月の数字が合っていることを示せる状態を作る
- 立ち上げのサインは規模ではなく、数字が粗い・変わっている・差に気づかないの3つが出ているかで判断する
- 立ち上げ期は社長直下に置く。部署を置けない規模なら、機能に名前を付けて持ち主を決める
- 最初の1年は「経営企画立ち上げの4段階(数字→決める場→計画→横串)」で、四半期ごとに1段ずつ進める
- 経営企画は決める役ではなく、決める材料を整える役。持ち込まれた仕事は「受ける・返す・後で」を月1回仕分ける
経営企画の立ち上げを含む支援内容は中期経営計画・経営支援コンサルティングで紹介しています。
経営企画の立ち上げを、自社だけで進めるのが不安な方へ
キュリオシティでは、検算表・経営会議の型・判断待ちリストづくりから、経営企画機能の立ち上げを現場に入って支援しています。「まず何から手を付けるべきか」を整理するだけでも構いません。
